7月31日10:00-基調講演

2日目です。本日はセッション数も多く、朝から晩まで活発な議論が期待されます。
2日目の基調講演は、1日目よりもより実践的な活動をされている方々がご講演されました。


1人目は、映画制作者でありVODOのオーガナイザーでもあるJamie Kingさん。Kingさんは、”Steal this film”という映画を2本制作し、BitTorrentというP2Pネットワークを利用したダウンロードシステムを用いて無料で配給しました。この映画は約550万人にダウンロードされたのですが、当然それによってお金を得た訳ではありません。どうしたのか?約3万ドルもの寄付を得たのです。
彼はこの経験を踏まえ、小規模の作品のアーティストが創作活動によって生活するために何ができるかを考えた結果、VODOというサイトを立ち上げました。これは、作品のダウンロード画面に寄付の項目を置いて、閲覧者がアーティストに直接寄付をすることが可能になるシステムを導入しています。これはある意味、アーティストへの尊敬の念を込めて寄付するようなものであることから、著作者人格権に基づいた寄付ともいえるかもしれません。
最後にKingさんは配信方法、共有方法、アーティスト支援方法、ビジネスとの関係、これらの問題に対し、自らがどのように関わるのかを常に問い続けることが重要であると述べました。

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2人目は、コンサルタントのDavid Bollierさん。社会的なムーブメントとコモンズについて講演をされました。コンピュータネットワークとフリーカルチャーの結合により、「歴史を作る事ができる市民活動」というものが最近出現しています。つまり多数の市民の目と耳をもって、非常にタイムリーな、直接的な知識と多くの才能を結合する事で、歴史を動かすような事態を引き起こす事が可能になっています。この動きの中心となるのが「コモンズセクター」。例えばSNSやwikiなどのコミュニティやブログ、フリーソフトなどがあたります。
これらのコモンズセクターはイデオロギー的な色彩は薄いと思われていましたが、フリーカルチャーと組合わさり、文化の「囲い込み」にどのように対応するか?という問題に向かうに従い、次第に政治的な意味合いも出てくると思われます。Bollierさんは、コモンズセクターにおける基本的ながらイノベーティブな行為によって、社会的価値を作り新しい「統治」の形態を作り出す事が可能であるのではないか、そのためには多数のコモンズセクター間で対話を行い、ビジョンを共有することが必要であると述べました。

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3人目は、「利他主義からでないコモンズへの参加の動機について」というテーマで、国連大学で研究をされているRishab Ghoshさんが講演をされました。自己の利益に固執し、権利を追い求める人が多い中で、コモンズという場に何かを提供しようとするひと、情報の共有をしようとする人はどのような動機からなのか。Ghoshさんによると、それは利他主義とか聖者のような心を持っているから、というわけではなく、別の理由があるといいます。
一般的な交換経済において、各人は、自分が得るものが与えるものよりも価値が高いと考えて交換を行うと考えられます。それは交換対象がお金であっても同じ。この考えに依れば、コモンズといういわば「ごった煮の鍋」に何かを提供するような場合においても、鍋に入れるものよりも鍋からもらえるものが多い場合に人は何かを提供するのであり、つまり自己の利益を追求する利己主義からでもコモンズへ参加する動機は存在するのです。
特にインターネットの場合、鍋に入れるものは「知識」であり、分け前という概念もなく、出来上がった鍋全体をもらえます。フリーライダーを容認する必要はありますが、フリーライダーがいるとしても、その鍋=コモンズにメリットを感じる人が多ければそのコモンズは発展していくとGhoshさんは述べました。要はそのコモンズにどのような価値があるか、であり、フリーであるか否かは価値とは関係がない、という示唆は、コモンズをより豊かにオープンにするための要点をついていると思います。

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執筆:酒井麻千子