著作権法は博物館がその使命を果たせるようにしなければならない

Brigitte VézinaBrigitte Vézina

2020年5月18日

※原文における”Museum”という単語は博物館だけではなく美術館なども含んでいる。本記事では便宜上、博物館と訳している。

今日は国際博物館の日で、私達クリエイティブ・コモンズ(以下、CC)は世界の多様な文化、アイデア、様々な形の知識へのアクセスをキュレートし、世話し、提供する機関を祝うことを楽しみにしている。普遍的な価値である平等、多様性、インクルージョンを誓う今年のテーマは、博物館が異文化間の橋渡しと社会変革の強力な駆動力となり得ることの証だ。

国際博物館会議がデザインした2020年国際博物館の日のポスター

CCの私たちもこれらの価値観を共有しており、博物館をサポートし、世界中の社会の文化的基礎を育む手助けができることを嬉しく思っている。私達はこれをopenGLAMの活動を通じて行っている。openGLAMでは、文化団体がCCライセンスとツールを最大限活用し、文化遺産を可能な限りオープンなかたちでオンラインで共有することを支援している。また私達は著作権法とポリシーの分野において博物館の利益を推進することにも勤しんでいる。博物館の懸念事項やニーズが著作権者のものと対等に、バランスの取れたフェアなかたちで扱われるように担保するがCCの著作権ポリシーアジェンダの中心にあるのだ。このブログ記事では、博物館が不当な法的負担を強いられることなくその使命を果たすための柱となる著作権の例外・制限規定(L&E)の重要性に焦点を置く。

著作権の例外・制限規定(L&E)はクリエイターの権利と、利用者及び世間一般の正当な利益と権利の公平なバランスを確保するために存在する。L&Eは、著作権者からの承認がなくても、ほとんどの場合支払いなしでの利用を可能とする。コモン・ロー(慣習法)の国では、これらは多くの場合「フェアユース」または「フェアディーリング」の形態をとる。シビル・ロー(制定法)の国では、L&Eは多くの場合法律で規定の範囲を明確に定義している。

コレクションを皆と共有することは博物館のかけがえのないな使命だ

博物館は信じられないほど多様な歴史、人工物、経験を収集、保存、研究、解釈、展示、教育し、来館者(現地でもオンラインでも)が触れ、参加する場を提供する。博物館は、知識と文化へのアクセスを提供し、経済的、社会的、文化的な進展に貢献するという公益のための使命を委ねられている。ギャラリー、図書館、アーカイブ(合わせて「GLAMs」と呼ばれる)と共に、多くの博物館が現在と将来の世代の利益のために、デジタル技術を活用することによって、コレクションを保存し、アクセスを提供しようと努めている。例えばParis Muséesは、最近100,000点を超える作品をクリエイティブ・コモンズ・ゼロ(CCØ)のもと、パブリックドメインとしてリリースし、美術・文化の財のオープンアクセスの重要性を認識しているGLAMの増大するリストに名を連ねた。これは気候変動などの世界的な課題によって生じる消失と劣化のリスクに対する取り組みとして特に重要である。

Paul CardonによるフランスのフェミニストジャーナリストであるCaroline Rémy (1855-1929) のポートレート。こちらはパブリックドメインである。Paris Muséesにより利用可能となっている。

文化遺産に特化した博物館の場合には、世界共有の遺産をネットを通じて広めることは公的な使命とダイレクトに合致する。デジタル写真だけでなく書誌情報やメタデータを含む作品の情報まで、来館者および一般市民に対して情報とコンテンツを共有することも重要である。

著作権は博物館の基本的な機能の邪魔になってはいけない

悲しいことに、全ての大陸の博物館において、著作権によって保護されている作品を保存目的で複製したり、オンラインで閲覧可能にしたりするといった基本的な機能は、複雑・乱雑に絡まり合った著作権上の諸問題によって妨げられている。これは法的な不確実性が強いデジタル環境において特に顕著である。悩ましいグレーゾーンのひとつに、独創性のない複製についての権利の主張がある。これについてCCは、デジタル化されたパブリックドメイン作品はパブリックドメインとすべきであると断固として主張している。古くなった整合性のとれていない著作権のルールが世界中で、博物館の正当な活動をできなくし、博物館が知識と文化へのアクセスの提供に取り組む努力を抑圧してしまうことで不平等を拡大させ、共有されるデジタル遺産にブラックホールを作り出している。

