CCJPシンポジウム:フェアユースとメディア・コンテンツ産業 開催結果のお知らせ

8月11日、東京大学の福武ホールで、クリエイティブ・コモンズ・シンポジウム「フェアユースとメディア・コンテンツ産業」を開催しました。

パネル:

  • 津田大介氏(メディアジャーナリスト、一般社団法人インターネットユーザー協会 代表理事)
  • 金正勲氏(慶応義塾大学政策・メディア研究科准教授)
  • 野口祐子(クリエイティブ・コモンズ・ジャパン 常務理事、森・濱田松本法律事務所)

司会:

  • 渡辺智暁(クリエイティブ・コモンズ・ジャパン 理事、国際大学GLOCOM主任研究員・講師)

このシンポジウムでは、冒頭、野口からこれまでの経緯をレビューし、法案の形成過程について議論をするところから始めました。その中でシンポジウムを通して度々論点となったのは、当初の知財戦略本部における議論では、技術や社会の変化に対応するできる著作権制度として、フェアユースの導入が重視され、文化庁での議論に至った経緯があるものの、現在具体的に挙げられている3類型は非常に限られた範囲を扱うだけで、当初の目的を達する形になっていないという点でした。

津田氏はフェアユースには期待し過ぎない方がよいとしつつ、アーティストなど当事者が自ら行動を起こすことで事態が大幅に進展するケースがあることをUstreamにおける原盤権処理の例をひきつつ指摘しました。アーティストとコンテンツ事業者の意識が大きくズレて来ていることを述べ、フェアユースに限らずともすれば権利者側対利用者・プラットフォーム事業者側という構図に陥りがちな著作権をめぐる対立を、アーティストやユーザーが声をあげ、あるいは働きかけていくことで解消できる可能性があることを示唆しました。

金氏からはフェアユースは政治的、公共政策的なイシューであるはずなのに実際には既存の法体系との整合性が重視されていることが問題であるという指摘があり、簡単ではないながらも議員立法を考えるべきとの提起がありました。また、フェアユースの重要な目的は、イノベーションやクリエイティビティが発揮されるグレーな領域、異端者が活動できる余地やベンチャーがリスクをとって新しい挑戦ができる領域を作り出すことにあるとしました。

大量生産を中心とする20世紀型のビジネスモデルが機能しなくなっていること、CGMの隆盛が目覚しく、その背景にはフェアユースのような米国の法制があること、日本はイノベーションを活性化させることができなければ国際的に優位性を得られないこと、などがパネリストから指摘され、メディア・コンテンツ産業の転換点に対処する政策としてのフェアユースの価値が改めて論じられる形になりました。現在の法制小委員会で議論されている内容は、そうしたイノベーション促進の効果がかなり低いものになることが予想されますが、そのような結果によってフェアユース導入の目的が果たされたと片付けてしまってはまずい、という指摘もありました。

当日は、津田氏の提供によりUstreamでの中継も行われました。
その様子はTwitterでのつぶやきをtake_yujiさんがまとめたTogetterのページでもご覧いただけます。

ご来場頂いた方々からのアンケートでは、多くの好評を頂きました。
特に、フェアユースにまつわる様々な問題を、立法論に留まらずにパネリスト各自の視点からディスカッションできた点について、面白かったという声が多数寄せられました。
皆様からのご意見、ご感想は、今後のシンポジウムの参考にいたします。

(文責:渡辺、古関)