はじめに
オープンイノベーションとクリエイティブ・コモンズというテーマなので、広い話から始めてオープンデータのことも扱う。トピックは次の3つの3部構成。
- クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのようなものが、そもそもなぜ考え出されたのか
- 実際にそこにはどういう工夫が盛り込まれているのか
- どんなところで使われているのか
クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの背景
広義のオープン化
オープン化は、広くとらえると、従来よりも多くの人や多様な人の参加や影響力行使を受け入れる仕組みになるということだと考えている。政府や何かの仕組み、プロセスのことがオープン化することもある。著作物についてよく言われるオープン化は、そこにいろいろな人が加わって、一つのコンテンツを作るということだったり、あるいはそれをいろいろな人が勝手に使って別のものに仕立て上げるということ。従来よりも多くの人が入り込むような、あるいは実際に入り込むことはないかもしれないけれど、入れるような仕組みをつくる。そういうことをオープン化と呼んでいることが多い。
狭義のオープン化
オープンソース・ソフトウェアの世界でいうところの「オープン」に典型的にみられるように、「オープン」
という言葉にはかなり厳密な意味が込められていて、定義が存在する。コンテンツのようなものに関して言えば、利用目的を限らない、利用者を差別しない、商業利用も、改変もOK、というかなり広い範囲の利用を許諾すること。そういう許諾を導入することをオープン化と言っている。その際に制約条件をあまりつけないということも、暗に、あるいは明文的に言われる。あるライセンスを取り上げて、これがオープンソースのライセンスであるかどうかということを判断する国際的な団体や判定基準も決まっている。
オープン化のムーブメントの背景
著作権法の性質として許諾なしに他人の著作物を使ってはいけないという大原則がある。他方で、ボタンをいくつか押すだけで簡単にコンテンツがシェアできるのに、法律的にはそれをやってはいけないという法律がある。技術が持っているポテンシャルと法律的に許されていることというか、法律の原則というのはかなり違うベクトルを向いているというのが出発点。
技術の変化にともなう変化
- コンテンツを複製するのも共有するのも加工するのも簡単になった。それにより、それまで事業をやってきた事業者やプロフェッショナルとは違うプレイヤーが参入してくる余地ができた。
- コラボレーションが簡単になった。お互いに連絡を取り合うコーディネーションのコストやコンテンツのやりとりのコストが低下した。履歴も追えるようになった。
- スタートアップのコストが減少した。起業してウェブサービスを作りたいと思ったときに、クラウドの環境でスペースも借りられ、オープンソースのソフトウェアを使ってデータベースやウェブサーバーもすぐに組み上げられるというような環境もできた。
このような環境下では、自分で何かを作ったものを著作権の原則に従わないで、むしろほかの人に自由に使ってよい、とか自由に見てよい、という形で放出したい、提供したい人のがいろいろなセクターにあらわれる。
サプライヤー側の変化
- アマチュアやボランティアの活躍する余地の拡大。市場への参入障壁が減ったおかげで増えている。
コラボレーションするのが楽しいので、場に参画できるなら自分のコンテンツは無料で提供して、コラボレーションを通じてできたものは無料で提供していく。 - 情報データの普及をミッションとする公共組織の活躍の場の拡大。GLAM:ガバメント・ライブラリー・アーカイブ・ミュージアムがこれにあたる。ミュージアムは日本語の博物館と美術館の両方を指している。こういったセクターは情報を大量に抱えていて、かつ、その情報を世の中に広める、知らせるということが重要だという考え方を持っている。
- 企業セクターの事業戦略の変化。戦略として自分の持っているコンテンツを無料で提供し、別のところでお金を稼ぐ、競合他社との競争戦略上そのほうが有効な場合がある。また、インターネットが地域(距離)に基づく市場の分断を無効化するため、新聞や小売り業が変化している。コンテンツの閲覧なりコピーなりにいちいちお金を課金しないというモデルが出てきている。
ライセンスの役割
上記のような変化の一方で、法律的には著作権者がコンテンツを独占するという原則がある。それに対して、そこまでの保護保護を必要としない事業者や公共機関、市民がおり、一つの解決方法として出てくるのがライセンスである。
なぜ法改正でなくライセンスか。
法改正を行って、誰でもコンテンツは自由に使えるようにすると、それを事業にしていた人にとっては甚大な影響が出かねない。そのようなことを、国民的に合意を取るということは大変である。コンテンツのライセンシングというスキーム、使いたい人だけがツールを使うという方式は、巻き添え被害が少なく、軋轢が少なくて進められる
受け手側の変化
一億総クリエイターという言い方に象徴されるように、アマチュアやボランティアが参入して、これまでのビジネスモデルを圧迫している。経済学的には、コストが下がって安くなることで既得権益者から他のところに資源を配分することとなり、経済効率性はよくなるといえる。今までかかっていたコスト分のお金ほかのところにいき、そこにつぎ込まれていた才能もほかのところで発揮されるのが、全体としては資源の最適な配分となる。
