3日目の基調講演では、最終日にふさわしく、オープンな世界の未来を占う、数多くの示唆が与えられました。
ソニー・コンピュータ・サイエンス研究所の北野宏明氏は、製薬産業の生産性の低下に触れると同時に、これまでの特許によるビジネスモデルの限界を指摘しました。そこで製薬業界は”Open Pharma”に移行し、既存の安価な薬剤の組合せを研究することで、患者の疾病に合わせた組合せ薬剤を提供するという、製薬業界のオープン化とサービス業への転換を主張しました。
Paul Keller 氏は、クリエイティブ・コモンズと音楽業界との関係についてお話ししました。そもそも著作権管理団体は、ラジオが誕生し、リスナーや放送局からアーティストが報酬を受けるために現れました。そして昨今、音楽著作権を管理団体に信託している国が多くあり、クリエイティブ・コモンズを米国外に拡大した際、音楽に対して CC ライセンスを使えない事態が生じたのです。そこで クリエイティブ・コモンズ と管理団体は2年半話し合い、その結果オランダにて、非営利利用での CC ライセンスの適用が認められました。同じような動きはオーストラリアでも起きています。また、日本では JASRAC 以外に JRC などの新しい管理団体が登場し、ユーザーが自分で歌った動画を Youtube にアップロードすることができるようになるなど、世界各地で新たなアプローチが登場しつつあります。
David Wiley 氏は、クリエイティブ・コモンズ誕生に至る10年間を説明しました。 Richard Stallman により1989年に登場した “Free Software”と GPL、Eric Raymond により1998年に登場した”Open Source”、この2つに影響を受けた Wiley 氏は、コンテンツ版の GPL が必要ではないかと考えました。そこで彼は Open Content License を立ち上げ、Nupedia など教育分野で一定の実績を上げましたが、ライセンスの混乱などで失敗したということです。CC ライセンスはその失敗点を克服して登場しました。今後の課題は、ライセンス間の互換性です。クリエイティブ・コモンズの各ライセンス間の互換性は28%にとどまり、GFDL など外部のライセンスとの互換性のなさも問題です。CC+ や CC0 も近い将来実現するでしょう。次の10年は極めてエキサイティングになると予言して、Wiley 氏はスピーチの幕を閉じました。
角川グループホールディングス会長の角川歴彦氏は、Lessig の”CODE”を引用し、日本は世界一安いブロードバンド環境を達成できたものの、著作権者にとって世界最強の著作権法により、グローバルに展開する IT 企業が育たなかったと切り出しました。その上で、1億人の潜在的クリエーターを意識し、21世紀の著作権法は権利者とユーザーの調和を図るものでなければならないと指摘します。引き続いて、角川氏が本部員を務める、政府の知的財産戦略本部で議論された著作権に関する施策を説明しました。そして、映画は劇場で見るといったように旧著作権法はオリジナルを前提とし、現在の著作権法はDVDのようにパッケージ流通を前提としてつくられており、今後、デジタル・ネットワーク流通に代表される、無体物を前提としたネット時代の著作権法が必要であると主張しました。最後に、同社グループと Youtube との協業についてご紹介し、講演は終了しました。