音楽ワークショップ「メタファーとしての音:サウンドと意味」

テーリ・テムリッツ氏は、川崎市に在住し、日本とヨーロッパを行き来しているサウンドクリエーター・プロデューサーです。自身のレーベルcomatonse recordingsを持ち、ハウスやアンビエントを横断する音楽作品を多数リリースしています。今回は、テムリッツ氏を講師として、「メタファーとしての音:サウンドと意味」と題する、音楽とそのリミックスについてのワークショップが行われました。


テムリッツ氏は冒頭に、世界中は全てサンプリングで溢れているように見えると述べます。
服/スタイル/身体の動作等を混ぜて(サンプリングして)、自己というアイデンティティが作られます。テムリッツ氏の覚束ない日本語は日本人からのサンプリングであるといい、トランスジェンダーというアイデンティティさえも、ジェンダーのサンプリングで成立していると言います。

テムリッツ氏は、次にコピーレフトについて言及しました。コピーレフトとは、著作権に対する捉え方の一つで、二次的著作物も含めて、すべての者が著作物の利用・再配布・改変できなければならないという考え方です。氏は、コピーレフトは著作権利用の選択肢というよりも再編成であり、リミックスであると言います。
テムリッツ氏は今存在するいくつかのコピーレフトシステムを例示しながらも、これらはサンプリングの問題を本質的には解決しないのではないかと問い掛けます。音楽の法律上の定義と、実社会上の音楽の文化的役割は異なります。音楽とはトラディショナルです。著作権の厳しい管理は購入者が音楽を自分のものと感じることを妨げるのであり、私達が自分達の文化を持つことを妨げるのです。
また、サンプリングは文学の脚注のようなものです。オーディオサンプルは参照部分となり、音楽への理解をより深めるトリガーとなるのです。この脚注としての役割を考えれば、著作権やパブリックドメインが意味のないものであることが明らかになるでしょう。コピーレフトは、法律的な技術だけではなく文化的な方法であると言えます。

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IMG_0438 posted by (C)sandii

サンプリングの方法について、テムリッツ氏は以下の視点を提示します。
サンプルした曲のリリック/サンプルしたミュージシャンの歴史とコンテキスト/サンプルした曲のジャンルとその関係/サンプルした曲の生産の状況/サンプルとあなたの曲の関係(類似性、ギャップなど)。
音が自分のアルバムのジャンルに沿うようにサンプリングし、しかしサンプルとは対象的なテーマを設定するといいます。ワークショップでは、自身の音源であるDJ Sprinkles『Midtown 120 intro』をサンプルとして具体的に考察が行われました。

テムリッツ氏は自身の楽曲の性質上、普通のサンプリングの許諾契約は困難であるといいます。
しかし、コピーレフトが浸透し、例えばクリエイティブ・コモンズでライセンスされた曲が増えれば、サンプリングの選択肢が増え、リスクを減らすこともできます。

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IMG_0442 posted by (C)sandii

ワークショップは、BGM―アンビエントミュージックからアニメ『クレヨンしんちゃん』の主題歌まで―が流れる中進んで行きました。それは、あたかもワークショップという時間自体が彼のremix作品であるかのようでした。

また、ワークショップではテムリッツ氏の制作した音楽が、意見表明の手段としてスピーチに代えて用いられていました。例えば一つは、ミシェル・フーコーの詩『作者とは何か』の朗読をサンプリングしてディープハウスに乗せた作品「Useless movement(無益な運動)」、もう一つは、「Whereas the party of the first part…(甲はここに…)」です。
これらの楽曲は、サンプリング・ミュージックとしての完成度も去ることながら、音楽を超え、スピーチとしても、演奏や創作、サンプリング、オリジナル、そしてアートという言葉の意味の再考を促しているように思えます。ディープハウスのトラックに乗って、スピーチは格段にスリリングさやシリアスさを増します。「作品に作者名をクレジットすることに意味があるのか」というその問い掛けは、自由文化の核心に迫るものとして、これからの著作権のあり方を考える上でも忘れてはならないものであると感じました。

上記の2曲は、ワークショップ内で紹介されたサイトPublic Record(サイトデザインがテムリッツ氏です。画面が点滅するのでご注意下さい)で、FREE MUSIC NOW(「今音楽を自由にする」と「無料音楽」のダブルミーニング)として無料配信されています。
テムリッツ氏のワークショップの追体験を、是非。
(永井幸輔)

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