iSummit報告:レッシグ教授の基調講演

今年のiSummitでは、初日の6月15日の夜8時から、CCの創始者でCEOのローレンス・レッシグ教授が基調講演を行いました。

まず、レッシグ教授は、2007年5月末にブラッセルで行われたCISAC主催の「著作権サミット」でのレッシグ教授とCISACのBrett Cottle氏とのディベートについて触れました。CISACは、日本のJASRAC、ドイツのGEMAなどの著作権管理団体(音楽だけではなく、出版等も含む)の上部組織で、パリに存在し、著作権管理団体間の国際的な著作物のやり取りの決済に関するルールや、著作権管理団体の世界的な政策決定などを行うところです。この20分間のディベートでは、クリエイティブ・コモンズが、無料かつ自由な作品の配布を行うことによって、著作権管理団体に所属するアーティストの経済的利益を脅かしているのではないか、といった批判がCISACからなされた、ということでした。

これに対して、レッシグ教授は、CISACは全てのアーティストを代表しているわけではないこと、CISACが我々に対して、CISACに所属するアーティストに対して「配慮」(respect)を求めるのであれば、CISACもまた、CCが代表しているアーティストに対して配慮すべきである、と反論しました。

つまり、著作権にまつわる経済には、CISACとそのメンバー組織である著作権管理団体の属する「商業的経済」(commercial economy)と、CCの属する「共有経済」(sharing economy)の二つがあることをレッシグ教授は指摘。商業的な経済活動が、お金をインセンティブとして動いているのだとすれば、共有経済は、創作に対する愛情や友人知人・社会への貢献など、非金銭的なインセンティブで動いている。そして、どのアーティストもその両方の側面を持っている(または持ちうる)し、この二つは重なり合う部分がある(cross-over)だと強調しました。たとえば、商業的経済の代表としてキャンペーンなどにも参加するブリットニー・スピアーズでも、自分の子供にはお金と関係なく歌を歌ってあげたりするだろう。逆に、CCのアーティストでも、商業的に利用される例が出てきている、と。

その後、レッシグ教授は、これからはCCも、非営利(Non-commercial)のライセンスのコモンズ証において、商業的なライセンスを得るためのリンク先を表示する機能を実装するなど、この二つの経済の橋渡しをする役割も果たして行きたい、と語りました。

そして、その後、CCの活動が世界中で普及を見せてきていること、各地に様々なリーダーが新しく生まれ、CCの活動を展開し始めていることを心強く感じ、いままでにすでに活動している人たちも、これから参加する人たちも、もっともっと(自分の分まで)積極的に活動してほしい、そうすれば、古株(=レッシグ教授のこと)もそれをこの上なく光栄に嬉しく思うだろう、と締めくくりました。同時に、レッシグ教授は、CCのCEOとしては残るけれども、これまで著作権に関係して参加してきたほかの団体(たとえば、パブリック・ノレッジエレクトリック・フロンティア・ファウンデーション(EFF)などの理事は退任する、と発表しました。

このスピーチは、もちろん、温かい拍手で迎えられましたが、私個人は、このスピーチの後、CCにとって、ひとつの時代が終わったのかなぁ、という、感慨深い気持ちに襲われました。実は、私個人は、レッシグ教授との折に触れた会話の中で、近く、こんな日がくるだろうと、薄々感じてきたからです。

その後、レッシグ教授は、ブログのなかで、著作権問題に注力してきたこれまでの10年間に区切りをつけ、新しい10年に向かって踏み出すことを正式に宣言しました。

でも、レッシグ教授がCCを辞めるわけでもなく、ブログで著作権に関するコメントをやめるわけでもなく、来年札幌で開催されることに決定したiSummit2008には、必ず来てくださることを、私はちゃんと直接確認しました。
ということで、レッシグ教授に会いたいみなさんは、来年の7月末、札幌で会うことができます!

文責: 野口 祐子