iSummitでは、第1日目から第3日目まで、4つのトラックのひとつに、「オープン教育(Open Education)」のトラックがありました。iSummitのプログラムページは、いまは、iSummitの各セッションの報告ページになっていますが、こちらにあがっている要約をもとに、オープン教育のトラックを振り返ってみましょう。このトラックには、世界中から25人の「コア」なオープン教育関係者のほかに、25人ほどの人が出入りしていた、ということです。
オープン教育は、確実に発展している、というのが、参加者の感想です。オープン教育の中には、リナックスなどのオープン・ソース(ソース・コードを公開することによって、コードの書き方を誰でも学べる、という意味では、オープン教育の先駆けであるともいえますね。)やウィキペディア(みなの知識を集め、教えあうという意味では教育です)などが例として挙げられています。また、日本ではまだあまり知られていませんが、Changemakers.netという米国のサイトも注目を集めています。これは、期限を決めてスポンサーがテーマを提示し(たとえば、どのようにすれば、ゲームやコンピュータを使って健康や医療をクリエイティブに促進することができるか)、それに対して世界中から、オープンにアイディアやコメントを募る、というものです。
このように、オープン教育は、情報をオープンにすることで、教育にも貢献しつつ、いまや、学習を超えて、社会の広い意味での学習や進歩を支える、ということにも視野を置いています。たとえば、オープンソースによって、ビジネス・チャンスは広がりを見せました。オープン・ソースというと、ソフトウェア業界において、オープンソースの占める重要性が向上した、という点のみに注目しやすいのですが、それだけではなく、そのプログラムを利用することで、資源の限られた事業者たち(中小企業や農家など)が、プログラムを作ることに割り当てる資源を限りなく小さくし、のこりの資源で新しいビジネス・モデルと考えたり実際の製品やサービスを提供することを実践したりできるようになった、と指摘しています。
このiSummitでは、フリーな高校の科学の教科書、南アフリカで物理と数学のオープン教材に取り組んでいるプロジェクト(Free High Schools Science Textbook Project)、Wikiを使った教育プロジェクト、One Laptop per Childプロジェクト(発展途上国の子供1人に1ノートパソコンを、というプロジェクト)などが紹介され、議論されました。その一覧は、こちら(英語)にあります。
しかし、一方で、世界はバラ色なわけでもありません。参加者によるまとめの記事では、オープン教育のロードマップはまだきれいに描けていないこと、そして、そのロードマップた目指すべき明確な絵もかけていない、と言っています。つまり、まだまだ、問題は沢山あり(たとえば、オープン教育の教材作りや利用にどのように参加者を増やすのか、異なるプロジェクトの相互連携はどのようにすれば効率的か、など)、これらの問題を解決しつつ、オープン教育はどこに向かって発展していくのかは、まだまだ未知数なのです。けれども、確実に、この分野でのエネルギーは高まっていて、いくつか、明確なキーワードが見えてきた、と語っています。たとえば、ボランティア・モデル、執筆するためのプラットフォーム作り、オープン教科書、政策的な視点を持つこと、カリキュラムに対する責任の問題、などなど、世界中で議論されている問題には共通点も見られた、ということです。もうひとつ、いえることは、技術やコンテンツ、といったリソースがオープン教育の中で占める割合は、実はそれほど高くなくて、それよりも、いかに教師や学生といった参加者たちがお互いに協力しあう環境やコミュニティを作るか、という人的要素に関するノウハウのほうが重要なのではないか、という指摘だということでした。
最後に、オープン教育に関するキーノート・パネルの席で、CC米国の理事であるJames Boyleが、CC米国の新しい部門として、”CC Learn”という教育部門を、オープン教育に力を入れているヒューレット財団の支援で立ち上げることを発表しました。このプロジェクトは、今年の後半に米国で立ち上がり、まずは、オープン教育におけるコモンズ(共有財産)に関するライセンス・コンテンツ・言語の相互互換性の問題に取り組んでいくということです。
他のオープンな運動と同じように、オープン教育も、今の世界における問題への取り組みのひとつです。その大きな目標のひとつは、教育資源や教育環境の整わない地域に、いかに優れた教育を与えるか、といったことです。日本にいると、とかく、世界における教育の現状などを考える機会は少ないですが、地球規模での教育環境の改善に取り組むこの運動の今後には、ぜひとも注目したいです。
文責: 野口 祐子