(報告)シンポジウム“日本はTPPをどう交渉すべきか 〜「死後70年」「非親告罪化」は文化を豊かに、経済を強靭にするのか?”が開催されました

TPPの知的財産権協議の透明化を考えるフォーラムの公開セミナー“日本はTPPをどう交渉すべきか 〜「死後70年」「非親告罪化」は文化を豊かに、経済を強靭にするのか?”が、6月29日、開かれた。

司会のメディアアクティビスト・津田大介氏のほか、赤松健氏(漫画家、Jコミ代表取締役)、太下義之氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員/芸術・文化政策センター長)、富田倫生氏(青空文庫呼びかけ人)、野口祐子氏(弁護士、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン)、八田真行氏(駿河台大学経済経営学部専任講師)、福井健策氏(弁護士、日本大学芸術学部客員教授)が登壇。会場は、ほぼ満員となり、ニコニコ動画でも生放送された。

著作権保護延長問題では、日本の現行の「死後50年」から、米国の「死後70年」への延長について、意見が交わされた。福井氏によると、世界最大のコンテンツ輸出国であるアメリカは、2011年のデータで9.6兆円の著作権使用料を稼ぎ出している。対して、日本は年間5800億円の赤字を出している。この違いは、日本が米国のように古いコンテンツ(ミッキーマウスなど)で著作権使用料の収入を得られていないためで、保護延長を繰り返せば、日本の赤字は固定化されるという。

八田氏は、保護期間が延長された場合、日本にとって経済的利益が得られる論拠が少ないことを、田中辰雄・林紘一郎両氏の「著作権保護期間」をはじめとする先行研究をあげながら指摘。また、MIAU(インターネットユーザー協会)も参加している、保護期間延長を含む、TPPによるより拘束的な著作権法への改正に反対するキャンペーンOur Fair Dealを紹介した。

富田氏は、保護期間が20年延長されると、パブリック・ドメイン入りにする日本の作家の作品が激減することに強い危機感を示した。保護期間が切れた作家の作品を青空文庫で公開することにより、タブレットや、視覚障害者のための音声変換機能等を通じて多くの人が作品にアクセスする機会を得られるとし、延長は文化を利用する機会を損なうと指摘した。

野口氏は、データを参照しながら議論をする必要性について述べた。ベルヌ条約以前の米国で実施されていた保護期間56年間の登録制の著作権制度(当初登録で28年、その後更新登録することにより28年延長されて合計56年になる)について紹介し、この制度が運用されてから50年経過した段階での登録更新率の低さ(最高でも14.7%)を指摘。ごく一部の大ヒット作品等を除き、大半の作品が公開から28年の保護期間で満足しており長期の著作権保護を必要としていないとした。

太下氏は、著作権者が不明となっており、利活用できないでいる孤児作品(Orphan Works)が、保護期間の延長により激増する懸念があると指摘。このような孤児作品を死蔵させないため、孤児作品を自由に公開・活用できるOrphan Works Museumの設立を提案した。実際、国会図書館の所蔵作品の7割が著作権者不明であるという。

今年3月には、米のマリア・パランテ著作権局長が未登録作品の著作権保護期間を著者の死後50年に短縮する案(米国は1998年に著作権保護期間を死後50年から死後70年に延長したが、これを一部元に戻す提案)を出している。これは、コンテンツのデジタル化その他の利用をする上で孤児作品の権利処理に米国も頭を悩ませているからと考えられる。福井氏は、日本としては交渉の際に、孤児作品について死後50年を超える独占権を与えない、TPP加盟国で孤児作品として認定された作品についてはTPP域内で相互承認して作品を自由に利用可能にする、などの提案をしてみてはどうかという。

非親告罪化については、コミケ等での二次創作を阻害する可能性が議論された。赤松氏は、日本のコンテンツを面白く保ち、クール・ジャパンを推進するためにも、アマチュアの二次創作のすそ野を広くしておくことが重要だとした。その上で、二次創作を阻害しないため、コミケ開催当日のみ二次創作を黙認する意思表示システムマーク案を提案した。

韓国は米韓FTAの際、フェアユースを交渉の過程で導入することに成功しているが、これは国民の声が盛り上がった結果だったという。福井氏は、今回の日本のTPP知財交渉でも、国民の関心が高まれば政府側としても積極的に交渉しやすいはずだとした。内閣官房は7月17日までメールでの意見の受け付けもしている。詳しくはhttp://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo.htmlを参照のうえ、多くの意見を送ってくださるよう呼びかけが行われた。