TPP

内閣官房TPP政府対策本部にTPP交渉に関する意見を提出しました

クリエイティブ・コモンズ・ジャパンは、本日、内閣官房TPP政府対策本部の行っている意見募集に対して、以下のとおり意見を提出しましたので、ご報告いたします。

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クリエイティブ・コモンズ・ジャパンは、ThinkTPPIPの一構成メンバーとしてすでに意見を提出しているところであるが(http://thinktppip.jp/?p=196)、その内容に重複しない部分について、以下、知的財産についての意見を提出する。

著作権保護期間の延長については、2005年から2009年まで文化審議会著作権分科会で検討され、賛成反対双方の意見の隔たりが大きいとして見送られたものである。米国や欧州などがすでに延長しているのは事実であるが、実際にこれらの延長した国において、著作権保護期間の延長によって創作が増えた事実は認められておらず、逆に、孤児著作物の増加等の問題が表面化している。現実に、欧州は2012年に孤児著作物のためのディレクティブを採用するにいたっており、米国でも2013年3月に著作権局長が未登録著作物(つまり権利者が不明となりやすい著作物)については保護期間を死後50年に短縮すべきであるとの提言を行うなどの動きが認められる。日本においても、著作権保護期間の延長は、全体として文化の発展を促すよりは、著作物の流通を阻害する負の要因を増やす側面が強いと考えられるため、反対する。

また、著作権の法定賠償金の導入や特許権の3倍賠償導入など、知的財産権侵害に対する損害賠償額の高額化についての提案もなされていると報道されているが、実損害を超える高額の損害賠償金が認められる法的制度を導入することは、従来の民法における不法行為の理念と整合性がとれないばかりか、パテント・トロールやコピーライト・トロールなどの、損害賠償金の獲得を目当てに知的財産を買い集めて権利行使をビジネス化する動きを招き、知的財産制度全体の不健全化や事業会社・クリエイターへの不要な経済負担の増加を招く危険性が高いため、反対する。現実に、米国の特許訴訟の実に6割がパテント・トロールによるものと報道されており、これらのパテント・トロールによる知的財産訴訟の活発化が、米国で活動する多くの事業会社に不要な訴訟コストを強い、経済に負の効果を与えると報告されていることはご案内のとおりである。また、損害賠償額の高額化を行ったドイツでも、その法律改正後にパテント・トロールが急増した事実がある。投資(つまりは知的財産購入コストと訴訟提起コスト)に比べてリターン(損害賠償額やそれを前提とする和解金)が大きければ、その制度を利用してビジネスを行う主体が登場することは資本経済の仕組みからみて不可避であるから、このように、知的財産訴訟が投資目的として成立するような法制度を導入することそのものを避けるべきである。一般に、損害賠償額の高額化は発明や創作のインセンティヴを増やし、ひいては発明や著作物の創作の活発化を促す、という単純な理解のもとに損害賠償額の高額化が議論される傾向があるが、日本政府におかれては、損害賠償額の高額化が事業会社やクリエイターにもたらす負の側面についても十分に考慮していただくことを強く要望する。

著作権侵害の非親告罪化については、現政権が閣議決定した知的財産ビジョン(平成25年6月7日)においても、クールジャパンに代表されるコンテンツを中心としたソフトパワーの強化が謳われているが、マンガ・アニメなどのクールジャパンは、広く黙認されている二次創作活動や同人活動等にその裾野を支えられ、全体としてエコシステムを形成しているのはご案内のとおりである。著作権侵害の非親告罪化により、権利者が望まない刑事事件化が行われるようになれば、これらの二次創作活動や同人活動が萎縮し、クールジャパンを支えるクリエイター層に大きなダメージを与えることは不可避である。非親告罪化は、審議会で2007年に検討され、著作権者等が黙認している場合の著作権者等の利益との関係からも慎重に考えるべき、として見送られているとおり、日本の現在の文化を支える上では不要であるどころか、有害である可能性が高いため、反対する。

以上

(報告)シンポジウム“日本はTPPをどう交渉すべきか 〜「死後70年」「非親告罪化」は文化を豊かに、経済を強靭にするのか?”が開催されました

TPPの知的財産権協議の透明化を考えるフォーラムの公開セミナー“日本はTPPをどう交渉すべきか 〜「死後70年」「非親告罪化」は文化を豊かに、経済を強靭にするのか?”が、6月29日、開かれた。

