執行に関する原則

クリエイティブ・コモンズ・ライセンスは著作権に関するライセンスであり、法に基づく執行が可能です。私たちはCCライセンスの規定を尊重することは重要であると考えていますが、ライセンスの執行は、クリエイターが公平公正に扱われるようにするための一手段であるべきであって、間違った使い方をした二次利用者を安易に陥れるためのスキームであるべきではありません。もしも間違った場合のリスクが不当に高すぎて、人々がCCライセンスが付与されたマテリアルを利用することに不安に感じてしまってはCCの目的は果たされません。

簡潔に言うと、CCライセンスの執行において指針となるのは以下の3つの原則です。

  • 再利用を行う者にライセンスを遵守してもらうことを、ライセンスの執行の第一の目的とすること
  • 法的な措置は頻繁に行われるべきではないこと
  • 金銭的補償をもたらす執行もあり得るが、それがビジネスモデルとなるべきではないこと

より詳細には後ほど説明しますが、これらの原則は、CCライセンスの主旨と意図を支えるライセンス執行と、CCが考えるところの価値観と優先順位を示すように設計されています。ただしCCは、CCライセンスが付与された作品の著作権者ではないため、これらの原則を直接的に実践する能力は限られています。

(これはライセンスの執行の取り組みに関わるCCの戦略のほんの一部です。)

これらの原則が以下のような場合に役に立つことを願っています。

  • もしあなたが多数のCCライセンスの付与された作品の権利者である場合、これらの原則に従ってライセンスを執行することを公に約束することで、人々に安心して二次利用してもらうことが可能です。
  • もしあなたがCCライセンスを付与された作品の第三者によるアップロードを許可しているプラットフォームである場合、アップロードする人がこれらの原則に沿って著作権を執行することに同意するように求めることができます。また、アップロードされた作品のライセンスにはバージョン4.0のCCライセンスを用いるよう求めることも推奨します。
  • これらの原則により、CCの考えるライセンスの執行のされ方が、許諾者(ライセンスする方)と被許諾者(ライセンスされる方)の双方に伝わることを願っています。そうなれば、許諾者は十分に理解した上で作品をライセンスし、紛争が起きても速やかに友好的な形で解決できるはずです。
  • 著作権に関係する紛争解決はほぼ、裁判ではなく、許諾者と被許諾者の間でのやりとりで行われてきました。紛争が裁判となった場合、この文書が、ライセンスがどのように機能することを意図しているかを知るためのガイダンスとして、当事者に利用されることを願っています。

これらの原則は、フリーソフトウェアコミュニティにおいて著作権を執行している多くの主要な組織に支持されているガイドラインである Copyleft Compliance Projects を大いに参考にしています。(私たちがここで記す執行の原則とはいくつかの重要な異なる点がありますが、趣旨は似ています。)

原則1. 再利用を行う者にライセンスを遵守してもらうことを、ライセンスの執行の第一の目的とすること。

CCライセンスでライセンスされた作品が利用され、共有されることですべての人が作品の恩恵を受け、さらに自身も利用し共有する権利を持っていることを知らせることがCCライセンスの目的です。作品を非公開にすることで著作権侵害を止めることはできますが、それは同時に作品が広まることをも止めてしまいます。CCライセンスにかかわる紛争が上手く解決した場合、その作品は共有され続け、ライセンスの条件も遵守されます。これは再利用者がライセンスを遵守しようとしたものの、それが不適切あるいは不十分であった場合に特に当てはまります。良好な解決には、再利用者が当初の意向どおりに正しく再利用できることが大切です。

ライセンスの終了:バージョン4.0よりも前のCCライセンスでは、ライセンス違反があった場合、被許諾者の権利は終了する仕組みとなっていました。しかしバージョン4.0では、違反を知ってから30日以内に違反を是正した場合に、権利が自動的に復活するという規定が存在します。これはフリーソフトウェアコミュニティの多くのライセンス管理者によって最初に導入されたものです。許諾者としては、ライセンスのバージョンにかかわらず、終了したライセンスを復活させることができます。もしあなたが4.0よりも前のライセンスの条件の違反について誰かに連絡を取り、相手が間違いを是正するために必要な措置をとったならば、あなたは4.0の手順に従ってライセンスを復活させることが推奨されます。