流通の変化
いわゆる口コミが映画や本、レストランで等様々な場所で情報として大きな意味を持つようになった。つまり広報を普通の人が担うという構図になっている。
オープンデータとライセンス
オープンデータもこの文脈の中でとらえることができる。オープンデータは政府だけでなく、厳密には企業なども含めて言われる。利用目的や利用者の別なく商業利用や改編も含めた広範な利用を認めるということが、データに関して世界中で今行われている。なお、ここでいうオープン化というのは、基本的には前述した狭義のオープン化を意味する。
オープンデータのメリット
政府が持っているデータというのは、別に政府としてはそれを必ずしも隠しておきたいというわけではなくて、それが国益に叶うのであれば当然国民や事業者に提供したいと考えられている。メリットとしては以下が考えられる。
- 経済効果。日本で考えれば数兆円規模の経済効果があるのではないかといわれている。
- 透明性の向上。政府の働きやプロセスがオープンになると、政府に対する信頼が生まれたり、関係者がより良いタイミングで参加して働きかけたりできるという形のベネフィットがある。
パブリックライセンス
ライセンスの中でも、みんなに対して許諾を与えるものをパブリックライセンスという。オープンデータでは不特定多数に対して許諾を与えるため、このパブリックライセンスが使われる。クリエイティブ・コモンズのツールが実質上のグローバル・デフォルト・スタンダードとなってきている。
クリエイティブ・コモンズは、万人が従うべき法律を定めているわけではなく、クリエイターが「このコンテンツをみんなに使ってほしい」と思ったときに、「このライセンスに従えば使って良い」と宣言することでそのコンテンツの利用を可能にするという、法律のシステムからオプトアウトするようなツールである。従って、法改正して万人に対して自由な利用を強制するという主張と比べると、賛同を得やすいし、それによってその一部のコンテンツに関しては流通や利用が非常になめらかになっていく。
小括
著作権制度は著作者が何もしなくても創作物を保護する。しかしながら、ネット上では従来よりも広い範囲の人々が創作とか複製とか流通に関与するようになっていて、その中には自分の作った著作物や自分が貢献した分を自由に活用してくれていいと思っている人がいる。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスはそのような人のためのツールである。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの工夫
使いたい人が使ってくれればいいツールとして、しかも普及や流通、コラボレーションが起こりやすいような世界を目指しているライセンスとして、いくつかの工夫がある。特に、一目で違いがわかるようにすることが重要である。
例えば、ライセンスの種類がたくさんあると、クリエイターにとっては要望に合致するライセンスがあるので、いろいろなコンテンツが出てきやすいということがある。他方で、利用者からすると異なるライセンスが付いている作品を複数利用したい場合などに困難が伴う。共有資源を活用して新しいイノベーションが生まれるということが起こりにくくなる。ユーザー側の感覚としても、ライセンスの種類が少なければ1種類のライセンスのことだけ分かっていれば良いので負担がすくない。
ライセンスが多くなってしまうと、コンテンツのプールが小さくなってしまって、いろいろなものを組み合わせて新しいものを作るということができにくくなってしまうということが、ライセンスの種類が多い場合の問題と言える。他方で、逆にライセンスが少ないといろいろな著作物が出てくる可能性が減ってしまい、トレードオフになっている。
工夫の具体例
- 4種類の要素、6種類のライセンス。クリエイティブ・コモンズは基本的には6種類あり、BY(表示)NC(非営利)SA(継承)ND(改変禁止)の4種類の要素を組み合わせたものになっている。
- サマリー。サマリーページを用意しており、ここにライセンスの主な特徴が書かれている。
- 名前。内容に紐づいた名前をつけている。
他に、ライセンスの文面を読みやすくしたり、FAQを用意するなどの工夫をしている。
マシンリーダブルなライセンス
更に、ライセンスの特徴についてのコードを決めておいて、具体的にはグーグルの高度検索のような機能を使って検索できるようにする。例えば商業利用ができる画像を検索できるような仕組みをライセンスの側でサポートするため、技術仕様を決めてある。
バージョン4.0について
今、最新のバージョンは4.0となっている。ライセンスの改訂は、現行のライセンスの問題点やあらたなニーズが何年か使っているうちに明らかになり、対応するかたちで行われる。
バージョン3.0まででは、各国の法制度に合わせてCCライセンスを「移植」するという作業をやっていたのだが、4.0では各国に適応させるためにライセンスの内容を調整することはせず、言語的な翻訳だけ行うようにした。各国の著作権法に合わせて内容を変える必要がないように、設計段階で、あらかじめグローバルに通用するライセンスを作るという方針で作られている。
小括