司会のメディアアクティビスト・津田大介氏のほか、赤松健氏(漫画家、Jコミ代表取締役)、太下義之氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員/芸術・文化政策センター長)、富田倫生氏(青空文庫呼びかけ人)、野口祐子氏(弁護士、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン)、八田真行氏(駿河台大学経済経営学部専任講師)、福井健策氏(弁護士、日本大学芸術学部客員教授)が登壇。会場は、ほぼ満員となり、ニコニコ動画でも生放送された。

著作権保護延長問題では、日本の現行の「死後50年」から、米国の「死後70年」への延長について、意見が交わされた。福井氏によると、世界最大のコンテンツ輸出国であるアメリカは、2011年のデータで9.6兆円の著作権使用料を稼ぎ出している。対して、日本は年間5800億円の赤字を出している。この違いは、日本が米国のように古いコンテンツ(ミッキーマウスなど)で著作権使用料の収入を得られていないためで、保護延長を繰り返せば、日本の赤字は固定化されるという。

八田氏は、保護期間が延長された場合、日本にとって経済的利益が得られる論拠が少ないことを、田中辰雄・林紘一郎両氏の「著作権保護期間」をはじめとする先行研究をあげながら指摘。また、MIAU(インターネットユーザー協会)も参加している、保護期間延長を含む、TPPによるより拘束的な著作権法への改正に反対するキャンペーンOur Fair Dealを紹介した。

富田氏は、保護期間が20年延長されると、パブリック・ドメイン入りにする日本の作家の作品が激減することに強い危機感を示した。保護期間が切れた作家の作品を青空文庫で公開することにより、タブレットや、視覚障害者のための音声変換機能等を通じて多くの人が作品にアクセスする機会を得られるとし、延長は文化を利用する機会を損なうと指摘した。

野口氏は、データを参照しながら議論をする必要性について述べた。ベルヌ条約以前の米国で実施されていた保護期間56年間の登録制の著作権制度(当初登録で28年、その後更新登録することにより28年延長されて合計56年になる)について紹介し、この制度が運用されてから50年経過した段階での登録更新率の低さ(最高でも14.7%)を指摘。ごく一部の大ヒット作品等を除き、大半の作品が公開から28年の保護期間で満足しており長期の著作権保護を必要としていないとした。

太下氏は、著作権者が不明となっており、利活用できないでいる孤児作品(Orphan Works)が、保護期間の延長により激増する懸念があると指摘。このような孤児作品を死蔵させないため、孤児作品を自由に公開・活用できるOrphan Works Museumの設立を提案した。実際、国会図書館の所蔵作品の7割が著作権者不明であるという。

今年3月には、米のマリア・パランテ著作権局長が未登録作品の著作権保護期間を著者の死後50年に短縮する案(米国は1998年に著作権保護期間を死後50年から死後70年に延長したが、これを一部元に戻す提案)を出している。これは、コンテンツのデジタル化その他の利用をする上で孤児作品の権利処理に米国も頭を悩ませているからと考えられる。福井氏は、日本としては交渉の際に、孤児作品について死後50年を超える独占権を与えない、TPP加盟国で孤児作品として認定された作品についてはTPP域内で相互承認して作品を自由に利用可能にする、などの提案をしてみてはどうかという。

非親告罪化については、コミケ等での二次創作を阻害する可能性が議論された。赤松氏は、日本のコンテンツを面白く保ち、クール・ジャパンを推進するためにも、アマチュアの二次創作のすそ野を広くしておくことが重要だとした。その上で、二次創作を阻害しないため、コミケ開催当日のみ二次創作を黙認する意思表示システムマーク案を提案した。

韓国は米韓FTAの際、フェアユースを交渉の過程で導入することに成功しているが、これは国民の声が盛り上がった結果だったという。福井氏は、今回の日本のTPP知財交渉でも、国民の関心が高まれば政府側としても積極的に交渉しやすいはずだとした。内閣官房は7月17日までメールでの意見の受け付けもしている。詳しくはhttp://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo.htmlを参照のうえ、多くの意見を送ってくださるよう呼びかけが行われた。

2012年12月12日に緊急シンポ「TPPの交渉透明化と、日本の知財・情報政策へのインパクトを問う!」を開催します

2012年12月12日に、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンが参加しているTPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラムでは、当フォーラムのキックオフ・公開シンポジウム「TPPの交渉透明化と、日本の知財・情報政策へのインパクトを問う!」を開催いたします。この重要な問題を皆様で一緒に考えるため、ぜひご参加ください。

