DOMMUNEトークプログラム『Creative Commons Japan REMIX SPECIAL / ECCHU-OWARA-BUSHI CROSS CC ~伝統文化からCCライセンス、ブロックチェーンまで~』ダイジェスト版書き起こし(後編)
富山県富山市八尾町に伝わる民謡「越中おわら節」の演奏を録音して、それを元に2組のアーティストによるリミックスを制作、その両方にクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)を付けて公表するという今回の企画。
今回は最終回!! 2017年8月24日にDOMMUNEで配信されたトークプログラムのダイジェスト版後編です!!!!
CCJP理事のドミニク・チェンをホストに、ライター・編集者の大石始さん、編集者の高橋幸治さんをゲストにお迎えして、DOMMUNE宇川さんがトークに参加する場面もありつつ、前編ではアラレちゃん音頭からダンシングヒーローなど進化系盆踊りのお話や、きゃりーぱみゅぱみゅが音頭で国民的アイコンになった瞬間などのお話を、お届けしてきましたが、後編では今回の企画で録音された越中おわら節と、制作されたリミックスの試聴から始まり、ブロックチェーンの可能性、そして音楽の未来に希望を見る妄想トークをお届けします。
ぜひお楽しみください!
なお、番組に寄せられたツイートをtogetterにまとめていますので、こちらも合わせてどうぞ!
togetterまとめ→https://togetter.com/li/1147105
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(ドミニク)いやぁ、本当に話も尽きないのですが、今回録音した越中おわら節の元音源と、それをVIDEOTAPEMUSICさんとcolorful house bandさんにリミックスしていただいた曲を聞いていきましょう。この「越中おわら節」面白いのは、胡弓が入っているんですよね。胡弓が入っている日本の民謡とかってあるんですか?
(大石)結構珍しいんですよ。胡弓が「越中おわら節」で使われるようになったのは明治40年代以降らしくて。江戸初期には胡弓はいわゆる門付芸人、いろんな家を回りながら金品を受け取って生活をする芸人が胡弓を使って演奏をしていたっていう話はあるらしいんですけれど、その時代から演奏されていたものではないんですね。
(ドミニク)明治40年っていうと、日清戦争の10数年後ぐらいですね。
(大石)そうですね。だから、大きい時間で言えば割と最近のことですよね。
(ドミニク)こういう貪欲さも日本的な特異さなのかもしれないですね。では、お聞きください、「越中八尾おわら道場」による「越中おわら節」です。
(ドミニク)はい。こちらが原曲の「越中おわら節」でしたけれども、大石さんいかがでしたか?
(大石)いやあ、素晴らしいですよね。やっぱりこのテンポ感、すごくゆっくりしてるんだけども、しっかり確かなグルーヴがあって。踊ってる図は見えるんだけども、現代のポピュラー音楽の感覚からすると、ここまで遅い音楽ってなかなかないですよね。
(ドミニク)ありがとうございます。高橋さんいかがでしたか?
(高橋)独特ですよね。日本における弦楽器の受容みたいなことで言うと、弦楽器に幾つか種類があると思うのですが、バチで弾いたりとか、指で爪弾いたりとか。胡弓というのは、馬のしっぽの毛とかで擦るものですよね。以前本で読んだのですが、日本には弦を擦るタイプの弦楽器が、実は相当入ってきてるんだけれど、広まらなかったようですね。
(ドミニク)確かに、無いですよね。
(高橋)バチで弾くとか叩くとか指で爪弾くというもの、例えば三味線は中国から一回沖縄に入って、本土に入ってきてますよね。正倉院には大陸から伝わってきた楽器がたくさんあるけども、その中には馬の尻尾の毛で擦るタイプの楽器も実はたくさんあるらしいんですよね。入ってきてるんだけども、日本の風土には広まらなかったという歴史があるようですね。だから胡弓が入ってる音楽は、そういう意味でもとても珍しいんだと思うんですよね。
(ドミニク)これ自体がリミックス的という感じがしますね。
(大石)そうですね。エキゾチックな感じもしますよね。
(ドミニク)とても不思議な感じですよね。ちなみに「おわら節」の「おわら」ってどういう意味があるんですか?
