非常事態時の教育とその先を考える:著作権の柔軟性を最大化するために

Brigitte Vézina
Brigitte Vézina
Cable Green
Cable Green

2020年3月31日

世界規模の健康危機により、教育リソースへの普遍的なアクセスを支えるポリシーの必要性がより明確になっている

COVID-19のパンデミックは学習者の生活に大きな混乱をもたらしている。世界の学生の半数に当たる10億人を超える学生がウイルスの拡散を防ぐための、学校や大学の休校に直面している。結果として多くの教育機関はオンライン教育にシフトしている。一部の教育者は既にある自身の教材をオンラインに載せることができるが、その他の教育者にとってオンラインへの移行は、他の人が作成した教材へのアクセスと、それを永続的に利用、翻案するための法律上の権利を必要とする。これは教育者と学生が著作物を教育目的で自由にかつ合法的に利用するために、オープン教育リソース(OER)へのアクセスと例外・制限規定(L&E)の両方が幅広く存在することが不可欠であることを示している。

オープン教育リソース(OER)とは、(a)パブリックドメインに存在する、または(b)すべての人が自由かつ永続的に5R(retain:保持、reuse:再利用、revise:改変、remix:リミックス、redistribute:再配布)を行えるようにライセンスされた教育用、学習用、研究用資料のことである。

教育のための例外・制限規定(L&E)は、教育目的であれば(対価支払いの有無にかかわらず)著作権者からの承諾を得ずに著作物を利用することを可能とする。L&Eは著作物を利用する際の、権利者と利用者双方の利益の適切なバランスを保つために存在する。教育関連のL&Eは地域によって異なり、一般的に、学習、指導、私的または個人的な利用、引用といった特定の利用方法を許可する。国によっては、これらの利用方法はフェアディーリングまたはフェアユースの法理のもとで許容されている。これらは通常、複製、出版、実演、および(オンライン上のものを含む)通信の権利について、そして技術的保護手段の実装について適用される。教育目的の複製と翻案については強制許諾の規定を設けている法律も存在する。教育目的の著作権の活用を目的とするL&Eの適用や政策は利用者にも作者にも有益をもたらすものである

より公平で、アクセスが容易で、イノベーティブな世の中を作るという使命に従い、クリエイティブ・コモンズはオープン教育を長らく支持しており、またOERの作成、共有、利用を支援するための法的な基盤を提供している。そして著作物の教育目的での利用に関する制限と例外の範囲を広げることも支持してきた。

教育へのアクセスが日々の課題である状況で

多くの学習者や教育者にとって、特に低所得国では、日頃から教育教材を入手することが困難である。高額な教材、複雑な著作権規定と例外など、数々の障壁により、多くの学習者が教育を受ける基本的人権を認められていない。

現在の伝染病による緊急事態とそれが学習機会にもたらす混乱は、この問題に注意を向ける機会となっている。図書館員はフェアユース規定の寛容な解釈を呼びかけており、教育者や教育機関は広くOERを共有しており、民間の出版社は一部の教材を期間限定で無料で提供している。

教員および学習者が効果的な教材にアクセスできるよう支援することは世界的な健康危機において確実に有益だ。そしてそれは危機が去った後も必要だ。オープン教育は一過性の問題に対する短期的な応急処置ではない。公平で、包括的で、効果的な教材と学習機会へのアクセスを保証するための長期的な解決策なのだ。

オープンサイエンスがより良い科学であるように(世界中でワクチン開発のためにCOVID-19に関する研究を共有している)、オープン教育はより良い教育である。これは今回の危機で始まったことではないが、世界の子どもたちが頼りにしている教育制度に一層の強靭さを与えるために、限られた資源の中でより賢く、より責任を持たなければならないことを再認識させてくれた。

今こそ政府はオープン教育ポリシーと教育目的の制限と例外規定を採用することが重要だ

今回の危機は、世界中で公的な教育制度に改善の余地があることを皆が気づく機会でもある。

オープン教育ポリシーは、教育資料の資金を提供した市民がその資料へアクセスできるように、公的資金により作成または調達されたコンテンツがCCライセンスのもと、またはパブリックドメインで公開されることを保証する。ユネスコのOER勧告では、政府が行うべき施策として以下の事柄を挙げている。

  • 公的資金により開発された教材をオープンライセンスとするか、適当な場合はパブリックドメインとすることを推奨し、また、ポリシーの導入と評価を行うため、資金や人材を財政割り当てられるよう、政策や規制の枠組みを作り、実施すること
  • 全てのステークホルダーが、ソースファイルやアクセス可能なOERをオープンファイルフォーマットを用いて公的なレポジトリで公開することを支援し、そのための動機づけの仕組みを開発すること
  • OERポリシーを国の政策枠組みに埋め込み、オープンアクセス、オープンデータ、オープンソースソフトウェア、オープンサイエンスといった、その他のオープンポリシーやガイドラインと連携させること

クリエイティブ・コモンズは、各国政府がこれらを含むオープン教育ポリシーを作成、採用、実施することを支援するために、Dynamic Coalition for the UNESCO OER Recommendation(UNESCO OER 勧告のためのダイナミックな連合)と、オープン教育NGOのネットワークに参加した。

幅広い制限と例外規定は、教育者および学習者が権利者からの許可を得ることなく、合法的に著作権のある資料へアクセスし利用することを可能とする。

国際的なレベルでは、WIPOの著作権と著作権に関連する権利の常設委員会(SCCR)著作権と著作権に関連する権利の内容に関する議論が行われるフォーラムである。L&EはSCCRのアジェンダに2004年から載っており、その議題は教育活動の他に、図書館とアーカイブ、障がい者、特に(2013年のマラケシュ条約で見られるように)視覚障がい者の分野にフォーカスしている。クリエイティブ・コモンズはWIPO関連の活動に積極的に関わっており、SCCRに対してL&Eについて公式の声明を出している。

クリエイティブ・コモンズでの政策系の活動を通じて、私達は時代遅れとなった著作権制度からデジタル環境に適応していくことを目標とした(世界的、地域的、国家的な)法的・政策的イニシアティブを支援する。これはユーザーがオンラインでの利用、特にオンライン教育の文脈での幅広く明確なL&Eの恩恵を受け、デジタルテクノロジーによって提供される可能性を活用できるよう保証することを含む。これにより教育者と学習者が、不当な、時代遅れな、あるいは不適切な著作権ルールによる不当な妨害を受けることない快適な学習体験を享受することができる。

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👋COVID-19の拡大を食い止めるためにWHOがまとめているとおり、20秒以上の手洗いや、密集・密接を避けることなどを実践しましょう。

このブログ投稿は Brigitte Vézina と Cable Green による“Education in Times of Crisis and Beyond: Maximizing Copyright Flexibilities″を翻訳したものです。

(担当:豊倉)