登壇者(順不同、敬称略):
赤松健 (漫画家、Jコミ代表取締役)
吉見俊哉 (社会学者、東京大学大学院情報学環教授)
野口祐子 (弁護士、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン常務理事)
八田真行 (駿河台大学経済学部講師、MIAU幹事会員)
渡辺智暁 (国際大学GLOCOM准教授、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン常務理事)
*司会 福井健策 (弁護士、日本大学芸術学部客員教授、thinkC世話人)
日時: 2012年12月12日(水) 18時~20時30分 (開場:17時30分~)

場所: 東京大学本郷キャンパス 情報学環・福武ホール (B2F 福武ラーニングシアター)

http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/access.html

参加申込: 入場無料。事前予約制。
以下のサイトのフォームよりお申し込みください。
http://thinktppip.jp/

このシンポジウムの様子は、以下でネット中継の予定です。
MIAU Presents ネットの羅針盤『TPPの交渉透明化と、日本の知財・情報政策へのインパクトを問う!』 – ニコニコ生放送
http://live.nicovideo.jp/watch/lv117939659

なお、ハッシュタグは #tppip です。

主催:
特定非営利活動法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン
https://creativecommons.jp/
thinkC(著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム)
http://thinkcopyright.org/
MIAU(一般社団法人インターネットユーザー協会)
http://miau.jp/
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TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラムで提言を行いました

すでにTwitterなどでご存知の方も多いかもしれませんが、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンでは、以下のとおり、「TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム」の提言を共同でリリースしました。

TPPへの参加の是非は日本の経済全体にかかわることで、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの使命を超えるものであることから、TPP自体への賛成・反対の意見を表明するものではありません。

しかしながら、その中に含まれている知的財産条項は、日本の著作権法に大きな影響を及ぼすものであり、特定の産業ではなく国民全体に大きな影響のある国民的イシューであるにもかかわらず、その内容は国民にまったく公開されていません。もしも、政府がTPP交渉に参加する場合、その交渉内容は合意に至るまで一度も国民に公開されないままで進められる危険性もかなり高いといわれています。クリエイティブ・コモンズ・ジャパンは、そのような秘密交渉に強く反対します。

また、TPPは知的財産だけでなく多数の分野にまたがる条約であるため、ほかの分野における利権を守るための取引材料として、知的財産条項については日本政府が妥協してしまう可能性も否定できません。そのような事態になれば、まさに、国民が毎日の生活において直接影響を受ける法律の内容について、国民の関与なしで、しかも、日本にとって必ずしも良いとはいえない知的財産権の内容を条約により押し付けられてしまうことになりかねません。そのようなことが起こらないようにするためにも、交渉内容を公開し、国民の議論を経たものにすることがとても大切だと考えます。

以下に、提言の本文を転載します。私たちは、提言に賛同してくださる方を募っています。賛同してくださる方はこちらからお名前等のサインアップをお願いいたします。

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TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム 提言

特定非営利活動法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン
thinkC(著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム)
MIAU(一般社団法人インターネットユーザー協会)

1 野田政権は、TPPへの参加方針を固め、来る総選挙では交渉参加の是非が最大の争点になると予想されています。

しかし、肝心のTPPの内容はほとんど情報開示がされず、私たちは内容を知らされないままに参加の是非を問われています。TPPは秘密協議ですから、交渉に参加すれば国民に情報がもたらされる、ということもありません。

このフォーラムは、TPP自体についてはニュートラルです。ただその密室性と、漏れ聞こえる知的財産権条項の内容には 強い危惧を抱きます。仮に伝えられるような内容のまま日本が加入することになれば、豊かな文化の創造と情報の流通は委縮し、この国の未来を担う情報・文化 セクターを弱体化させ、コンテンツ市場でも日本を輸入超過大国の現状に固定化しかねないと考えています。

そこで私たちは連名にて、TPPの公開交渉化を強く求め、仮にそうならない場合、少なくとも知財条項をTPPの対象から除くことを参加条件にするよう、政府に求めます。

TPPへの加入の是非は、疑いなく日本の文化・社会・経済のゆくえに大きな影響を及ぼします。私たちは今後、公開のフォーラムを開催し、上記呼びかけへの賛同者を募り、同様の危惧を持つ海外の団体と国際的に連携し、来る総選挙でのTPPの透明化・知財政策の問題意識についての候補者の見解を広く伝えていく予定です。

2 TPPは秘密協議ですが、知的財産をはじめ幾つかの章については米国提案が 流出しています。米国提案は米国有力NGOのHP上で公開されており、その内容をめぐって国際的な論争を招いています。TPP協議でも、米国とニュージー ランド・マレーシア・チリなどが知財条項を巡って激しく対立中と伝えられ、もはや知財条項はTPP成立の最大の障害とも考えられるようになりました。

