Day: 2020年4月1日

今こそオープンアクセスポリシーが重要なときだ

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オープンアクセスに強く懐疑的な人たちさえも困惑させたニュースが出た。「トランプ対ベルリン」という見出しのもと、ドイツのWelt am Sonntag新聞は、トランプ大統領が「アメリカ合衆国のためだけに」COVID-19ワクチンを確保するべく、ドイツの製薬会社CureVacに対し10億ドルの支払いを提案したことを報道したのだ。

これに対し、ドイツの保健相のJens Spahnは、そのような取引は「ありえない」と述べ、ドイツの経済相のPeter Altmaierは「ドイツは売り物ではない」と話した。特に憤慨したのがオープンサイエンスを推進している人々だ。Trinity College DublinのLorraine Leeson教授は、「今はこのような行動を起こすようなときではない。これは有意義な対応をするために今やっている #OpenScience の活動に逆行する行為だ。今は排他的な行動ではなく連帯のときだ。」とツイートした。ホワイトハウスとCureVacは報道を否定している。

今私達は、共に効果的に協力し前例のない世界的な健康危機に対応しなければならない、歴史的な転換点にいる。「when we share, everyone wins(共有するとき、皆が利する)」という標語が今ほどあてはまるときはない。これを念頭に、我々は危機的状況下におけるオープンアクセスの重要性、とりわけオープンサイエンスの重要性を強調する必要があると感じた。

世界的な健康危機の状況下でなぜオープンアクセスが重要なのか

特に脅威が迫っている状況下で世界の健康状態を維持するためには、科学者のみならず、市民、政府関係者、医療関係者に対して、信頼できる最新の科学に基づいた情報を作成し広めることが重要だ。CC-now-1

Gates FoundationHewlett FoundationWellcome Trustといった科学研究の資金を提供する団体は長きにわたってオープンアクセスポリシーを維持しており、COVID-19の流行を抑えるために、関連する研究を迅速に、開かれたかたちで共有するさらなる努力を呼びかけているところもある。世界保健機関(WHO)の資料はCC BY-NC-SA(表示 – 非営利 – 継承)がつけられている。この保守的なアプローチは科学コミュニティが今まさに必要としている、重要な情報にアクセスし利用するための水準には達していない。

公的資金を受けているすべての組織は以下の2点を実施すべきである。1) オープンアクセスポリシーを導入し、公的資金を受けて行われた研究をオープンライセンス(例えばCC BY 4.0)のもとで公開する、あるいはパブリックドメインに置く。これは、研究論文や研究データが自由に再利用可能なことで、科学者同士のコラボレーションが促進され、新たな発見が加速されることを意味する。2) 信頼できる実用的な情報を市民に広めるために、動画、図解、その他のメディアツールなどの教育リソースにもオープンライセンスを確実に導入する。

現在急がれているCOVID-19のワクチン開発は、科学研究と教育資料への迅速で自由なアクセスが、あらゆる意味で、最も開かれたかたちで提供されることが極めて重要であることを示す良い例だ。大流行するまで科学者もこの病気を全く知らなかったという事実、今では世界的になっているという事実を含め、この病気の性質それ自体からして、一つの組織、機関、政府がこの危機に単体で取り組むことは不可能だ。実際に、中国の衛生当局者や研究者が2020年1月にウイルスの性質に関する重要な情報を共有していなければ、現在のCOVID-19のワクチンを開発する世界的な努力は実現していなかっただろう。

私達は、共に効果的に協力し、前例のない世界的な健康危機に対応しなければならない、歴史的な転換点にいる。標語である「when we share, everyone wins(共有するとき、皆が利する)」は今ほどあてはまるときはない。

COVID-19の感染者数は世界で20万人を超えており、科学コミュニティ全体と世界中の衛生当局者が協力し、治療法とワクチンを開発し共有することが緊急の課題となっている。3月13日には、12カ国の政府の科学アドバイザーが、出版社に対し、COVID−19に関する科学研究とそのデータをオープンアクセスにすることを求める公開書簡を発表した。そこには「現状の緊急性を考慮すると、科学者と市民が可能な限り早く研究結果にアクセスできることが特に重要である」と書かれている。これらに加え、WHOなどの政府間組織によって作成された教育資料も制限なしに開かれたかたちで利用可能とするべきだ。これは現在の世界的な危機において必要であるだけでなく、こうした機関の公的使命および義務にも合致している。CC-now-2

