CC事例その1:大崎一番太郎

はじめに

皆様のおかげでCCライセンスの知名度も増し、活用してくださる方々も増えてきました。そこでこの度クリエイティブ・コモンズ・ジャパンは、今まで活用されてきたCCライセンス及びCC0※の事例を紹介する記事を書くことになりました。皆様の今後のCCライセンスの活用のご参考になればと思います。

CC0:著作者が自身の著作物の著作権を放棄するためにクリエイティブ・コモンズが作ったツール。著作権の保護期間が切れてパブリックドメインになるのを待つのではなく、自発的に著作権を放棄することができ、より多くの人々が自身の著作物を利用しやすくなります。クリエイティブ・コモンズではCC0の他に、一定の範囲内での著作物の利用を許諾するCCライセンスを作っており、クリエイティブ・コモンズ及びクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのホームページで紹介しています。

大崎一番太郎とは

e5a4a7e5b48e 大崎駅西口商店会のマスコットキャラクター、大崎一番太郎

今回ご紹介するのは、東京都品川区・大崎駅西口商店会のご当地キャラクター、大崎一番太郎です。 大崎一番太郎は、大崎駅の再開発計画に伴い、大崎駅西口商店会を盛り上げるために2006年に誕生したキャラクターです。ご当地キャラクターとしての活動のみならず、twitterやニコニコ動画の生放送などネット上による発信も積極的に行っています。2013年から声優の山口勝平さんがキャラクターボイスを担当することになったこともあり、非常に勢いのあるキャラクターです。 大崎一番太郎は2014年2月にCC0を採用し、著作権を放棄しました。今回はキャラクターの生みの親である犬山秋彦先生へのインタビューをもとに、CC0と大崎一番太郎についてご紹介します。

CCライセンスとの出会い

e58588e7949fインタビューに快く応じてくださった犬山秋彦先生

犬山先生がCCライセンスについて知ったのは2013年頃でした。大崎一番太郎をもっと商店会の人たちに使ってもらいたかったというのがきっかけでした。

犬山「商店会で色々と活動をしていく上で、イラストとかきぐるみの写真とかを商店会の人にどんどん使って欲しかったんですね。だからフリーの素材集をCD-Rに焼いて配ってたんですけどなかなか使ってもらえなくて」

また、当時の大崎一番太郎にはネット上に多くのファンが存在し、その人たちと一緒に盛り上げることができないかと考えていたそうです。

犬山「一番太郎のイラストを描いてネットに投稿してくれていたファンがいたので、そういう人たちにもっと自由に活動してもらいたい、というのがありました」

そんな中、著作権について色々と勉強していたところ、コピーレフト※のライセンスやCCライセンスを見つけたそうです。コピーレフトでなくCCライセンスを採用した理由は、使う側のメリットを最大限に活かしたいという先生の意図がありました。

犬山「コピーレフトはちょっと過激すぎる気がしたんですよね。たとえば、そのキャラを使って作られた二次創作の作品も著作権を放棄しなければいけないんです。それだと、せっかくキャラを使ってくれた人にメリットがないなって。たとえ二次創作でも、著作権を主張したい人はいるだろうし、それによってお金を儲けたいという人もいるはずです。そういう人たちのニーズにも応えられなければ、この活動は広がっていかないだろうと思いました」

※コピーレフト:主にオープンソースなどで使われる著作権の一部放棄の一つ考え方。コピーレフトのものを使った作品やプログラムも同じくコピーレフトにしなければならない、という継承の特徴があります。

大崎一番太郎の著作権放棄(CC0)

CCライセンスを採用していた大崎一番太郎ですが、上記のとおり2014年にCC0で著作権を放棄しています。著作権放棄の理由については犬山先生が大崎一番太郎のまとめNAVERに記述していますが、直接のきっかけは大崎一番太郎のキャラクターボイスを作る合成音声プロジェクトだったそうです。

