FAQ オープンアクセス(OA)

  1. OAにライセンスはどのように関係しているのでしょうか?
  2. CCライセンスで提供されている論文から転載する際にはクレジット表記が必要なのですか?
  3. 学術論文などで重視されるcitation や、批判される剽窃は、著作権法上どう定められているのでしょうか?
  4. 自分の論文について商業利用を許諾していないCCライセンス(CC BY-NCなど)を選択するとメリットがいろいろありそうに思いましたが、どういうデメリットが考えられますか?
  5. 自分の論文について改変利用を許諾していないCCライセンス(CC BY-NDなど)を選択するとメリットがいろいろありそうに思いましたが、どういうデメリットが考えられますか?
  6. 自分の論文が勝手に改竄されないようにするためにはCCライセンスの中でもCC BY-NDなど「ND」が含まれるものを選択することが必要でしょうか?

OAにライセンスはどのように関係しているのでしょうか?

学術資料のオープンアクセス(OA)は、単にネット上での無料アクセスができるようにすることを指すこともありますが、この拡大に尽力している人たちの間では、より広い範囲の利用ができることを指して使われます。

具体的には、オープンアクセスの解説において参照されることが多いブダペスト・オープン・アクセス・イニシアチブhttps://www.budapestopenaccessinitiative.org/ では、オープンアクセスは、閲覧やダウンロード、プリントアウトだけではなく、幅広い利用を可能にすることことだとされています。そこでは、著作権の役割は作品のインテグリティ(完全性・真正性)や著者への適切なクレジットを保証することに限定される、という考え方も示されています。

当初の宣言から10年目の宣言の中では、CC BYライセンスやそれに相当するライセンスを最適として推奨しています。(「2.1. 学術的作品の出版、配布、利用、再利用に最適なライセンスとしてCC-BYまたはそれに相当するライセンスを推奨する」Prologue: The Budapest Open Access Initiative after 10 years
10th Anniversary https://www.budapestopenaccessinitiative.org/boai10/

CCライセンスで提供されている論文から転載する際にはクレジット表記が必要なのですか?

法律的には、必要な場合と、不要な場合があります。

学術的な慣行を考えると、(法律的にはともあれ)適切なcitation は必要になるでしょう。

法律的な面について、日本の著作権法にそって考えて、2種の主要な場合に分けて説明します。

1.クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに従った利用

クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの定める条件に従って利用すれば、個別に許諾を得る必要はありません。この場合、基本的にはクレジット表記が必要になります。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスは、ほぼすべてのバージョンでクレジットの表記を要求しているためです。

2.引用

公開された著作物(たとえばジャーナルで出版されている論文)の一部を引用することは、正当な目的、公正な慣行に従っていることなど、著作権法に定められた条件を満たせば、著作者や著作権者に許諾を得ることなく行えます。これは日本の著作権法では32条1項に規定されています。

この著作権法上許容されている引用を行う場合には、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに定められた条件を守る必要はありません。ただし、著作権法が求める引用の場合、出所を明示することが求められますので(48条1項1号)、結果としてはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのクレジット表示と似たような記載をすることになるかも知れません。

著作権法の観点から見た適切な引用の方法については、ネット上で様々な解説がされているので詳細は省略します。

学術論文などで重視されるcitation や、批判される剽窃は、著作権法上どう定められているのでしょうか?

citationは実は著作権法に基づいて成立している義務ではなく、学術コミュニティの従うべき規範や慣行と考えるべきものと思われます。

citation は必要でも、著作権法には関係ない例の一つに、アイディアや事実に関するcitationがあります。ある論文Aに報告されているアイディアや、事実について別の論文Bで述べる時に、そのアイディアや事実を論文Aから知ったことを示すためにその論文のcitation をつけると思います。それを省略して、自分のアイディアや自分が見つけた事実などのように書けば剽窃として罰せられることがあります。ですが、著作権法上は、アイディアや事実は自由に使ってもよいものとされています。そもそも「著作物」ではない、ということになっています。(アイディアや事実を創作的に表現すると著作物になります。)

言い方を変えれば、学術研究の世界で剽窃として罰せられる行為は、著作権法に照らして考えた場合には合法的な行為も含まれています。両者は異なるものなのでこういうことが起こります。

もうひとつの例は、パブリック・ドメインに属する論文の扱いです。著作者が死亡して既に長い年月が経過している論文、著作などは、著作権法上は自由に利用してもよい共有資源のようになります。ところが、古い論文の記述であっても、それをcitation なしに自分の記述であるかのように自分の論文にとり込めば剽窃になります。ですが、著作権侵害にはならないでしょう。

このように、citation が必要な理由は、著作権法にあるのではなく、学術的なコミュニティの規範・慣行にあると考える方が適切です。

自分の論文について商業利用を許諾していないCCライセンス(CC BY-NCなど)を選択するとメリットがいろいろありそうに思いましたが、どういうデメリットが考えられますか?

企業による研究開発や企業からの資金提供が行われている場合など、商用目的であるか否かの判断が難しい場合において、利用が制限されてしまう可能性があることがデメリットになるかも知れません。

商業ベースで開発されているデータベースや論文の紹介サービスなどに対する収録もされない可能性があるかも知れません。(この辺りは出版社との取り決めなど、論文を巡る他の取り決めの内容にもよるかも知れません。)

自分の論文について改変利用を許諾していないCCライセンス(CC BY-NDなど)を選択するとメリットがいろいろありそうに思いましたが、どういうデメリットが考えられますか?

ひとつの考え方として、論文を目にした方が、その一部を活用しつつ解説資料を作って共有する、英語を日本語に翻訳して共有する、などの行為はCC BY-NDライセンスでは原則として不可能になるでしょう。(例外的に、日本の著作権法上認められている引用に該当する形で利用するなどは可能な場合があります。)論文を多様な人に知ってもらいたい、いろいろな文脈で受け止めてもらいたい、ということを考えている場合には要注意かも知れません。

ただし、そのようなライセンスを採用した場合でも、他人がその論文についてできることがある程度存在している、という点も注意が必要かも知れません。自分の論文について他人が語ることを一切禁止する効果はこのようなライセンスにはありません。著作権法をある程度分かっている人であれば、創作的な表現を利用することなく解説を書いたり、法的に問題のない形での引用を行って論評を書いたりすることもできます。

自分の論文が勝手に改竄されないようにするためにはCCライセンスの中でもCC BY-NDなど「ND」が含まれるものを選択することが必要でしょうか?

そうとも限りません。

CC BYライセンスなどND要素を含まないライセンスであっても、改変をした場合には改変をした旨を記すように、という条項が含まれています。改変を許諾はするものの、改変したことを明記させることで、それが完全に原著作者だけが書いたものではないということがわかるようになります。

また、改竄のように悪意のある行為は、仮に何のライセンスもつけない(いわゆるAll rights reservedの状態での)論文に対しても行われる可能性はあります。

改竄をする人は、改竄行為はするが、その他の点では著作権法を遵守しよう、と考えるでしょうか?もしそうなら、CC BY-NDである程度防げる場合があるかも知れません。改竄行為がそもそも氾濫しているわけではないため、断言し難い部分はありますが、現実問題としてはCC BYで十分という可能性があるでしょう。


(2023/03/25 にページタイトルを変更しました)