流出文書の内容は、福井健策弁護士による抄訳解説が 公開されているので、詳しくはそちらをご参照ください。要約すれば、そこで求められていることは、①著作権保護期間の大幅延長、②被害者の告訴なく著作 権・商標権侵害を起訴・処罰できるようにする「非親告罪化」、③知的財産権侵害の際に高額の賠償請求を可能にする「法定賠償金・3倍額賠償金制度」、④真 正品の並行輸入禁止、⑤DRMの単純回避規制、⑥反復侵害者のネット接続の強制解除(例えば「3ストライクルール」など) 、⑦(⑥を含む)米国型のインターネット・プロバイダー責任の導入 、⑧特許が切れた医薬の製造を一定期間困難にする「ジェネリック医薬品規制」、⑨医学的な診断・治療方法の特許独占化、⑩(遺伝子組み換え種子などを含 む)植物・動物特許、など多様なメニューであり、「知財ルールの強化・アメリカ化」と要約できるものです。各国で導入されれば、知財の輸出大国である米国 産業界には有利なものばかりでしょう。とりわけ、著作権の観点では、米国流の権利強化の側面だけが導入され、米国に存在している一般的なフェア・ユース例 外規定などの、適正な著作物の利用を促進する例外規定や免責規定が導入されなければ、著作物の利用の面でも米国のみが有利な立場に立つことになる、という 懸念もあります。現在、⑩を除く全てのルールは日本になく、仮に導入されれば我が国の社会・文化に大きな影響を与えることは確実です。

3 こうした個別のルールにはそれぞれ賛否があるでしょう。ただ問題は、(知財以外の20分野も同様ですが)そうしたルールが国際的な秘密交渉で一部の関係者によって決められ、かつ、条約上の義務として長期固定されることです。

知財の分野では国際条約は長く公開協議が原則でした。しかし、各国・各界の対立が先鋭化するにつれ、米国などの主導で秘密協議の傾向が強まっています。去 る6月には、海賊版対策の国際条約「ACTA」が、ヨーロッパで200都市以上で市民デモが起きるほどの苛烈な反対を受け、欧州議会で478対39という大差で否決されています。その際にも、海賊版対策への反対というよりも、その密室性や曖昧さが激しく批判されました。

また、この夏には日本でも、秘密裡に準備され、議員立法でほとんど実質審議なく可決成立した「ダウンロード刑罰化」がネットユーザーはじめ各界の激しい批判を浴びたのは記憶に新しいところです。

確かに、知財・情報のルールは今や国民が等しく当事者となるものであり、そのためしばしば激しい論争を招きます。しかし、そうであればこそ、オープンな徹 底した議論からルールを築き上げるほかないと私たちは考えます。そしてそのルールは、見直し・やり直しの可能なものであるべきです。

また、「交渉に参加した上で国益にそってTPPの是非を判断する」というのは一見正論です。しかし、その正論が成り立つ前提もまた、公開の協議であるはず です。秘密協議であれば、膨大な交渉項目について一部の関係者だけが「国益は何か」を判断して取捨選択し、国民には実質的な検討の機会が与えられません。 結局、国民は最後の国会審議で、政府がすでに交渉済みのパッケージ全体を見せられるだけになるのです。これでは、民主的なかたちで国益をふまえたTPPの 交渉を行うことは不可能ではないでしょうか。

しかも、条約は国内法に優先します。TPPで知財条項を受け入れれば、以後はその知財条項を遵守することは国際的な義務となり、変更できなくなります。こ れでは、社会の変化に応じ、人々のニーズや国益を踏まえて、日本にとって最善の情報のルールを作り直していくことはできません。

4 TPPの秘密性と知的財産権の面には、現在各国でも批判が高まっています。米国有力NGOの呼びかけで、12月1日・2日には、各国の団体・アクティビストのネットワーク会議がニュージーランドで開催されます。本フォーラムのメンバーからも3名が派遣されます。その内容は現地からも逐一報告し、また、その結果を踏まえて12月上・中旬には公開フォーラムを開催する予定です。

私たちは、豊かな文化・情報の創造とそれへの人々のアクセスを守り、次世代に残すため、TPPの公開協議化(公開協議化が実現しない場合の知財条項の除外)と、知財条項の問題点を訴え続けます。

特定非営利活動法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン
https://creativecommons.jp/
thinkC(著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム)
http://thinkcopyright.org/
MIAU(一般社団法人インターネットユーザー協会)
http://miau.jp/