iSummit 2007 では、基調講演(Keynote Speach)は毎晩20:00から行われるという形式が採用されていました.ここではレッシグの長年の盟友であり昨年刊行された『The Wealth of Networks』(未訳)が世界中のcommoner (CC活動家)の愛読書となっているヨハイ・ベンクラー(イェール大学)、アジアのもうひとりのLLと呼ばれるローレンス・リャン(CC India)、東欧圏において社会文化的な側面からコモンズを研究するボド・バラス(CC Hungary)、そしてレッシグと共にEldred v. Ashcroftを闘った若きギーク教授のジョナサン・ジットレイン(Oxford / Harvard / Berkman)たちによる講演のダイジェストをお送りします.
□ 可塑的な文化における正義と公正:ヨハイ・ベンクラー
Yochai Benkler BY: mecredis
ヨハイ・ベンクラーは90年代後半にレッシグと同時期にデジタル・コモンズ(電子情報の共有地)の概念を提唱し続けてきた法学者です.
彼の研究分野は著作権分野に限らず、オープンソース経済から通信インフラの中立性に至るまで広範囲に渡り、「Coase’s Penguin, or Linux and the Nature of the Firm」[ロナルド・コースのペンギン、またはリナックスと《企業の本質》](2002)や「”Sharing Nicely”: On shareable goods and the emergence of sharing as a modality of economic production」[「良い共有」:共有財、そして経済生産様式としての共有の登場について](2004)といった論文を通して、一貫してネットワーク型情報社会のもたらす生産および生活様式の更新について、法と経済のみならず文化価値や公正性の観点から、Commons-based peer-production(共有財に基づいた恊働生産)という概念を提唱してきました.今回のiSummitでもpeer-productionは一つのセッション・シリーズの題目にも採用され、CCのパラダイムを定義する重要な概念となっています.
この基調講演では主に近著の記述にもとづいて、いかにSETI@HOMEやWikipediaといった非独占的な恊働生産の取り組みがリナックス以降の文化的状況を作り出して来たか、そしていまだに中央集権的な振る舞いを示す組織のありようがいかに時代錯誤なのかということについて熱弁しました.
ベンクラーの最大の魅力は、著作権問題に関心の薄い人間でも興味のもてるアプローチで、現代社会全体の変容について明快な文体で解説しているところです.この著作『The Wealth of Networks』は下記のURLで全文がPDFとしてCCライセンス下でアクセスできるので、興味のある方はぜひご一読をお勧めします.
リンク:The Wealth of Networks, Wiki
文責:Dominick Chen