犬山「大崎一番太郎の合成音声を作ろうという、アークプロジェクト※の勉強会がきかっけです。クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの常務理事の渡辺さんと会議で一緒になって、その渡辺さんが『今、クリエイティブ・コモンズを使うとしたらおすすめはCC0なんです』という話をしていたんですね。それまでクリエイティブ・コモンズは知っていたんですけどCC0は知らなくて、表示すらいらないっていうのを聞いてその日のうちに、CC0にすることを決めました」

この勉強会の時点では、アークプロジェクトに参加するかどうかはまだ決まっていなかったそうですが、この時の話がきっかけで、大崎一番太郎にCC0を採用しようと決めたそうです。

※アークプロジェクト:経済産業省の「平成25年度我が国情報経済社会における基盤整備事業(CG・VFX産業クラウド活用・高連携実証事業)」の一環として始まった3Dデータの公開・共有を試みるプロジェクト。ホームページでは、大崎一番太郎の他に株式会社スタジオディーンのボーカロイド「蒼姫ラピス」などの3DデータがCC0で公開されています。

放棄したらこうなった

グッズが増えた

犬山「やはりグッズの数が格段に増えました。それまでは商店会で年に一回くらい予算が下りて1種類くらいしか作れませんでした。しかも小さい組織で作ると、そんなにたくさんは作れないんですよね。だからタオルとかマスコットとか1000個も作ったらそれを売り切るのに1年も2年もかかってしまいました。一番太郎は特に人気もないキャラだったので、グッズを作るだけで赤字になる感じだったんですよ」

大崎一番太郎の母体である大崎駅西口商店会がそもそも小さな商店会であり、他のご当地キャラクターとくらべても非常に予算が少なく、大掛かりなグッズ展開をできないという問題を抱えていたそうです。

犬山「お客さんが手にとりやすい値段にするためには原価が高過ぎるので、原価そのままの値段で販売したり、ファンサービスのために原価より安い値段で販売していたんです。それもおかしな話だと、ずっと心にわだかまりとしてあったのですが、クリエイティブ・コモンズと出会ったことで解決しました」

現在、大崎駅西口商店会の公式グッズもTシャツや缶バッジといろいろあるのですが、その他にも様々な人が大崎一番太郎のグッズ(例としてはスタンプやメッセージカード、シルバーアクセサリー)を作っており、こちらも大崎一番太郎のまとめNAVERの方で紹介されています。またファンだけでなく、企業も大崎一番太郎を使い始めていて、気づいたら大崎一番太郎のデコメ(docomoの無敵スゴデコforスゴ得)が作られていたりと、犬山先生自身が意図しなかった展開も見せており、非常に驚いていました。

e59bb3藍蘭堂工房が制作した大崎一番太郎とスパンキー※のシルバーアクセサリー

問い合わせの現象と作業効率のアップ

また、利用に関する問い合わせが減ったことにより、作業効率も上がったそうです。

犬山「申請されるたびに許可を出していると、個別に対応しているだけでも時間のリソースを奪われてしまいます。ご当地キャラには、タダで使わせてくれという問い合わせがガンガン来るので、使いたい人はネット上にデータがあるので勝手にダウンロードして使ってくださいという風に案内するようにしました。その結果、グッズは増え、問い合わせの件数はグッと減り、僕の作業効率も上がりました」

ご当地キャラクターに関しては、「ひこにゃん」や「くまモン」などの先駆者たちがロイヤルティフリーにしていたこともあり、ご当地キャラは利用や出演費が無料であるケースが多くなっています。つまり、結局キャラクターの利用料は無料なので、CCを採用することに関して抵抗はなかったそうです。

公式グッズの売上にも影響が

e59bb3efbc92大崎駅西口商店会で販売している大崎一番太郎の公式グッズの数々

犬山「大崎駅西口商店会も缶バッジなどの大崎一番太郎の公式グッズを販売しているんですが、この商店会まで来て買ってくださる方はなかなかいないので、あまり利益は出ていませんでした。しかしCC0にしたことでグッズを作ってくれるファンが増えてから商店会のグッズも売れるようになりました。きっと種類が増えたことでファンの消費意欲を刺激し、マーケットが形成されたのだと思います」