(大石)「おわらい」からきてるんじゃないかとか、いろんな説あるらしいんですよね。ルーツがはっきりしなくて、謎めいた部分も多いんですけど、民謡自体そういうものが多くて。ただね、九州各地に「ハイヤ節」っていう歌があるんですよ。
(ドミニク)「ハイヤ」ですか。
(大石)「ハイヤ節」っていうのは、日本列島の民謡の大きな源流の一つなんですけど、その「ハイヤ節」に近いフレーズが「おわら節」に入ってるんですね。だから九州から北前船経由で富山に入ってきている部分が確実にあるんですよ。「おわら節」にも混血音楽的なところがあって、そこがおもしろいところですね。
(高橋)民謡っぽい節回しもあり、ちょっと義太夫のような感じもあったり、不思議ですよね。
(大石)そうですよね。八尾っていう土地は昔から義太夫や小唄が親しまれていたっていう話があるらしいですよね。そういう影響がもしかしたら出てるのかもしれない。
(高橋)なるほど。
(ドミニク)はい、じっくり原曲を聞いて、その背景も知ったところで次はリミックス曲に移りたいと思います。最初にVIDEOTAOEMUSICさんによる「Ecchu-Owara-Busi VIDEOTAPEMUSIC Remix」をお聞きください。
(ドミニク)VIDEOTAPEMUSICさんによるリミックスでしたけれども、大石さん、いかがでしたか?
(大石)最高ですよね、これ。本当に素晴らしいと思います。最初と最後に水の音が入っていて、すごく印象的なんですけど、クリエイティブ・コモンズのホームページに掲載されているVIDEOTAPEMUSICさんのインタヴューによると、八尾の町に実際にVIDEOTAPEMUSICさんが足を運んだとき、路地の横をずっと水が流れていることが印象的で、それで水の音を録音した、と。
(ドミニク)フィールドレコーディングをしてるんですよね。
(大石)そういう事ってすごく重要だと思うんですよ。最初のほうでお話をした岐阜県の郡上踊りも、踊る人の下駄の踏み鳴らす音がリズム面においてすごく重要な役目を果たしているんですね。しかも大地を踏み鳴らす動きというのは悪霊を祓う意味合いもあるんです。お相撲さんの四股と一緒の、いわゆる悪霊祓いの足踏み、返閇がルーツにある。ただ、郡上踊りのCDを聞くと、その下駄の音って大抵入ってないんですよ。
(ドミニク)なるほど、それはちょっと残念ですね。
(大石)そうなんです。だから聞くと、なにかが圧倒的に足りないんですよ。
(高橋)実は重要な要素なんですね。
(ドミニク)それでは、最後の曲ですねcolorful house bandさんによる、「Ecchu-Owara-Bushi colorful house band Rebuild」お聞きください。
(ドミニク)はい。colorful house bandさんによるリミックスでした。これもやばいですね!色々好きすぎるポイントがあって、司会の役を放棄しそうになってますが(笑)いかがでしたか、大石さん。
(大石)これもまた、いろんな意味で面白いですね。さっきのVIDEOTAPEMUSICヴァージョンが元の歌に八尾の空間性などを加えていって世界観を広げていったとすれば、こちらのバージョンはラップが入っている。ここでラップしてるのはHIDENKAという素晴らしいラッパーですね。いわば「おわら節」を一つのトラックとして捉えているような感覚があるというか。いろんな言葉を新たに乗せていくって意味では、リミックスというよりもリビルドの領域ですよね。
(ドミニク)再構築ですね。
(大石)新しい曲が作られてるっていう感じがすごくしますよね。
(ドミニク)ありがとうございます。高橋さんはいかがでしたか。
(高橋)この「越中おわら節」が内包している色々なものを、それぞれ2組のトラックメーカーの方が、それぞれ違う形でうまく引きだしてるなという感じがしますね。
(宇川)凄い良かったですね、今のトラックね。
(大石)最高ですね。
(宇川)彼岸を感じましたよ。
(ドミニク)彼岸を感じますよね。
(宇川)そこから先の涅槃すら感じますね。
(ドミニク)いやこのHIDENKAさんの声とリリックがやばすぎて、もう泣きそうになってるんですけど。
(全員)笑
(ドミニク)途中でコブシも入っている、コブシ入りのラップってちょっと聞いたことない。
(大石)そうですね。
(ドミニク)これは、ド名曲が2曲も出来ちゃったんじゃないですか!
