第3回セミナーご報告

 9月26日、国際文化会館においてクリエイティブ・コモンズ・ジャパン第3回セミナー「情報社会の変革と自由文化の生成~クリエイティブ・コモンズをキーワードとして~」が開催された。主催はクリエイティブ・コモンズ・ジャパン、共催が国立情報学研究所、メディアスポンサーがソフトバンク クリエイティブ

 セミナーは、来日したレッシグ教授とiCommons事務局長のヘザー・フォード氏株式会社ロフトワークの林千晶氏、NTT持株会社仲西正氏らのゲストスピーカーと、弁護士でクリエイティブ・コモンズ・ジャパンの事務局長をしている野口祐子氏の講演、サルガッソー代表の鈴木健氏をコーディネーターとするパネルディスカッションの2部構成で行われた。

 当日、レッシグ教授は、ハードスケジュールの中長旅の疲れも見せず、クリエイティブ・コモンズの4年間の活動と新しい創作の流れを紹介した。アメリカ合衆国から始まったクリエイティブ・コモンズも、2年目には400万ライセンス、3年目には4,400万ライセンスとCCライセンス数は増加し、現在では42カ国、約13,700万ライセンスと急成長している。

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 講演でレッシグ教授は、新しい創作方法の流れとして「Revver」におけるロングテールと「CC Mixter」における音楽のREMIXの2つの事例を紹介した。Revverでは、2人の米国人がコーラとメントスを使って行ったさまざまな実験の様子をビデオに取り、「SOME RIGHTS RESERVED」ライセンスをつけてネット上に公開した事例を紹介した。彼らは動画の最後に広告を入れ、1週間で25,000ドルもの広告料を稼いだという。レッシグ教授は、本セミナーでRevverがきっかけとなって似たような動画が作り出されるという、創作に新しい動きが見られることを披露してくれた。そして、Revverのような事例こそ、ネット時代の新しいビジネス、ロングテールだと主張した。

 
 もうひとつの事例であるCC MixterにおけるREMIXでは、コロンビアのSILVIAOという歌手の例を取り上げた。SILVIAOは「The Fine Art of Sampling Contents」に1曲音楽を提供したところ、その曲が世界中の人々によってさまざまな形にRemixされた。彼女は、そのことに楽しみを見出し、今では10曲以上も「自分の曲→他の人がリミックス→さらに自分がリミックス」という形で創作された音楽をCCライセンスでアップ、自ら楽しんでREMIXERとして活動しているという。レッシグ教授は、「音楽業界はONE-2-MANYではなくMANY-2-MANYへと変化している」と主張する。セミナーの最後、レッシグ教授は本当に必要なのは「LEAVE」、すなわち自分に必要な権利だけを守り、他は誰でも自由に使えるように「フリー」にしてほしいと、会場にいるリスナーに語りかけた。

 
 セミナーで最初に講演した野口祐子氏(CCJP)は、著作権法を取り巻く環境や人々の意識が大きく変化したことによって、現行著作権法が今のインターネット時代・環境に必ずしも適していないことを強調していた。現在の日本における著作権をめぐる困難な状況-法律改正は時間がかかること、最近のコンテンツはひとつの作品に多数の権利者が存在し、権利関係が複雑化していることなど-を、新規事業の法的問題を相談にきた事業者と弁護士の会話という具体的な例を通して説明、現行著作権法がネットビジネスの振興を遅らせる要因となっていることを指摘した。そして、これらの問題を解決するひとつの方法がクリエイティブ・コモンズであり、CCライセンスの普及によってまず少数のものの意識で変化させることの出来る「市場」と「アーキテクチャ」が変化し、その変化が「社会規範」となり、最終的に「法律」の改正へとつながるとスピーチした。

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 野口氏の次にスピーチしたのはヘザー・フォード氏(iCommons事務局長)だ。フォード氏は、「dropping knowledge」というこれまでにない新しいビッグイベントを紹介した。dropping knowledgeとは、各地から集まったさまざまな質問に100人の回答者が回答するというもの。次に、フォード氏が紹介したのは、タンクが平和の技術ではなく戦争の武器としても使われたという歴史だ。そして、インターネットの歴史は「戦争の武器となる」、あるいは「新しい世界大戦の瀬戸際で、協力方法と発展方法を生み出す」のどちらとなるのかを、リスナーに問いかけた。続けて、後者の歴史を描く方法として、クリエイティブ・コモンズやフリー・ソフトウェアを挙げ、「ネットワークの豊かさ」を元に新しい「Read and Write」文化が21世紀に発展していくための、世界における対話を促す手段として、iCommonsが主催しているiSummitというイベントを紹介した。また、世界におけるクリエイティブ・コモンズの取り組みとして、南アフリカで始まったFreedom Toaster(街角で、フリーなライセンスのついたソフトウェアやコンテンツを自由に焼き付けられる=トーストできる機械)や、自由に音楽を流通させるモデルとしてのMagnatuneなどを紹介した。

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 クリエイター代表として参加した林千晶氏(株式会社ロフトワーク)は、ロフトワークの持ち味である「自由登録」「オープン性」を活かすために、2006年末までに全面的にCCライセンスに対応すると発表した(11月にサイトリニューアル予定)。ロフトワークは、総勢6,000人のWebデザイナー、グラフィックデザイナー、イラストレーター、ライター、FLASHクリエイター、インテリアデザイナーが登録するオンライン・クリエイター・ネットワーク・サイトであり、オープンネットワーク型の制作代理店である。林氏は、クリエイターに対して実施したクリエイティブ・コモンズの意識調査アンケートの結果を紹介するとともに、クリエイターの立場からクリエイティブ・コモンズの可能性をスピーチした。