グッズを販売するためには場所を確保したり、人件費がかかります。しかし大崎一番太郎グッズは、二次創作している人たちに頼んで公式グッズも一緒に置いてもらうことで、より多くの場所で販売できるようになりました。

犬山「ただし、ファンによる二次創作グッズはクオリティが高いものが多いので、それに負けないように頑張らなければなりません。そういった意味で、昔よりは大変ですね(笑)」

※スパンキー:犬山秋彦先生が最初に手がけたキャラクター、詳しいプロフィールはこちら。大崎一番太郎と同じく、CC0で著作権を放棄しています。

CC0とキャラクターの相性

著作権を放棄をすると、キャラクターが意図しない使われ方をした場合に止められなくなるなどのデメリットも存在します。実際、犬山先生もその点に関しては商店会の方々に説明をしたそうです。

犬山「例えばパチンコ屋の看板に使われたりとか風俗店の看板に使われる可能性もあります。だから、女の子キャラのノン子※は著作権を放棄していません」

ただ、大崎一番太郎の著作権を解放した後も、キャラクターのコントロールがある程度きくこともしてきしてくださいました。

犬山「一番太郎はtwitterをやっているので、人格が存在します。例えば政治とか宗教の宣伝に使われたとしても『別に応援してるわけじゃないよ』と、自分で否定すればいいんです。著作権を放棄しているのえ、勝手に使われるのは構いませんが、それぞれの企業や団体の思想にまで賛同しているわけではないということをきちんと主張して、キャラクターのイメージを保つことは可能なはずです」

※ノン子:犬山先生が手がけた立正大学心理学部のマスコットキャラクター。大崎一番太郎と違い著作権を放棄していないものの、利用の問い合わせがあれば柔軟に対応するそうです。

今後のキャラクターとCCライセンス

著作権を放棄したことによって、多くの人が大崎一番太郎を使うようになったことに対し、先生は『北風と太陽』に例えました。

犬山「使ってくれと頼んでもなかなか使ってもらえなかったのに、著作権を放棄した途端、いろんな人が使ってくれるようになりました。これはまさに『北風と太陽』の太陽みたいな方法だと思いました。他人に無理強いするより、制約を緩和することでみんなが興味を持ってくれたり、心を開いてくれるようになるんだなと学びました」

e59bb33JR大崎駅でも、著作権放棄後からはより積極的に使ってもらえるようになったそうです

また、今後のキャラクターのCCライセンスをつけたりCC0で著作権を放棄したりする動きは広がっていくと期待を寄せてくださいました。

犬山「確かに、既に人気が確立されているキャラクターや、企業が広告宣伝費をかけてキャラクターを売り込める場合は、著作権を放棄せずにビジネスとして利用した方が儲かります。しかし、それができない人にとってはCC0で著作権を放棄して、多くの人に使ってもらうことでキャラクターを育てていくという選択もあると思います」

CC0を使って著作権放棄をした実例は今はまだ少ないですが、大崎一番太郎のように、より多くの人とコンテンツを盛り上げていきたい人にとって、CC0は非常に強力なツールになります。この事例がCC0を使ってみたい人たちの参考になれば幸いです。 協力:犬山秋彦 記者・編集:長谷川世一(インターン),中尾悠里(インターン),冨山京子(インターン)

大崎一番太郎を使いたい方へ

大崎一番太郎の素材は、犬山秋彦先生がこちらのサイトで配布しています。マンガ家の赤井里実先生による大崎一番太郎の擬人化バージョンもCC0で公開されていますので今回の記事を読んで興味を持たれた方は是非ご利用ください。

CC0について

今回の記事でも紹介したCC0は、2015年5月1日に日本語版をリリースしました。詳細はこちらのページでご確認ください。