オープンアクセスの実践:ヒューレット財団代表のLarry Kramerとの会話

Victoria HeathVictoria Heath
2020年4月23日

クリエイティブ・コモンズ(CC)は2001年に創設されて以来、私達と同じくらいオープンアクセス、オープンコミュニティ、グローバルコモンズを大事にし、同じ考えを持つ組織や個人からサポートを受けてきた。20周年を迎えるにあたって、私達は過去を振り返り将来の展望を考えている。そしてそのために、過去20年の、私達の活動を可能にしてくれてきたサポーターの話を聞かないわけにはいかない。

The William and Flora Hewlett Foundation(ヒューレット財団)はCCの長年のサポーターであり、共に考えてきたパートナーである。私達は財団の代表であるLarry Kramerに財団の慈善活動におけるオープンアクセスの価値と、オープンムーブメントについて彼が考える将来像を語ってもらった。

以下の会話は、明確さと分量調整のために少々編集を加えている。

CC:ヒューレット財団は10年以上の間CCの資金提供者、またパートナーとして務めていただいています。財団がCCの取り組みの中に見出した価値と、オープンアクセスがなぜそれほど重要なのかについて教えてもらえますか?

Larry Kramer:オープンネスは私達の中核的な指針のひとつです。私達は、知識や経験、課題と成果を他の人と共有することが信頼を生み、どのように改善していけるかのアイデアを引き出すきっかけになると考えています。私達は継続的な学習に重点をおいており、オープンアクセスはその目標を達成するための重要なパーツであると考えています。

クリエイティブ・コモンズが創設された当時、クリエイターたちが他の利用者がコンテンツを利用または改変することを日常的に許可するという考えは非現実的に見えました。今日、クリエイティブ・コモンズは、知識をより自由に入手可能とし、コラボレーションを育み、世の中が全ての人にとってより良い場所となる進歩や改善を促進する、大きな、そして拡大しつつあるムーブメントを支えています。最も根本的なレベルで、クリエイティブ・コモンズが促進する共有は、良いアイデアが知られ、影響力のあるものとなるチャンスを広げています。私達はこれに非常に関心を持っており、クリエイティブ・コモンズとのパートナーとしての関係が長年続いている理由です。

CC:2014年にヒューレット財団はオープンライセンスポリシーを財団の助成金を受け取る全ての人に拡張し、「ヒューレット財団が取り組むと決めた課題を解決するためには、良いアイデアが必要だが、アイデアだけでは不十分だ。他の人があるアイデアから学び、それを発展させられるように、助成金を受け取る人に、自らのアイデアを共有するようにお願いすることで、他の人がそこから学び、その上に積み上げることができるようにし、それらのアイディアが批判され強化され、もっと先まで届くようになることを助け、最終的により多くの価値を生み出す手助けとなる。」と記載しました。

この決定に至るまでの過程を教えてもらえますか?

Larry Kramer:ヒューレット財団は、私達の経験から学ぶことができるように、助成金に関係する情報をオープンライセンスのもとで提供するというポリシーを長らく持っていました。私達は、外部に委託した評価報告の他、私たちの戦略文書、個々の助成に関する非機密情報を共有しています。2014年には、例外的な状況を除き、助成金で作成された資料も含むようにオープンライセンスへのコミットメントを拡張しました。基本的な決定を下すことは難しくありませんでした。私達はオープンネスやそこから生まれる価値を信じているので、私達の資金援助によって作り出されたものにも私達自身が作り出したものにもその原則を適用することは自然なことに思われました。しかし同時に、私達は、異なる業務モデルを持つ組織による、様々な文脈での、多様な分野の取り組みを支援していることから、包括的なルールを適用してしまうと上手く行かないことも知っていました。たとえば、このようなポリシーが与える影響は、シンクタンクに所属している研究者と、舞台芸術団体に所属しているアーティストとではかなり異なってきます。そこで私達はこの件について吟味し、組織内そして助成金の受け取り手との会話を積み重ね、意図せずして助成金の受け取り手が傷ついたり負担を抱えるないようにポリシーを策定した後ではじめて、実行に移しました。この話し合いのプロセスが完了した時、私たちはプロジェクトの助成金のための新たな言葉と、受け取り手がこれらの条件をどのように満たせるのかを理解するためのツールキットが出来上がりました。