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 第1部の最後、サービス提供者の立場からスピーチした仲西正氏(NTT持株会社第三部門)は、8月28日から半年間トライアルとして実施されている動画投稿サイト「ClipLife.jp」におけるクリエイティブ・コモンズ活動を紹介した。ClipLife.jpは、登録した会員がアップした動画を閲覧者が視聴するというサービス。ClipLife.jpにアップされた動画はClipLife.jp内にとどまらず、ブログやパートナーサイトなど外部サイトに掲載、再生することによって、コミュニティの活発化を促すだろう。動画投稿サイトは日本でもすでにいくつかのサービスが本格的に提供されているが、ClipLife.jpが他の動画投稿サイトと異なるのはクリエイティブ・コモンズに参加している点にある。仲西氏は、投稿した動画に自由利用や商用利用を表示するCCライセンスをつけることは、コンテンツの再利用を促進し、流動化を活発化すると語る。さらに、今後、動画の創作・編集・投稿・共有・再創作という過程を支援するために、CINEMAWORKというソフトウェアとの連携を行っていくことも発表した。

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 第2部のパネルディスカッションでは、レッシグ教授を交えて、日本のWeb開発者達の新たなチャレンジが報告された。それは「Cシャツプロジェクト」。「Cシャツプロジェクト」とは、ロフトワークに登録しているクリエイターの描いたイラストを元に、ネット上で好きなようにデザインを編集(リミックス)してオリジナルTシャツを制作するというサービスである。これは、システムアーティストの安斎利洋氏のコラボレーションシステム「カンブリアンゲーム」(1つの絵に対して、多数の参加者が自由に追加・改変することで、絵のバリエーションを無限大に広げていくというもの)の思想を取り入れたものだ。プロデューサーの鈴木氏の呼びかけによって、IPAの未踏ソフトウェア創造事業に採択された5人のクリエイターが結集、わずか2週間でこのシステムを完成させたという。

 このプロジェクトが異色なのは、「Web上で使えるまったく別のツールを連携して使用できること」、「リアルからネット、ネットからリアルへと連動し、最終的にはTシャツを購入できること」の2点にある。QRコードのついているおしゃれなTシャツを携帯カメラで撮るまではリアル世界、QRコードに記録されたURLを開くところからはネット世界、ネット世界では、元のイラストをマルチメディアボード「NOTA」で編集することも、ドローツール「Willustrator(ウィラストレーター)」を使って画像編集をすることも、写真共有サイト「フォト蔵」からCCライセンスの画像を追加することもできる。最後にNOTAの「ご注文」ボタンをクリックすれば、ドロップシッピング「factio」で本発注される。ここまではネット世界によるワンストップサービスだ。あとは商品が届けられるのを待つだけ。つまり、最終的にはリアル世界に戻ってくるというわけだ。上記のように、Cシャツプロジェクトは、利用するツールがすべてオープンソースである点と、実際に販売することでクリエイターにインセンティブが発生する点に特徴がある。最後に一言。Willustratorは、よく似ている商品名だが「イラストレーター」ではないので注意してほしい。

 
 パネルディスカッションに参加したレッシグ教授は、「これまでクリエイティブ・コモンズを用いた試みを世界中で見てきたが、今まで私が見聞きしたどのモデルよりもすばらしい。コンテンツを共有できるところもすばらしいが、このサービスがその共有できるコンテンツを囲い込もうとしないオープンな設計に基づいているところはさらにすばらしい。Web2.0よりずっと先に行っている。オープンソースとしての価値を活かしており、Web3.0とかWeb4.0とかいうべきだ」と絶賛した。このCシャツのトライアルサイトはこちらからアクセスできる。

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クリエイティブ・コモンズ・ジャパン第3回セミナー
『情報社会の変革と自由文化の生成~クリエイティブ・コモンズをキーワードとして~』

講演1:情報流通における課題と、クリエイティブ・コモンズの位置づけ
 スピーカー:野口祐子氏(NII客員助教授、弁護士、CCJP事務局長)

講演2:CCとは? 世界の取り組みや具体例の紹介
 スピーカー:ヘザー・フォード氏(iCommons事務局長)

講演3:〔具体例1〕クリエイターの立場から
 スピーカー:林千晶氏(株式会社ロフトワーク 取締役)

講演4:〔具体例2〕サービス提供者の立場から、ClipLifeなどについて
 スピーカー:仲西正氏(NTT持株会社 第3部門 プロデュース担当 担当部長)

講演5:クリエイティブ・コモンズと著作者の未来
 スピーカー:ローレンス・レッシグ氏(米国スタンフォード大学ロー・スクール教授、クリエイティブ・コモンズ創始者兼理事長)

パネルディスッション:クリコモのWeb2.0的ライフスタイル~未踏クリエイターの創造する風景~
 コーディネーター:鈴木健氏国際大学GLOCOM主任研究員、サルガッソー代表)
 パネラー:神原啓介氏(はてな社員/Willustrator開発者)
      尾藤正人氏ウノウCTO/フォト蔵
      洛西一周氏(慶応義塾大学 政策・メディア研究科/NOTA開発者)
      安斎利洋氏(連画/カンブリアン)
      林千晶氏(株式会社ロフトワーク 取締役)
      ローレンス・レッシグ氏
       (米国スタンフォード大学ロー・スクール教授、クリエイティブ・コモンズ創始者兼理事長)

(執筆:中島万寿代)

iCommonsロフトワークのサイトにも記事が掲載されています。ぜひご覧になってください。

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