(ドミニク)SoundCloud上の、これはcolorful house bandさんのリビルド曲のページです。どのような条件かは、説明文の下のクリエイティブコモンズライセンスっていう部分をクリックすると出てきます。これはAttributionと言って、クレジットをちゃんと表記してさえくれれば、You are free to share and adapt、どんな場所でも自由に連絡とか全く必要なく使うことが可能です。だから是非これらの曲を日本中の盆踊りを踊るときに使っていただきたい。
(高橋)そうですよね。
(森)今回かけてませんが元の曲の胡弓のソロバージョンも収録していて、そちらもすごく良いと思います。素材としても魅力的で使いやすいものではないかと思っています。
(ドミニク)はい。どんどんリミックスしてもらって、21世紀ならではのお盆カルチャーがネットと実世界を交差しながら成長していってほしいです!
さて第一部は、一旦ここで区切らせていただいて、第二部がブロックチェーンの可能性という…。
(高橋)唐突な感じがしますね(笑)
(ドミニク)唐突感ありますね、ここまでのソウルフルな感じが一気に消し飛んでしまいそうですが(笑)。今回の主旨をご説明しますと、dotBlockchainというベンチャー企業がアメリカにあるのですが、彼らは音楽の権利許諾をブロックチェーンの技術を使うことによって、解決しようという人達です。Wiredでインタビュー記事が載っていたりもしていて、その創業者であるBenjiさんにインタビューを申し込んで、OKを頂いてたのですが、残念ながら急遽出張が入ってしまってキャンセルということになってしまい、少々変更となります。
ここからは、先ほど前半でいろんな民謡であるとか伝統芸能の話をしてきましたが、その世界観をもっとテクノロジーを使うことによって、こういうことができたら良いよねみたいな、妄想を広げるような話をしていければと思うんですね。
(高橋)そうですね。
(ドミニク)まずはこのお題で何か思うことはありますか?高橋さん。
(高橋)音楽ということを、深く考えてしまうとですね、一つのエピソードですが、沖縄民謡の嘉手苅林昌さんという方がいらして。本当に名人でいらっしゃるんですけども、その方が自分のライブの時に、お客さんに向かって、歌を聞きにくるやつは馬鹿だって言ったらしいんですね。要するに歌っていうのは歌うものであって聞くものではないと。
(ドミニク)ああ、聴きに来てるんじゃない、音楽とは自分で歌うものだということですね。
(高橋)そうなんです。それをお客さんに向かって言ったっていうのが一つエピソードとしてあるようなんです。色々な見方考え方はありつつも、とても僕は音楽の、すごく根源的な部分みたいなものを言い当てているような気がするんです。
(ドミニク)なるほど。
(高橋)自分が参加してなんぼっていうところがあると思うんですね。演奏する人と聞く人、歌う人と聞く人が分化して別れてきたというのは、音楽が産業化していく中で、出来てきた区分ではないかと。だからそれが確立する以前は、自分で歌ってなんぼとか踊ってなんぼというものだったと思うんですよね。
(ドミニク)そう考えると、まさに創造の共有、クリエイティブ・コモンズだったわけですよね。
(高橋)そうなんですよね。だから自分で何かしらの形で活用する、使うものであるという事を考えると、労働歌みたいな文脈の中では、例えば替え歌が作られたりとかいう形で、その土地の人達に歌われてきたんですよね。
(大石)そうですね。レコードという記録媒体に記録されたり、譜面に書かれたりする前というのは、歌の形自体が固定していなかったと思うんですね。だから人によって、集落によって歌い方も違っていたわけだし、リズムもメロディーラインもそれぞれバラバラだったと思うんですね。それがレコードに記録されて、ラジオに乗ってしまうと、ひとつのスタンダードなスタイルになってしまう。民謡で言えば「正調」とか言われたりしますけれど、お師匠さんがその正調というスタイルをお弟子さんに伝えていくことで、様式がさらに固定していくわけですね。でも、民謡はそもそも異なる土地の歌が結びついたり、新しく作り替えられたりしながら歌い継がれてきた。リミックスというのは、固定された民謡の形をもう一回揺さぶって、改めて流動的なものにするものだと思うんです。