幸いこの方法は非常に上手く行きました。参考となる資料が少ない分野にでは、何かをオープンライセンスにするにはどうしたら良いか悩むことがよくあります。私達は、助成金の受け取り手や他の支援団体との間で、オープンライセンスが何であり、それが目標達成にどのように貢献できるかについての共通の理解を築くことを試みました。その最良の方法を模索してしている助成金の受け取り手に対しては、時には法律相談を提供することもあります。

CC:オープンアクセスの推進者たちは、オープンアクセスによって情報などがよりアクセスしやすく、公平でイノベーティブな世の中になると信じています。ヒューレット財団がこの考え方が実際に作用しているのを見て取った事例はありますか?

小さなセンターで収益性のある商品を作り、地元マーケットで販売し、個人の所得を得ているNairobi Young and Old Cooperative(ナイロビ若者と高齢者協同組合)の女性メンバーたち。彼女たちはDSW(Deutsche Stiftung Weltbevoelkerung)の支援をうけている。 Image by Jonathan Torgovnik/Getty Images/Images of Empowerment, June 2014 (CC BY-NC).

Larry Kramer:世界11カ国の女性の画像2000枚がオープンライセンスで収められているImages of Empowermentは確かな事例の一つです。ビジュアルは偏見を生むことも変えることも可能であり、行動につながることもある、ということはよく実証されています。数年前、「グローバルディベロップメントと人口」助成金プログラムに携わるプログラムオフィサーの一人は、私達の発展途上国の女性に対する「見方」を変えたいと考えていました。私達はGetty Imagesと協力し、女性が意思決定をし、所得を得て、自身と家族のために生殖に関わる医療とサービスを受けているところを写した、新たなストックフォトのコレクションの作成に資金を提供しました。これには2つの目的がありました。1つ目は、女性の生活をより正確に、ポジティブに表現すること、2つ目は、画像を公共物とし、非営利団体が自由に利用可能とすることです。私達は利用と再利用を促進するためにはオープンライセンスが必要であると認識していました。非営利団体は、自らの活動内容を伝えたり影響力を示すにあたり、手頃な価格で、簡単に画像にアクセスすることができない場合がほとんどです。これらの写真には、このような活動を担う活動家と、これらの出来事をカバーしている報道機関、どちらにも足りなかったものを補充する意図がありました。その後David and Lucile Packard Foundationもコレクションに写真を追加し、現在ではこの画像セットにはコロンビア、ガーナ、インド、ケニア、ペルー、ルワンダ、セネガル、南アフリカ、タイ、ウガンダ、アメリカ合衆国の、コミュニティ内で働き、活動している女性の高品質なエディトリアル用画像2000枚を含んでいます。

もう一つの例は、無料で、リミックス・改訂可能な学習資料であるオープン教育リソース(OER)への長期的な投資です。CCと同様に、ヒューレット財団はOERが誕生した2001年からOERへの投資を行っています。私達は知識へのアクセスの容易さの差は学習の障壁であってはならないと信じており、OERはクオリティの高い教育の機会を世界中の学生に提供します。クリエイティブ・コモンズはOERのインフラのバックボーンを提供していることから、私達がOER関係で最初に資金提供を行った団体の一つでした。OERの利用が増え、分野としても成長する中で、クリエイティブ・コモンズは私たちの助成金の受け取り手に一貫したサポートを提供してきました。その取組が現在、COVID-19パンデミックにより突然遠隔学習へ切り替えざるを得なくなっている世界中の無数の学生の利益となっています。これらの資料がどれくらい効果があるかについての教訓も集まっており、これらはパンデミックが終息した後にも引き継がれます。

CC:他の慈善団体がオープンアクセスポリシーの採用を躊躇する原因となっている可能性のある課題や障壁は何でしょうか?