原則2. 法的な措置は頻繁に行われるべきではないこと

裁判で勝つ最善の方法は、裁判を行わないことです。「楽勝」なケースであっても、訴訟は高額かつ難しいものです。そしてライセンスの条件に違反する人は、故意に悪用しているのではなく、ライセンスの仕組みに混乱していたり理解をしていない場合がほとんどです。また誠実な再利用者にとって、フェアユースや他の例外・制限規定が当てはまるかどうかの判断が難しいこともあります。そして時に、自身の利用が例外・制限規定に当てはまると判断した結果、ライセンスの条件に違反してしまう場合があります。

すべての関係者間で紛争を解決する最善かつコストの掛からない方法は、法的な措置を講ずることなく、可能な限り間違いを是正し、確認できる限りの損害を回復させることです。この方法が不十分であり紛争を解決できないケースがあることを私たちは認識していますが(特にライセンスの違反が恣意的である場合や再利用者が反応しない場合)、これらの状況は例外と言えます。

原則3. 金銭的補償をもたらす執行もあり得るが、それがビジネスモデルとなるべきではないこと

CCライセンスが遵守されないことで生じた損害に対して、金銭的補償が適切な解決策である場合もあります。ときにこれは、許諾者が被った金銭的な損害の償還に関係します。例えば、許諾者が、CCライセンスの範囲外の利用について、ライセンス契約を締結した場合に要求したであろう金額と同額を損害賠償金として求めることがあるかもしれません。またあるときは、損害賠償金は抑止力として有効な道具にもなります。例えば、損害賠償金は、常習犯にCCライセンスの条件を順守してもらうための唯一の方法であるかもしれませんし、また作品を悪用することで利益を得た再利用者への適切な対処法であるかもしれません。

しかし、著作権侵害に対して認められる損害賠償は、時に損害の大きさとはかけ離れたものとなり、悪意のない再利用者の場合には不適当であることも少なくありません。執行することが経済的に利益となる場合、特に許諾者が金銭を徴収するために再利用者にライセンス違反させることを示唆するような行動をとる場合、それはトローリングの域に入り、これらの原則に反するものとなります。(とりわけ、被害者が要求に対処する際より多くの額を支払うことを促すために、作品の数ではなくコピーの数をもとに法定損害賠償を算出することで損害賠償額を水増しすることはコピーライトトローリングの特徴の一つです。)

誤解のないように明記しますが、これらの原則は悪意のある再利用者が規約の遵守を回避する手助けとなることを目的としていません。また規約に違反することで生じる損害が金銭的でない場合でも、ライセンスの条件を尊重することの重要性は損なわれません。CCライセンスは、作品の作者は自らの作品について、世界中で施行されている著作者人格権と合致した賞賛を受けるべきであるという信念に強くもとづいています。このため、執行の方策は過去の損害について救済する措置を盛り込むべきです。そして可能な限り、すでに権利侵害作品の複製を受け取っている者は、作者やライセンスに関する情報のような、それまでは省略されていたいかなる情報をも受け取るべきです。この情報収集は通常その情報を省略した再利用者の責任となるべきです。

ライセンスの執行は、共有のコモンズを創出する上でCCライセンスが有意義に機能するための重要な要素であるとCCは考えています。しかし、もしCCライセンスの執行が公平公正なものではなく、懲罰的あるいは利潤追求的であると認識されてしまうとコミュニティ全体が被害を被ることになります。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスは、容易に作品を共有、再利用できるように設計されていて、すぐに訴訟になるような、「全ての権利を留保している(all-rights-reserved)」標準的な著作権の制約的な文化とは対照的です。許諾者の意図を反映し、そして全ての関係者にとって公平公正であることに焦点を当てた執行に向けての合理的なアプローチが、健全なコモンズを持続させるための最善の方法なのです。

本内容はCCHQの”Statement of Enforcement Principles“を翻訳したものです。