(高橋)そもそも持っていた、改変性や流動性というような自由度みたいなものをもう一回解放することで、音楽が再び活力をもてるのではないかという気がしています。
(ドミニク)ブロックチェーンの本質はいくつかありますが、一言で言うとユニバーサルな分散データベースなんですね。分散してるというのは、つまりある個人や企業や国家が独占できないアーキテクチャとなっていて、ノードと呼ばれる世界中の人たちが参加しているネットワークの中で、ハイパーレジャーと呼ばれている台帳が分散してあちらこちらにクローンがあるわけです。
例えば、僕が高橋さんからお酒か何かを譲ってもらって、その報酬として0.04ビットコインとか払うとすると、その記録っていうのが世界中に分散するハイパーレジャーにクローンされていくわけです。そして、そのクローンしていくときに計算能力をとても使うプロセスが走り、計算がすごく大変なのでハックもしづらいっていうことなんですね。
だから、世界一セキュアなものを目指しているものではあります。過去には有名なイーサリアムっていうブロックチェーンは何回かハックされ、大損害を出したこともありますが、原理的には本当の意味での分散データベースというものができてきていると思います。
今、それが様々な人に想像力を掻き立てていて、例えば不動産の登記とかは現在、政府による認証を得ていますよね。それこそ役所とかで確かにこの土地はあなたのものですとかやるわけですよね。でも、そういった情報を全部ブロックチェーンに置いて共有することで一番セキュアで効率的な社会システムを作れるのではないか、ということをやり始めているベンチャーも出てきていますね。
その大きな流れの中で音楽に関係するところで言えば、著作権情報などをブロックチェーンに記録しておけば、今まで出版社とかを通して交渉したりしなきゃいけなかったところが中抜きできたり、自分が決めた一定の条件下での利用をあらかじめ許諾しておくということもできるのではないか、更にスマートコントラクトのプログラムを走らせれば、例えば僕が高橋さんの曲をリミックスして僕がお金を儲けると、僕が儲かった分から高橋さんに自動的に数パーセント還元されるような仕組みもできるのではないか、ということが考えられています。
(高橋)中間業者とかを介さずに個人間送金とかもできてしまう。
(ドミニク)触っていいのかとかダウンロードしていいのかということを、エンドユーザーが意識せず、ただ聞くだけではなくて自由に使ったりする事が出来るようになる可能性があります。
(高橋)そうですね。ブロックチェーンは色々話題になっていますが、まだまだこれから使い方とか活用のされ方とかが開拓されていくところでもあると思うので、いろいろな文脈で捉えている人がいると思います。ビットコインとセットで考えている人もいれば、そうじゃない人もいると思う。今ドミニクさんの説明を聞いた人の中にも、なんかそのすごくサーベランスな、みんなで監視して誰がいつ何を買ったとかが全て記録される閻魔帳のようなイメージを持つ人もいるかもしれないですね。
(ドミニク)閻魔帳って良いですね(笑)
(高橋)もう良いこと悪いことも、みんな記録されていくように捉える人もいるかもしれないけれど。もっとポジティブに、今までのインターネットが「情報のインターネット」だとすれば、これからのインターネットは、「価値」をいかにちゃんとみんなで共有しながら上手く運用していくかというもの、と捉えていくことで、自分が使い、誰かに提供し、発表し、さらに誰かに改変されることを、とてもオープンな形で、そこに参加する個人個人で運用をしていくものに育つ可能性がある気がします。