公益に資する場合、著作権は制限されるべきだ。博物館が使命を果たせるようにするには、より強い、明確で効果的な制限・例外規定が必要だ。

私たちCCは、著作権法が、保全活動や教育へのアクセス、科学、文化に関する作品へのアクセス、その他公益に資する博物館の正当な活動の障害となってはならないとする考えを強く支持する。事実私たちは、公益に資する場合、著作権は制限されるべきだと考えている。このような理由から私たちは、博物館が使命を果たせるようにするには、より強い、明確で効果的な制限・例外規定が必要だとする国際博物館会議(ICOM)の主張に全面的に賛同する。実際に私たちは先月、世界知的所有権機関(WIPO)に対し文化遺産の保存を可能とする明確なルールを示す国際的な法的制度を早急に創設することを求める、ICOMを含む複数の団体によって作成された公開書簡に署名した。

制限・例外規定に関する国際法・ポリシーの進むべき明確な道筋

ヨーロッパ内の事例では、2019年のデジタル単一市場における著作権に関する指令(CDSM)には博物館をサポートし、文化遺産のデジタル化とオンラインでの共有を推進するための複数の制限・例外規定が含まれている。例えば第6条では文化遺産の保存を目的とした活動のための例外規定が設けられ、第14条ではパブリックドメインにある視覚芸術作品の忠実なコピーはパブリックドメインでなければならないとしている。CCの姉妹的な組織であるCommuniaはCDSMの導入にあたってのガイドラインと支援を提供している。EU加盟国は、博物館の社会における重要な役割を認識、サポートし、国内の著作権法に明確な制限・例外規定を設けるための、このかつてない機会を2021年6月までに利用する必要がある。

国際的には、博物館の利益となるような強制的な制限・例外規定を設けた明確な国際的フレームワークは存在しない。これはつまり、自国の著作権法に博物館にやさしい制限・例外規定を設ける義務がないことを意味し、実際に多くの国々では設けられていない。Dr. Lucie GuibaultとJean-François Canatが主導した博物館を対象とした制限・例外規定に関する2015年のWIPOの調査は、制限・例外規定は法的管轄域によって大きく異ることを示した。WIPO加盟国のうち博物館に特化した制限・例外規定を設けている国は3分の1以下で、3分の2の国は博物館が一般的な制限・例外規定とライセンスによる解決の両方またはいずれかに頼るに任せている。特化した例外は保存を目的とした複製、展示カタログでの作品の使用、作品の展示、孤児作品の使用を含む。一般的な例外は教育目的での利用または個人利用を含む。WIPOの2019年のRevised Report on Copyright Practices and Challenges of Museumsでは、制限・例外規定はその法的な不確かさが災いしてしばしばよく理解、利用されていないとしている。

このため、実情にそぐわない、実現困難な、そして時に端的に不公正な著作権ルールに従うことの負担なしに博物館が正当な活動を行う権利を明確に制度化した国際的な取り決めを作成することが不可欠である。先日このブログで述べたことだが、博物館とGLAM全般の利益を保護を念頭に置き、WIPOの著作権及び著作隣接権に関する常設委員会(SCCR)内で制限・例外規定を迅速に推し進める方策を確立させる時期が来ている。作品への視覚障害者のアクセスに関する2013年のマラケシュ条約の採択を参考に、SCCRは今、GLAMのための明確で拘束力のある制限・例外規定の作成に集中するべきだ。

博物館は一年を通して祝われても良いくらい様々な価値を生み出している。私達はopenGLAMと著作権ポリシーの取り組みを通じて博物館部門をサポートすることを誇りに思っている。さらに詳しく知りたい方は、info@creativecommons.orgまでご連絡をどうぞ。(日本ではCCJPも同様のお手伝いができる場合があります。お問い合わせについてはhttps://creativecommons.jp/contact/を御覧ください。)

このブログ投稿は Brigitte Vézina による“Copyright Law Must Enable Museums to Fulfill Their Mission”を翻訳したものです。

(担当:豊倉)