ライセンスの執行

クリエイティブ・コモンズ・ライセンスは、シンプルな条件の下でクリエイターが自身の作品を自由にシェアすることを可能にする法的なツールです。これらのライセンスは芸術的、教育的、学術的、そして表現的文化の繁栄を目的としているため、CCライセンスの付与されたマテリアルを利用するための条件は最小限にとどめられています。CCライセンスを使う人はシェアがしたいのであり、見返りをあまり求めません。CC BY については作者のクレジット表記とライセンスの承認を、その他のライセンスについては作品の再利用についてのいくつかの条件が求められるだけです。

しかし、CCライセンス作品を利用するために守るべき条件がシンプルなことと、それが重要ではないことを混同してはいけません。

公開された作品に付与されたCCライセンスは、作品を再利用するための分かりやすい案内であると同時に、作者の意思表示でもあります。コモンズの健全さと持続可能性は、これらの意思表示の尊重にかかっています。作品の再利用者がライセンスの条件に従うために最善を尽くすことが重要であると私たちは考えています。そしてこれらのシンプルな条項を無視する形でCCライセンスの付与されたマテリアルが利用されていた場合、私たちはライセンスの執行を支持します。CCライセンスが国際的に法的な執行力を持つように、何百人もの法律の専門家によって細心の注意が払われました。そしてこのしっかりした法的な後ろ盾が、CCライセンスの枠組みの力と成功の重要な要素であると私たちは考えています。同時に、CCライセンスが使用されてきて20年以上になりますが、訴訟がこれほど少ないことも喜ばしいことです。コンプライアンスを巡るほとんどの論争は裁判所外で解決されており、これはコモンズが健全に機能している証しであると私たちは捉えています。

しかしここ数年、CCライセンスが付与された作品を巡って、訴えを起こすという脅しや、実際に訴訟となる事案が増加しています。この事象に関する最近の学術研究では、ライセンス違反を主張して一人のクリエイターが2019年から2020年の間に40以上の訴訟を起こしたことが明らかになりました。訴訟の増加の理由の一つは、自動化されたツールを使ってライセンスを遵守していない事例をウェブから探し出し、クリエイターが著作権を執行することを支援する、 Pixsy などのサブスクリプションサービスの広まりにあると思われます。著作権法が設けている高額な罰金により、ライセンスの執行は高収益になりえます。

「ビジネスモデルとしてのライセンスの執行」は、厳格な著作権法とペナルティを軽減することを目的として創設されたクリエイティブ・コモンズの理想から逸脱するものです。同じくらい重要な点ですが、ライセンスの強引な執行はCCライセンスの全般的な試みにとって有害なものです。これはCCライセンスが付与されたコンテンツを再利用する公衆からの信頼を低下させる行為です。また、裁判所が過剰に訴訟を起こす許諾者(ライセンスする方)に対して煩わしさを募らせたり、ライセンスに関して問題のある判例法をもたらす懸念があります。別の言葉で表すと、強引なライセンスの執行はコモンズの脅威となります。

これを受けて、クリエイティブ・コモンズは、ライセンスの理解と遵守を向上させ、ライセンスの執行に関するコミュニティの原則を確立し、ライセンスに関する紛争に関わるクリエイターと利用者の双方の支援することを目的とした、一連の新たな資料をリリースすることにしました。私たちはこれが、CCライセンスを理解して遵守することをより容易にする、というこの問題の中心的な課題への、より広範囲かつ長期的な取り組みの最初の一歩であると考えています。より多くの許諾者が、CCライセンスを使うことで自身が不利になると思うことなく、自身の作品に使いたいと思えて、そして公衆がCCライセンスを安心して使うことができ、ミスに対して不当に罰せられることがないと感じることができれば、すべての人にとって良い結果がもたらされます。

新しい資料は以下の内容を予定しています。

  • ライセンスの執行に関わる原則についての声明(公開中)
  • 自身の作品に付与したCCライセンスが侵害されているのを発見したクリエイターのための手引(公開中)
  • 再利用をする人たちがよりライセンス条件を遵守しやすくするためのポイントが書かれた、許諾者のための手引(制作中)
  • 「合理的な」表示についてのCCの新たな解釈(制作中)
  • CCライセンス執行の通告書が届いた人のための資料(制作中)

私達がこれらを適応させ時間をかけて改良していくことを、皆様が手助けしてくださるとの期待を込めてこれらの新たな資料をリリースします。

どうすればライセンスがあなたにとってより理解できるものになるでしょうか。ライセンスの条項をより遵守しやすくするために、CCや許諾者ができることはあるでしょうか。どのような場合において、裁判でのライセンスの執行が適切であると考えられるでしょうか。ライセンスの執行が許諾者と被許諾者(ライセンスされる方)の双方にとってフェアであり、かつそれがコモンズの脅威ではなくコモンズを補強するものとなるように、皆様のインプットに耳を傾け、そして皆様と共に取り組んでいけることを楽しみにしています。

本内容はCCHQの“License Enforcement”を翻訳したものです。