クリエイティブ・コモンズ・ジャパンは、2023年1月15日に「クリエイティブ・コモンズの現在地、シェアの未来」と題したイベント を開催いたしました。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのローンチの20周年を記念したものです。
クリエイティブ・コモンズ・ジャパンのメンバーを中心にパネルディスカッション形式で開催したトークセッションと近隣の会場で開催した懇親会で多岐に渡る議論を行いました。そこで登場した論点・意見のいくつかをご報告いたします。(読みやすさのため、執筆者の判断で再構成しています。)
1.20年間を振り返っての変化
著作権についての考え方
著作物をシェアするというアイディアが奇異の眼で見られることなく、ビジネスの戦略として受け入れられるようになったが、これは大きな変化。
CCライセンスの受容
CCライセンスがグローバルなデファクト・スタンダードとなった領域がある。オープンデータの領域がその好例で、公共的な情報資源の共有に用いられることは非常に増えた。他方、音楽や映画などのビジネス領域では利用例もあったが、広く使われるには至っていない。また、UGCと呼ばれるような領域では使われることも、そうでないこともある。
オープンなインターネットの光と影
様々なコンテンツがネット上で提供され、一面では非常に豊かになったが、他方では望ましいコンテンツばかりではないこと、多様なコンテンツを放置しておくことで発生する弊害も無視できないものになっている。コンテンツをシェアするプラットフォームについても様々な功罪が明らかになった。
2.積み残し課題や浮上した課題
クリエイターと報酬
中間搾取を減らし、クリエイターに金銭的にもより多くの報酬が提供される世界ができるのではないか、という構想は昔からある。近年ではWeb3の運動やブロックチェーンの活用によってそれが実現できる可能性も議論されている。だが、NFTの売買に使われるOpenSeaのように特定のプラットフォームに集中する現象はこうした新興領域にも見られるし、そのプラットフォームが取引料などを低く抑え続けるわけではないことも伺える。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの発足当初は、米国では大手プラットフォームではなくレコードレーベルや映画のスタジオなどが問題視されている時代だったが、こうした企業の影響力は以前として強い。また、そもそもクリエイターになりたい人の数が多く、そこに人々が割くアテンションの量が限られているためにクリエイターとして食べていけない人が多く出るという根本的な事情がある。
著作権とスマートコントラクト、支援ツール
クリエイターへの報酬に関連して特に解くことが難しい課題に、クリエイターへの適正な報酬がどの程度なのか、という問題がある。寄与分のようなものをどう評価するべきか、様々な考え方があり、人によって意見が大きく違う。システムとして実現することが簡単ではない。様々な試行錯誤が必要な領域とも言える。
著作権をアルゴリズムで書けるような明確なルールにできるのであれば、スマートコントラクトなどとの相性が良くなるのでは、という期待はまだあると思うが、ここ10年ほどの試行錯誤を通じて、スマートコントラクトのような取り組みでは、人間のレビューを不要にすることはできず、むしろ望ましくない結果を生むリスクが結構大きいということがわかった。法律も、起こりうる事態を事前にすべて見通してルールを作ることはできないため、法律が自動執行されることは望ましくないだろう。人間のレビューが入ることが望ましいだろう。
著作物の活用について何はOKなのか、そうでないのか、を支援してくれるツールにはニーズがある。著作権法の複雑さなどもあって、理解できずに利用を断念している人が多くおり、委縮効果があると言える。他方では、ライセンスも著作権法もほとんど気にせずシェアしている世界もあり、二極化と見ることもできる。
生成系AI
生成系AIをめぐっては、多くの議論がある。著作権に関連があるものでも、AIの学習に著作物を利用されたクリエイターが対価を得るべきか、AIを使って特定のモデルを開発した者が著作権者になるべきか、モデルを上手に使って望むような画像を生成する試行錯誤を行った者は著作権者になるべきか、などが。その際に、これまで積み上げてきた法解釈と裁判例に基づいて考えて行くアプローチだけでなく、社会にとっての最適解は何であるかを考えるアプローチが考えられるだろう。
膨大な数の作品を短時間で生み出すことがAIには可能だが人間にはできないため、一方ではAIが生成するコンテンツが物量で人間の創作物を圧倒してしまうような未来も考えられる。クリエイターがツールとして活用し、意外性をとりいれたりする可能性もある。そうした可能性を念頭に社会にとっての正負両面の影響を探っていく必要があるだろう。
アカデミアのように、金銭的な報酬ではなく互いへのクレジットが主な駆動力となって機能している領域もあるし、ファッションのように著作権で保護されていないことで逆に絶えざるイノベーションと流行が生まれているとされることがある領域もある。
3.今後の方向性
クリエイティブ・コモンズはある状況に対してライセンスなどのツールの開発を持って改善を試み、一定の成果をあげたが、これを固守することが重要なのではなく、状況に応じてミッションを再定義することが重要だろう。
デジタル社会の正負両面にどう向き合っていくか、CCはもともと性善説に基づいていたようなところもあり、考えて行く必要がある。
安直な二項対立を排し、中間をどうデザインできるか、それがCC的なフィロソフィーの可能性だと思う。著作権のAll rights reservedとパブリックドメインの中間を支えたように。
アーロン・シュワルツは16歳でCCのアーキテクチャーをデザインし、ファウンダーのローレンス・レッシグはしばしばアーロンを自分のメンターとした。政治とカネのような問題に取り組むようになったのもアーロンがきっかけだった。受動的に物事が決まって行くのを待っていたり、技術の可能性や悪を離れたところから批判するよりも、議論に参加し、共に未来を作って行く態度を持つことがインターネット的なのではないか。
著作権法、ライセンス、などの解説や権利関係を巡るわかりやすいデザインのニーズはCCライセンスの強みだが、課題も多い。ウェブの時代にデザインされ、モバイルの時代には大幅な改修はせずに来ているが、スマートコントラクトやビッグデータ、ウェアラブルデバイスとメタバース等の世界にも適合するのか、インターフェースの課題がある。
むすびにかえて
OERの普及の現状と課題、競争法的な観点からの著作権法の読み替えの可能性、AI生成物を人間の創作物と誤認させる例の増加、音楽領域における新しさの感覚、ポストモダン系の「作者の終焉」説と生成系AIの関係など、Q&Aや懇親会では更に多岐に渡る議論がありました。
オンライン、会場でご参加を頂きました皆様にこの場を借りて感謝申し上げます。
これらも含め、今回のイベントで得られた知見やアイディアを今後のクリエイティブ・コモンズ・ジャパンの活動方針を決めて行く上での糧としていきたいと思います。今後ともクリエイティブ・コモンズ・ジャパンやクリエイティブ・コモンズ・ライセンスをどうぞよろしくお願い致します。
なお生成系AIを巡る議論については、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン内でも議論し、後日、米国の法人であるCreative Commonsの呼びかけで開催された生成AIをめぐるコミュニティー・ミーティング https://creativecommons.org/2023/02/06/better-sharing-for-generative-ai/ でも共有しました。
なお、開催にあたっては米国の法人であるCreative Commonsの資金援助を受けました。記してここに感謝します。
(文責:渡辺智暁)