この公開書簡が発表される前に、すでに多くの科学者がbioRxivArXivGisaidといったプレプリントを掲載するプラットフォームを通じて、研究結果とデータをオープンアクセスで公開し始めていた。非営利団体であるFree Readは「unlock coronavirus research(コロナウイルス研究を開放する)」ための請願で、1週間で3万2千もの署名を集めた。これを受け、Elsevier、Oxford University Press、Springer Nature、The Lancetなどの出版社はCOVID-19関連の論文の購読料を撤廃しはじめた。New York Times、Bloomberg、The Atlantic、Clarin、Publico、Globo、Folhaといった世界中のメディアもCOVID-19関連の記事を無料で読めるようにしている。個々の科学者も、メディアと共同で、複雑な科学的コンセプトを解説する図をオープンライセンスのもと公開し始めている。たとえば感染症の専門家であるSiouxsie Wiles博士が、どうすれば「感染のピークを抑えられるか」を説明したこのGIF画像はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 継承 4.0 国際(CC BY-SA 4.0)のもと公開された。

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オープンサイエンス支持者の多くがCOVID-19に関する科学研究をオープンアクセスにするこれらの取り組みを称賛しているが、これらは今までもずっとやるべきことであったとも主張している。カリフォルニア大学バークレー校の生物学者であり、オープンアクセスジャーナルのeLifeの編集者であるMichael Eisenは、WIREDにて「もちろんオープンアクセスとすることはCOVID-19だけでなく、すべての科学研究についてのデフォルトであるべきで、過去25年のあいだもそれがデフォルトであるべきだった。しかし、今そうなりつつあるのを見れて嬉しい。」と語った

Plan Sは自身のウェブサイトで、購読料を課すことは「科学コミュニティの大きな部分および社会全体から、多くの研究結果へのアクセス」を保留していると主張している。これは「共同体としての科学研究の基礎部分を妨害し、社会による科学への理解を妨げる」ことになる。例えば2014年に西アフリカで起きたエボラの流行について研究している研究者は、ウイルスとそのリスク要因に関する必要な知識が、出版社による購読料の設定により必要なところに伝わらなかったことを明らかにした。彼らは「知識へのアクセスそのものはエボラの流行を防ぐことはなかったかもしれないが、衛生当局者たちがより情報を持つことで、時宜にかなった予防策や、より準備の行き届いた状態で、流行時および流行後の対策を行えたかもしれない。」と記している。

今こそオープンアクセスポリシーを導入し、改善するときだ。

これらの理由から、クリエイティブ・コモンズ(CC)は英国研究・イノベーション機構(UKRI)などの組織や政府に対してオープンアクセスポリシーを導入することを呼びかけている。CCは現在UKRIが提示したオープンアクセスポリシーに対するパブリックコメントプロセスへのコメントを準備しており、アメリカ連邦官報の「政府資金による研究の、査読付き学術出版物、データ、コードへの公的なアクセス」の情報提供依頼書へも同様のコメントを共有する予定でいる。

CCライセンスはオープンライセンスの世界標準となった。様々な政府と組織におけるオープンアクセスポリシーの作成、導入、実施の取り組みの支援をしてきた今、私達は引き続き、研究者、産業、そして公衆の利益のためのオープンアクセスを強く支持し続ける。これは、国際組織または政府の資金提供によって作成されたすべての情報を、最大限に再利用できるようにすることを含む。加えてCCは、「Public Statement of Library Copyright Specialists: Fair Use & Emergency Remote Teaching & Research(図書館著作権専門家による公的ステートメント:フェアユースと緊急時の遠隔授業と研究)」のような、現在のような例外的な状況においてフェアユースがどのように適用されるかを明確にしようとする取り組みを支持する。上記の資料はアメリカ合衆国の、マサチューセッツ工科大学を含めた複数の大学の、著作権に詳しい専門家の図書館員のグループによって公開されたものである。

オープンアクセスポリシーの導入やCCライセンスの付与についてのお問い合わせはinfo@creativecommons.orgまでどうぞ。(日本ではCCJPも同様のお手伝いを致します。お問い合わせについてはhttps://creativecommons.jp/contact/を御覧ください。)

👋COVID-19の蔓延を食い止めるためにWHOがまとめているとおり、20秒以上の手洗いや、密集・密接を避けることなどを実践しましょう。

このブログ投稿はVictoria Heath と Brigitte Vézina による“Now Is the Time for Open Access Policies—Here’s Why (March 19, 2020)”を翻訳したものです。

(担当:豊倉)