原文(著者:エリック・ストュワー(2016年2月26日)):https://blog.creativecommons.org/2016/02/26/jonathan-barnbrook-interview/
ジョナサン・バーンブルックは、映画、タイポグラフィ、グラフィックデザインなど様々なメディアで幅広く活動してきた世界的に著名なアーティストです。彼はまた、デヴィッド・ボウイとよくコラボレートしていて、ボウイの最後の4枚のアルバムカバーデザインを手がけました。残念なことにボウイは去る1月、最後のスタジオ録音アルバム、『★(ブラックスター)』発売の2日後に亡くなりました。同アルバムは非常に好調な売れ行きを見せていますが、このアルバムはボウイからファンへの「お別れのプレゼント」になりました。
友人であり、クリエイティブな仕事をする仲間であったボウイへのオマージュとして、バーンブルックは、この「プレゼント」に込められた思いを次の段階へ発展させることを決めました。『★』で使用したアートワークを、クリエイティブ・コモンズ(CC)のBY-NC-SA(表示‐非営利‐継承)の下で公開したのです。これにより世界中のボウイ・ファンはこのアートワークを非営利目的でシェアしたり、リミックスしたりすることが可能となりました。
先日CCは、なぜ『★』のアートワークをこのような形で公開するに至ったのか、バーンブルック氏に話を聞く機会を得ました。彼はCCライセンスの利用を決めるにあたり、大きな追悼と感謝の念が背景にあったことを語ってくれました。
『★』のアートワークをリユース、リミックスできるよう一般への公開に至った経緯を教えてください。
(デヴィッド・ボウイの死で)多くの人々が味わっている悲しみを分かち合うために、もっと公共の、というか「オフィシャル」な手立てが必要とされていると感じました。『★』のアートワークが、たくさんのタトゥーやその他のものに使われているのを見て、こうやって使ってくれている人たちが、このアートワークを違法に使っているとか、こっそり使っているなどと思うことなく、デヴィッドのことを偲ぶことができるものを提供したいと思ったのです。私も彼らと同じくらい悲しかったからこそ、みんなが感じていることを分かち合い、理解しあおうと積極的に考え、このアートワークを公開することにしたのです。
集団で公に悲しむことを軽んじる人がいますが、それはちょっとお粗末な考えだと思います。ある一人の人間が媒介となって、一つの時代のイデオロギーや哲学を伝える事もできるのですから。デヴィッドは、人が社会の中でこうありたいと思う姿を表現していました。ほとんどの人がそんな機会に恵まれない社会で。だからこそ、彼を失った悲しみはとてつもなく大きいのです。社会にうまく適応できない人や、自分が望む居場所にいられない人、そんな数多くの人たちに、彼は希望をもたらし、そんな人々のために表現活動をしてくれました。だからデヴィッドが亡くなって、みんなが大きな喪失感に見舞われたことは当然です。
私たちの生活で音楽はずいぶんとその重要性を過小評価されている、とも感じています。音楽は直接、紛争を解決したり人の命を救ったりするものではありませんが、人生を肯定してくれる大切な存在です。落ち込んだ時にそれを乗り越えるのを助けてくれたり、最高の喜びの瞬間を表現してくれたりします。一つの時代や哲学の象徴になったりもします。繰り返しになりますが、こういった諸々のことを、音楽という目に見えないもので表現してくれた人がもうこの世にいない、自分の生活の一部から消えてしまった、となった時、悲しみを覚えるのは当然のことなんです。
デヴィッドのアルバムカバーの仕事をするときはいつも、とても大きな責任と名誉を感じていました。だから今回の(CCライセンスを利用した)公開は正しいと思いました。
アートワークのリユース、リミックスを可能にするうえで、CCを選んだ具体的な理由はなんでしょうか。
CCは、よく考えられたシンプルなシステムです。みんなが知っていますし、誰もが理解できます。ライセンスの内容を詳しく知りたければ、じっくり読むこともできますし、簡単に理解したければウェブサイトを見るだけで済みます。アルバムの売り上げに何らマイナスの影響を及ぼすことなく、作品を好きなように利用できるという点もあります。
こういった公開は、ボウイの存命中にも考えたことだったのですか?