Larry Kramer:オープンアクセスポリシーを採用するにあたって、躊躇してしまう原因が少なくとも2つがあります。そしてどちらも慈善団体に限ったものではなく、より広くあてはまるものかもしれません。1つ目に、オープンライセンシングについての理解不足があります。オープンライセンシングとは何で、なぜ重要で、どのような仕組みなのか。オープンアクセスは多くの組織のリーダーにとって全くの新しいトピックです。2つ目に、組織またはその助成金の受け取り手のカルチャーにこのような新しい優先課題を課すことへの躊躇もあります。真にインパクトのあるオープンアクセスポリシーは、法務部の専門的な補助から、組織のウェブサイトで使う画像の選定を行うコミュニケーション部門まで、その組織の全ての部署と関連します。チェンジマネジメントは常に難しいものですが、ここまで広範囲に及ぶ変化は負担の大きな取り組みとなることがあります。

オープンアクセスポリシーを推奨するために、クリエイティブ・コモンズはオープンアクセスというトピックに異なる視点からアプローチするCC Certificateのような取り組みを土台に新しいものを作るのが良いかもしれません。CC Certificateそのものは法的ライセンスに関するものですが、オープンアクセスは幅広い課題を解決する手助けとなります。そしてそれを組織のリーダーに伝えることが重要です。何がうまくいき、オープンアクセスがどのように役に立つかを示す事例を提供するといったことです。オープンアクセスポリシーを慈善団体で定期的に行われている他のチェンジマネジメントの取り組みと結びつけることも良いでしょう。

自身のアート作品のインスピレーションをクラスメートに説明する中学生。Image by Allison Shelley/The Verbatim Agency for American Education: Images of Teachers and Students in Action (CC BY-NC), an open-access image collection commissioned by The Hewlett Foundation.

CC:5年、10年先を考えた時、オープンアクセスポリシーと支援に関して「成功」とはどのようなものであると考えますか?

Larry Kramer:COVID-19の世界的なパンデミックは、世界的に教育と基礎的な医療へのアクセスを悩ませてきた長年にわたる不平等を拡大させ、またその不平等に光を当てました。同時に、人々が協力して取り組み、共に学び、お互いの考えの上に積み上げていけることの重要性も示しました。2020年に起きたあらゆることを受けて、公的な資金を受けた研究と教育資料にオープンライセンスを適用するポリシーを世界中の国々が採用したら素晴らしいですね。遠隔学習を用いる必要がきっかけとなって明るみに出た学習教材へのアクセスについての危機的状況を考えると、OERの作成と利用についての教育機関によるサポートは増加するでしょう。公共の利益となる取り組みや成果物が市民によって所有され、人々によって自由に利用できるように、他の財団がオープンアクセスポリシーを採用し、共に貢献することも私達は歓迎します。

ヒューレット財団のような個人や組織が共有のために使える、オープアクセスのためのツールやプラットフォームの作成や、CCライセンスの管理を私達が継続できるように、クリエイティブ・コモンズへの寄付をご検討ください。オープンアクセスポリシーの導入やオープンライセンスの利用についてもっと知りたい方は、CC Certificate のコース、またはこちらの無料のebookをご覧ください。

時間と思慮に富んだ言葉を提供してくれたLarry Kramer、この記事の作成に助力してくれたNeha Gohil、支援をしてくれたThe William and Flora Hewlett Foundationスタッフの皆さんに感謝の意を評します。

このブログ投稿は Victoria Heath による“Open Access in Practice: A Conversation with President Larry Kramer of The Hewlett Foundation”を翻訳したものです。

(担当:豊倉)