クリエイティブ・コモンズのライセンスはクリエイターにも分かりやすい、利用者にも分かりやすい、そういう使い
やすいツールを目指している。ネットの強みをもっと生かした文化を支援している。
個別に交渉したり、連絡先を突き止めるのがそもそも不可能な場合の作業がなくても大丈夫な世界を作っていく。簡便にいろいろな著作物が作れる、流通もできるし再利用もできる、加工もできる、といった世界を作って、ネットとか今のデジタルテクノロジーの環境が提供している技術的なポテンシャルに、法律的な仕組みを近づけていく。そのためのツールとしてクリエイティブ・コモンズのライセンスを使うことができるようになっている。
クリエイティブ・コモンズがつかわれている場面
採用例
- ホワイトハウス。アメリカでは政府の著作物はそもそも著作権のつかないパブリック・ドメインのものになるので、ここではサイトの利用者が投稿するものについてCC BY・ライセンス付けると利用規約に書かれている。
- MIT。MITだけではなくて世界中でやっていることで日本では東工大が特に大規模な取組をしている。オープン・コース・ウェアと呼ばれるような授業、教材のオープン化が行われている。MITだと2000以上の授業について
シラバスや講義資料や講義動画を公開している。教材については、自分たちで教材を開発するときにまずはオープン教材を探してきて、あるものは使いつつ、ないものを作る、という形で利用しているケースが多い。
- TEDトーク。入場料が有料のイベントだが、トーク自体は無料でユーチューブで配信されている。実は無料で配信したからこそ、あれだけ熱気のあるイベントになったという話を、テッドのCEOがしている。
- アーティストの採用例としてナイン・インチ・ネイルズ。メジャーレーベルとの契約が切れたときに、Ghost I-IVというアルバムを作り、BitTorrentにもシーディングをした。CCライセンスを付けて、コピーをしても合法的なコンテンツとして撒いた。他方で、300ドルのデラックス盤の化粧箱入りのものをオンラインで売ったら、百何十個限定だったものが、30時間で全部売り切れた。アマゾンのMP3ストアのランキングでアルバム部門トップだった。無料とかでなければ聞かなかったような人が聞いたということがあったと考えられる。この例に代表されるように、収益事業と組み合わせて使うことがよくある。それはコンテンツを無料配信するのだけれど、ライブとかプレミアムグッズを収益源にしている。音楽業界はこちらの方向に行くのではないかという予想をしている人もいる。
著作権を研究している経済学者の中には違法コピーの流通でアーティストがどのくらい割を食うかということを、実証データを使って研究している人たちがいる。大体、音楽業界に関しては、トップアーティストは損をするのだけれど、そのほかのアーティストさんは売上に影響がないかちょっと得をするという結果が出る。トップアーティストでない人たちはファン層が増えたりすることで、むしろプラスに働く。それもグッズ収入とかイベント収入とかでなくて、CDや配信の売上だけを考えてもそうなるという研究が、複数出てきている。
- フリッカー。全部合わせて3億枚画像がある。クリエイティブ・コモンズの6種類のライセンスが全部選べるようになっている。CCJPへのお問い合わせの中には、メディア系と、広告系の事業者から、フリッカー等でこんな写真を見て「これをぜひ使いたいのですけれどどうやったらいいですか」といったお問い合わせも結構ある。だから、結構あちこちで利用されているのではないか。報道機関などでも自分たちのものを無料で配信して、それにライセンスをつけている例もある。
- リミックス系。ウィキペディアや初音ミクが好例。初音ミクも2012年の末に採用した。このように、リミックスを前提としたコンテンツに採用するということがある。リミックスとしては、写真でも結構使われている。音楽はどのくらいなのかというのはよく分からない。
オープンデータでの採用
オーストラリアやニュージーランドはCC BYライセンスを採用している。イギリスやフランスは独自のライセンスだが、クリエイティブ・コモンズのBYライセンスと類似のものを使っている。それらのライセンスはCC BYライセンスとの互換性を担保しており、CC BYがオープンデータの領域でもスタンダードになりつつある。
日本も2013年12月下旬に日本の政府の用語では「試行版オープンデータカタログ」と言われている、β版のオープンデータポータルを作り、そこでCC BYライセンスを採用した。
リミックス
教材やデータといった素材は何にでも使えるものというのはなく、特定の用途にしか使えないものである。そういったコンテンツが増えると、それをどうやって整理して、探しやすいようにニーズやユーザーとマッチングさせるかというところが課題になる。そのためのメタデータの整理や標準化、データベース、レポジトリ作りが、教材分野でもデータ分野でも課題となってくる。この課題が未解決であることも一因で、まだリミックスが盛んであるとはいえない状況にある。
本資料は、クリエイティブ・コモンズ・表示ライセンス4.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)
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