(宇川)現在YouTube の動画をスキャンして自動検知するコンテンツIDってありますよね。例えば dommune ってリアルにこのシステムに晒されているのでが、DJが著作隣接権に触れる楽曲をプレイして、警告の上、2回バンされたら、アカウント剥奪されるっていうシステムがあります。その前提として、例えば誰かがここで北島三郎さんの「まつり」をかけたとして、権利元に連絡が行ったとします。その上であえて広告を表示させ、動画を収益化させて、そのコピーライトを現金として還元させるシステムっていうのは既にありますよね。
(ドミニク)そうですね。そのYouTube のコンテンツIDは、優秀で先見的な取り組みですね。コンテンツを配信してる人は権利を意識せずに使っても良いと、使っても良いんだけれども、ちゃんとYouTube がその広告収益を権利者に還元するよっていうことで関係者間の平和を保っているということですよね。
(宇川)そうですね。作詞作曲という意味での著作権に関しては、日本であればJASRACやドイツであればGEMAで権利の配分の取り組みがありますよね。そこからやっぱり一歩進んだところで原盤権の問題がありますよね。特に dommuneはDJカルチャーを推しているので、原盤権問題が常にグレーなのです。それにも関わらず、このような形でのびのびとやらせて頂いていますが(笑)、それはやはり、コマーシャルメディアとしての実績があるから、と言えます。例えばニューリリースがあったとして、DOMMUNEに出演することによって、AMAZONの売り上げが配信時間中に急激に伸びる。そうやって販促値がきちんと数字として現れているので、レーベル側もむしろ出稿してでもこのメディアに出演させたいと思ってくれている。そういった風通しの良さと新陳代謝があります。しかし、現代の日本の法律では、原盤権問題が常につきまとっているわけです。それもブロックチェーンが解決してくれるという話ならば、明日から師匠と呼ばせていただきます(笑)。
(ドミニク)そこは先ほど高橋さんがおっしゃっていたように、全部定義できるがゆえに、逆に雁字搦めになる部分もあるのではと思います。
(高橋)そこは問題ですよね。権利問題とかグレーにしているがために、豊穣に育ったカルチャーとかあったりするわけですよね。
(ドミニク)現代で言えばコミケや民謡というのもそうですよね。例えば江戸時代にJASRACがいたら(笑)
(全員)笑
(高橋)もう大変ですよね(笑)
(ドミニク)端唄とか小唄とか全部ね。今の音楽教室問題が江戸時代にあったら、長唄の寺子屋とか謡曲の習い本とか含めて、もう日本滅亡しちゃいますね(笑)
(高橋)本当ですね。全部摘発されちゃいますね(笑)
(大石)やっぱり民謡や伝承歌ってやっぱりその土地だったり、あるコミュニティーで育まれてきた側面がすごく強いと思うんですね。今回のおわら節に関しては、オリジナルの演奏者の方が「自由に改変して良いよ」っていうことで、こういうプロジェクトが成立してるわけですよね。土地の人からこういう形で許諾を得れているというのは大きい。法的な許諾、改変する権利を獲得しても、土地のルールのなかではあまり効力を持たないこともあると思うんですよ。
(ドミニク)なるほど。仁義的なものが大事なんですね。
(大石)VIDEOTAPEMUSICさんのインタビューの中でも、伝統芸能に映像をつけてVJをやったら怒られたというような話をしてましたよね。民謡の世界でもそういうことはあると思います。いくらこちらが良かれと思ってリミックスしても、土地の人たちからしてみると、「こんな話、聞いてないよ」で終わりというか。そういう難しさっていうのはどこか孕んでるところがあると思うんで、今回みたいに演奏者の人から「好きにやって良いよ」とお墨付きを得てる物は、ある意味すごく安心だと思うんですよ。そういうものがないと、まず土地の方に一升瓶持ってお邪魔して、朝まで飲むところから始まるわけですよ(笑)。
(ドミニク)お神酒を捧げて、奉納して(笑)。
(大石)で、「君もなかなか飲むな、じゃあ好きにしていいよ」みたいな世界って、現代でもありますからね(笑)。
(ドミニク)それはブロックチェーンじゃ無理だなぁ。
(全員)笑
(大石)だから、そういう理解のある地元の演奏者の方が「好きにしていいよ」とオープンにしてくれる音源がもっと増えれば、民謡を新しく改変してリミックスするという行為ももっとやりやすくなると思うんですよ。
