1日目—Creative Workshop:Creative Models
このワークショップは,クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを利用し,実際に制作や文化普及などの活動を実践している様々なプロジェクトの紹介と,それぞれの改良をオープンに議論するセッションに分かれて開催されました.
まず,Creative Commonsでソフトウェア開発を担当しているNathan Yergler氏によって,CCソフトウェアの紹介が行われました.これらのソフトはSourceForge上でも公開され,それら自体がオープンソース・プロジェクトとして展開しています. http://wiki.creativecommons.org/Developer
MozCCはMozilla ブラウザ用のプラグインとして開発されました.これはブラウザ上でCCPLの埋め込まれたページであるかどうかを利用者に伝えるためのものであり,CCPLのマシン・リーダビリティ(機械判読性)をデモンストレートするためにも開発されました.
次にCCのウェブサービス・アプリケーションが紹介されました.一つ目のccPublisherは,Internet Archive上に自作のコンテンツをメタデータと共にアップロードする一連のプロセスを簡潔に行えるデスクトップ用のツールです.
次のccHostは,音楽共有サイトccMixterのバックエンドとしても知られていますが,これは主に誰でもサーバー上にccMixterのようなコミュニティ・コンテンツ・サイトを設置できるアプリケーションです.CcHostの目的の一つは,どのコンテンツがどのように/誰によってリミックスされたが可視化されることによって,利用者たちが二次利用の連鎖を理解できることです.
またYergler氏は,こうしたソフトウェアの開発にとってコミュニティの支援やフィードバックが大きな助けになっている事を確認しました.
次に,南アフリカのシャトルワース財団のJason Hudsonが展開しているFreedom Toasterプロジェクトが紹介されました. www.freedomtoaster.org
この計画は,自動販売機のような筐体の中に,フリー・ソフトウェアを詰め込んだPC端末を埋め込み,人々が自由にDVDに焼き込んで持ち帰ることを可能にしています.主に通信帯域の低いアフリカや発展途上国といった地域でフリー・ソフトウェアがより普及するために作られており,中身も廉価PC,ウェブブラウザー,そしてDVDRW機器のみで構成されており,低コストで制作が可能になっています.
コンテンツはリナックスのディストリビューションと各種のドキュメンテーション,FLOSS(Free and Libre Open Source Software)つまりオープンソースのソフトウェア全般,そしてコミュニティによるCCコンテンツのアップロードによって構成されています.今後の課題としては各国語版へのローカライゼーションが挙げられていました.
こうしたプロジェクトは日本のような先進国でも有効でありうると思われます.例えば美術館や公園のような公共の場に実装すれば,人々がふらっと訪れた時に様々な自由コンテンツにアクセスできるようになり,ウェブ以外でのセレンディピティ(偶有性)が高まることが考えられます.
その次にオランダ,アムステルダムのNGO「Tactical Technology Collective」(タクティカル・テクノロジー・コレクティヴ)によって紹介されたNGO-in-a-BoxプロジェクトもFreedom Toasterと共通の性格を持つプロジェクトでした.
http://ngoinabox.org/
世界中のNPO(非営利組織)やNGO(非政府組織)の活動家たちがもっとITを活用して組織のコミュニケーションを効率化できるように,様々なオープンソース・ソフトウェアをパッケージ化し,そのドキュメンテーションを各国語に翻訳することを目的としています.
次には,ブラジルの文化施策とも連動しているEstudio Livre(エストゥジオ・リブレ,オープンなスタジオという意)のプロジェクトが今回のサミットに合せて新調されたウェブサイトと共に紹介されました.ブラジル政府が推進するPontos de Cultura(ポントス・ジ・クルトゥラ,文化的ホットスポットの意)の一環として展開されているこのプロジェクトは,Wikiで構築されたオープンな映像・楽曲・画像のアーカイヴをユーザー達の参加によって醸成させていくことを目的としており,個々人の創造性を高めるためのヴァーチャルなスタジオとして機能することを目指しています.Pontos de Culturaはブラジル国内に千カ所以上もの実際のスタジオを建設・運営して,各地域での文化情報教育を促進させると同時に,こうしたオンライン・コミュニティを通したネットワークの形成とグローバルなコミュニケーションを可能にする,という戦略を採っています.
最後にマイクロソフトのMartha Nalebuff(Director, Intellectual Property Guidance, Microsoft)氏が登壇し,Microsoft Officeに実装されたCC書き出しツールについて解説しました.
まず,どうしてマイクロソフトのように,主にプロプライエタリなソフトを開発・販売してきた企業がクリエイティブ・コモンズに関心を寄せているか,という事が次のように説明されました.
▷ MSは以前より,patternshare.orgというソフトウェアコミュニティ上でCCライセンスを利用している
▷ MSはソフトウェアの多様な生態系の構築に関心をもっている
▷ MSは商業的,プロプライエタリな領域と同時に非営利組織とも仕事をしている
▷ MS Officeのユーザー層に,さらに多様な選択肢と革新的なツールを提供したい
– 著作権に対する意識を深めてもらいたい
こうした理由を述べると共に,DRM(Digital Rights Managementデジタル著作権保護)とDRE(Digital Rights Exrepssionデジタル著作権表現)は対立する概念ではなく,共存ができるという主張がなされました.
世界最大のOSディストリビューターであるMS社が,CCに参画したことの意味は少なくないでしょう.この事例により,より多くの商業ドメインの企業体がオープン・コンテントの領域に参画することは,ユーザーや開発者たちにより多くの強力な選択肢を提供するからです.
これら発表の後に行われた参加セッションでは,各発表者を囲んで参加者たちが自由に意見やコメントを交わし,ディスカッションが行われました.特に各プロジェクトにおける翻訳の問題については,様々な国や地域から来ている参加者たちからの多様な意見が反映されていた事が興味深かったです.また,Second Life(3日目のEducation Commonsを参照)は発表は無かったけれど実際にゲーム世界内で,どのように情報共有が出来るか,コンテンツを制作できるかという点に焦点を当てたワークショップが数台のPCを利用して行われました.昨今,物理世界とは独立した経済圏を構築し注目を浴びているSecond Lifeの仮想世界の中で,オープン・コンテントが生成される様は実に刺激的な光景でした.
文責:[DC]