デヴィッドが亡くなる前に話したことがあり、彼も素晴らしい考えだと言っていました。そのときは、デヴィッドの死という悲しい状況がきっかけで実際に公開することになるとは全く想像していませんでしたが。アイディアを思いついたのは、アルバム『ザ・ネクスト・デイ』が出たときです。デヴィッドのファンが、アルバムカバーにある白い四角の形を抜き出して、自分たちの好きなように使ってくれたんです。そんなことが起きるとは想像していませんでしたが、すごくいい気分でした。『ザ・ネクスト・デイ』のデザインを使いたい、(そのデザインに対し)自分たちは(作品やアルバムのデザインに対して)こう思ったと表現したい、関わりたいと思ってくれたわけですから。『★』をリリースする際には、ベースとして、こういうことが起きるということを考えておかなければいけないと感じました。古い体質のレコード会社が、レコードを出すときには著作権だのなんだのを全て持って、ファンが何か反応したり、自分の解釈を加えたりできないようにしているのは間違いです。一方通行の体験ではなく、音楽を愛する人々への敬意や理解を示すものでなくてはならないのです。アートワークの公開では、音楽自体がレコード会社の資産ということには変わりなく、そこに影響は及びません。ただ、ファンはアルバムについてだとか、デヴィッドが彼らにとってどんな存在だったのかとか、それぞれの思いを表現することができます。デヴィッドが亡くなり、そうすることが一層重要だと感じました。お金儲けのためということではなく、あのアートワークを使わせてくれないだろうか、そう多くの人に聞かれましたから。
アートワークの公開以来、感謝の言葉を綴った温かいメッセージをたくさんもらっています。デヴィッドを偲ぶうえで、アートワークを利用できることがどんなに素晴らしいことなのか、という言葉ももらいました。そんなメッセージを読むたび、涙が浮かんできます。
何か面白い使用事例やリミックス作品はありましたか。
『ジギー・スターダスト・ストライプ』(と呼ばれる)デザインと組み合わせている作品があって、本当に素晴らしいと思います。このストライプは素晴らしいグラフィック作品で、『★』(のアートワーク)にも同じような思いを持ってもらえることを光栄に思います。
一人のアーティストが人の人生にどのような影響を与えるのかは、非常に個人的で特別なものです。派生作品の制作を可能にするCCライセンスを選んだ理由の一つは、そこにありました。人々が自分の好きなように解釈し、それを自由にできると感じていることはとても重要です。私がこうしろああしろと示すべきではありません。私は、ある一つの素材を提供しただけにすぎません。
このアートワークを使ってどのような作品を作ってもらいたいと思いますか?
答えはいたって簡単。デヴィッド・ボウイへの愛と感謝を表現してもらいたいです。
CCのことは、どうやって知ったのですか?
ずっと前から気になっていました。アートワークに関し、既存の「商業的vs.非商業的」の型に当てはまらないやり方でクリエイティビティを共有する、素晴らしい先駆的なモデルの一つだったからです。金銭的な価値を大きく超えた次元で共有する場は必要です。人間らしさ、思いやりといったものはお金ではなく、人と人の間の有意義なやりとりの上に成り立っているのです。
(作品の)公開や共有が、あなたの作品や制作過程にはどんな影響がありましたか?
私にとって基本的な考えになっています。音楽作品以外にも、(私のスタジオは)たくさんの社会的活動に関する作品を手掛けてきました。どれもある主義や考えに根ざしたものです。そういった考えを広めることは、活動家たちの理念の実現には欠かせません。私たちは多くの作品を皆さんに自由に使ってもらえるようにしてきました。間もなく、私たちの新しいウェブサイトでも、再びCCライセンスを使おうと考えています。
翻訳:松丸、東久保、水野