(ドミニク)リスペクトする気持ちでね。ただリスペクトを払う行為を自動化するのは語義矛盾な気がするんですよ。だから逆に情緒や人情が、すごく大事なパスワードになる、と言うと変な言い方になるかもしれないけれど。それは何か一周して面白い話ですね。
(高橋)音楽って記録されるようになって以降、普及という観点でいえば、たくさんの人に聞かれるようになったとか、ある種とても自由を得たと思うんです。でも、その裏では、記録され様々な権利関係などが出てきたことで音楽というものが不自由なものになっているとも感じます。だから一つのテストとしても、その不自由さを少しでも解放できる何か方策がないのかっていうことで、ブロックチェーンというものには期待したいっていう感じはあります。
今日は、たまたま「越中おわら節」が取り上げられましたけれど。歌を歌う人がいなければなくなってしまう音楽ってすごいたくさんあるわけですよね。だから、どのように残すのかということもありますよね。
(大石)そうなんですよね。この瞬間にもなくなっている歌って確かにあって。僕もいろんなところを回っていると、地元の人たちから「いろいろと大変で、3年後はもう続けられないかもしれない」という話を頻繁に聞くんですよ。そこの歌や囃子を録音して記録として残すことはできるんですけれど、それを生きたものとして繋げていくにはどうしたら良いのか。それはもしかしたらリミックスもそのひとつの方法なのかもしれないですよね。
(ドミニク)お祭りのレシピは作れないんですかね。
(大石)お祭りのレシピ!
(ドミニク)つまり、マニュアルって言うと悪い言葉かもしれないですけれど、それが一回消えてなくなったとしても、やる人がいなくなったとしても、そのレシピがあれば、違う場所で、復活っていうか、再生できるっていうかね。なんか、そういう形式ってないのかなっていう。
(大石)そうですね。多分ね、歌われている言葉やリズムは、そうやって記録して再生することもできると思うんですけど、歌っていたこのお爺さんしか知らない個人史、地域の歴史みたいなものがやっぱり大事で、それが途切れることによって、一回歌やリズムが死んでしまうことってあるんですよ。そのあと誰かがその楽譜をもとに伝統を再生することはもちろん素晴らしいことですけれど、一回歴史が断絶してしまう部分はどうしてもある。歌が本来持っていた生命力をどういう風に維持するかが大事で、そのやり方は僕らも考えていかなくちゃいけないし、いろんなアイデアが出るべきかなと思いますね。
(ドミニク)VIDEOTAPEMUSICさんのリミックス曲の中での、川の音から環境の広がりを感じさせる方法や、先ほどの大石さんのお話での、郡上踊りでの下駄が石垣に当たる音をそのまま曲の一部と捉えるあり方などを聞いていると、デジタル音源でも、こういう音が鳴る場所を作るには、こういう環境が必要だと川を探し始めるとか、そういうアーカイブとアーカイブの対象が同じ次元にあるという作り方を模索できる気がしました。
(宇川)重要ですよね。やっぱりここで重要なキーワードは風土ですよね。
(ドミニク)ああ、風土ですね。風と土ですね。
(宇川)そうですよね。
(大石)ですね。
(ドミニク)越中には越中の風土があるし、関東には関東の風土があるし、それがローカリティーによって、勝手に自生的に生まれてくってのが、すごく美しいように思います。
(大石)そうですね。そもそも民謡自体がそういう形で、どんどん各地でローカライズされてきたものですからね。だから、おわら節は八尾の風土の中で生まれたものだし、その土地の風土、歴史や記憶みたいなものが、歌やリズムに現れてくるっていう事だと思うんですよね。
(ドミニク)だから、実在の空間が一種のニューラルネットワークのノードのようになり、点から点を移動するたびに違うプロセスがかかって別な物へと派生していく。それゆえに、人為的に変えようというのでなく、自然に生まれて変化していくところを、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスも今後とも支援していきたいですね。
