iSummitのリーガルDayには、CISACのDavid Uwemedimo氏(法務・政治及び戦略部門のディレクター)が講演をしてくださいました。これは、2007年5月末に行われたCISACの著作権サミットでのディベートにレッシグ教授が出席したことの、言わばお返しとして、クリエイティブ・コモンズなどのオープンな著作権の動きのサミットであるiSummitに、今度はCISACの方が来て下さった、という流れです。
CCと著作権管理団体は、特にヨーロッパで対話をずっと続けており、CCフランスやCCオランダの人たちは、1年以上も、自国の著作権管理団体やCISACと、非公式なやり取りをしてきました。レッシグ教授は、David氏を紹介するに当たり、「著作権管理団体とクリエイティブ・コモンズの間での著作権の理解において、根本的な違いはない」ので、いままでの非公式な対話を「より活発にし、前進させる」ために、今日はCISACからスピーカーを招いた、と経緯を説明しました。両者ともに、著作権者がいろんな意味で、正しく報われることを期待している。そして、その上で、どのように創作性を高めるか、そこに向かって両者が協力していくための課題について、今日は話をしてください、と続けました。
紹介を受けて、David氏は、まず、CISACの説明をしました。CISACは、著作権管理団体の上部組織で、1926年にパリに設立され、今では、100カ国以上に存在する200以上の著作権管理団体がメンバーである。これらメンバー団体に所属するクリエーターの数は、世界中で200万人に上り、その中で動くお金は世界中で年間60億米ドルに上る、と紹介しました。
David氏によれば、著作権管理団体の使命は、権利者と利用者の間にたって、1ストップの(手続きが1回で済む)ライセンスを提供し、利用の便宜を図るとともに利用を促進することだ、ということでした。
その上で、CISACのメンバーから聞かれる、クリエイティブ・コモンズに対しての懸念として、以下のような点を挙げました。
・みな、クリエーターが作品の利用方法について選択肢があるべきだ、という点では同意している。
・したがって、みなの懸念は、大きな方向性ではなく、もっと細かい点にある。
・CCが自由な利用を(多くの場合無料で)許諾することによって、著作物の創作や利用において、金銭的なインセンティブはそんなに重要ではない、というシグナルを送ることになっているのだとすれば、それは、金銭的対価を重視する著作権団体の使命を一部損なうのではないか、といった心配の声がある。
・クリエーターは、集団で団結して、大きな商業ユーザーに対して交渉する必要があるところ、いろんな方向性のクリエーターが出てくることによって、その団結が弱まり、ひいてはクリエーターの交渉力が弱まるのではないか、という懸念がある。
・複数権利者の著作物において、一方の権利者がCCを希望し、もう一方がCCを希望しない場合の取り扱いがどうなるのかが分からない。(→ちなみに、その場合は、CCはつけられません、というのが盛会です。残念ながら…)
・いったんライセンスすると、その作品からのコントロールを永久に失うことになる点が懸念される。
・いくつかのCCライセンス条件は、いまだに分かりにくい(かなり改善してきたが、まだ努力の余地がある)。
・まだ新しい試みであり、「時間のテスト」(長い時間を生き残れるか、というテスト)に対して、まだその価値を証明していない。
・著作者人格権の問題についても、手当てされていないライセンス国があったが、v3.0でこの問題が解決することは、喜ばしいことだ。
・CCライセンスに違反したときに、これを強制するチームがいないことも、懸念材料である。
これらを紹介しつつ、David氏の結論としては、
・これからも継続的に対話を続けていくこと
・CCの意図に誤りがあることは全くなく(当然です!!)、両方とも著作権を尊重する、という立場では共通している
・懸念はどれも、根本的なものではないが、解決していくには時間がかかるだろう
ということでした。
これに対して、レッシグ教授は、以下のような意見を述べました。
1)金銭的な面を重視しているクリエーターのほかに、世の中には(直近の)金銭的なインセンティブよりも他のインセンティブが勝っている人たちもいる。その人たちの考えも、尊重すべきではないか。そして、その境界線はあいまいなものだから、商業的なセクターで活躍する著作権管理団体と、非営利的な利用の自由を根本にすえているクリエイティブ・コモンズ(もちろん、オープン・ビジネス・モデルもありますが)とが、互いに協力することで、より良い著作権環境を作ることができるのではないか。
2)著作権管理団体に所属する人たちから、ときどき、クリエイティブ・コモンズは、著作権に反対する団体だ、と誤解されることがあるが、誤りである。それを正してほしい。これに対して、David氏は完全に合意しました。
レッシグ教授は、これからCCは、いままでどおりの非営利分野における利用の自由のほかに、商業的な利用と非営利の利用がスムーズに行き来できるような方向性を目指して努力し、その一環として、CISACとも継続的に話し合いを進めていく、と話していました。
文責:野口 祐子