(高橋)改変がすごく自由に、あるルールのもとに出来るようになることが理想ですよね。たぶんクリエイティブ・コモンズのビジョンもそこだと思うんですけれど。
(ドミニク)そうなんです。今クリエイティブ・コモンズっていうのは契約とか同意みたいなスキーム、つまり意思表示なので、僕は勝手にこれを宣言しますと言えば、誰でも使えるようになります。しかし、それすらも人為的というか面倒とか、わざとらしいと感じて嫌がるクリエイターの人もいると思うんですよね。息を吸って吐くように、曲を歌って作る事が、ただ消え去るのではなく、アーカイブも同時にされていくというような、アーカイブや改変が自然化するってのが、僕の私見なんですが、理想だと思います。っていうのは、100年後ぐらいですかね(笑)。
(ドミニク)さて最後に、ご感想をゲストのお2人に聞きたいと思います。大石さんいかがですか?
(大石)僕は基本的に土に近いところばかり掘り下げてきたので、今回のお話をいただいて初めてブロックチェーンの可能性を知ることができました。ブロックチェーンみたいな新しい技術と土に近いところの文化が組み合わさって、今後いろんなものが生まれてくるかもしれない。そういう可能性を感じれる、とてもワクワクする放送でした。ありがとうございました。
(ドミニク)大石さん、ありがとうございました!高橋さんいかがでしたでしょうか?
(高橋)クリエイティブ・コモンズの放送、今回2回目ですけれど。行きがかり上音楽の話が中心になりますが、音楽を色々な角度からひたすら考えたり、語るのはすごい大事だなっていう気がしますね。
(ドミニク)あまり日常生活でこういう観点では語らないですよね。
(高橋)第3弾、第4弾もあれば、また呼んでください。
(ドミニク)ではこれは毎年、お盆の季節の恒例企画に出来るように。
(高橋)お盆と言えばクリエイティブ・コモンズ(笑)。
(ドミニク)はい(笑)お盆と言えばクリエイティブ・コモンズという風に、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン一同も頑張っていきたいと思います。
(宇川)そして、何か僕がまた最後にシメとして、傷跡を残さないといけないような雰囲気になってるんですけど(笑)、やっぱり「クリエイティブ・コモンズは土であり、風であり、dommuneは肥やしである。」ということが今日分かりました。つまりこのフロアは肥溜だということです(笑)。ありがとうございましたー。
(ドミニク)宇川さん、再び名言をありがとうございます(笑)そして最後にこの「越中おわら節」の原曲を提供していただいた八尾の庵さんたち、及び、VIDEOTAPEMUSICさん、colorful house band さん達に、改めてありがとうございましたと、心から感謝をしたい気持ちです。
改めて、大石さん、高橋さんありがとうございました!
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以上をもちまして、5回にわたって連載してきた『CC JAPAN REMIX SPECIAL / ECCHU-OWARA-BUSHI CROSS CC』は終了となります!
今回の企画を進めるにあたっては、本当に多くの方からのご好意をいただきました!
庵さんをはじめとする越中八尾おわら道場の皆さん、リサーチ・録音などに多大なご協力をいただいたKENTARO IWAKIさん、remixをしていただいたVIDEOTAPEMUSICさん、colorful house bandの皆さん、DOMMUNEにご出演いただいた大石さん・高橋さん、宇川さんをはじめとするDOMMUNEの皆さん、CCJPの皆さん、繋がりを紹介をしてくれたり相談に乗ってくれたり資料提供などしてくれた友人の皆さん、諸々の企画を視聴していただいた皆さん、書き出すとキリがありませんが、本当に多くの方に感謝しています!
創造の循環が広がることを祈って!
文責:森靖弘・吉田理穂(Creative Commons Japan)