CCポリシー・ワークショップの3つ目は、これまでに提起されたCCライセンス関連の訴訟もしくは紛争の紹介だった。
一つ目はスペインの訴訟(Badajoz事件、英語の判決はこちら)。CCの音楽を流しているバーのひとつ、Bar Metropolに対して、音楽著作権管理団体であるSGAEが公衆での演奏(Public performance)の使用料の徴収を請求した事件。Barのオーナーは、SGAEに登録している権利者ではなくCCでライセンスされた音楽を流していると反論。判事は、Barのオーナーの反論を採用し、「音楽著作権者は自己の望む方法で著作権を管理することができる。BarのオーナーがSGAEのレパートリー以外からも音楽を調達することが可能であることを示した以上、SGAEの方で、Barで演奏された音楽は自分のレパートリーからのものであることを証明する義務がある。SGAEがその証明をしなかった以上、BarのオーナーはSGAEに音楽使用料を支払わなくて良い。」この判決の結果、スペインのBarでは最近、CCの音楽が大流行。
会場では、Barのオーナーはどうやって訴訟をする費用を調達できたのか、という質問があった。CCスペインからは、このBarのオーナーは社会運動などにも興味のある人で、いわゆる政策形成訴訟の一環としてこの訴訟を行ったのだろうというコメントがあった。
次の訴訟は、CCオランダからの紹介で、A. Curry v. Audax/Weekendという事件(判決の英語版はこちら)。事案としては、Adam Curry(MTVのビデオ・ジョッキーやラジオ番組のインタビューアなどを務めたことのある芸能人)が、CCライセンスBY-NC-SA 2.0バージョンで自分の家族の写真をFlickrで公開していたところ、この写真の何枚かが“Weekend”という商業タブロイド誌に掲載された。2006年3月9日、アムステルダム地方裁判所はCurryの主張を採用し、以下のとおり判決した。すなわち、CurryはFlickrにおいて、自分が著作権を有する写真をCCライセンスのBY-NC-SAでライセンスしており、このライセンス条件は一般の人にも認識可能な状態で表示されていたから、Weekend誌はこの使用条件を確認する義務があった。Weekend誌は商業誌であるから、このうちの「非商業(NC)」の条件に違反している。Weekend誌は、Flickrのページ上に”This photo is public”という記載があったことから、パブリック・ドメインかと思った、という主張をしたが、採用されなかった。よって、結論として、Weekend誌はCCライセンスの条件に違反して写真を掲載したため、著作権違反であると判断された。ただし、この判決では、この無断掲載による経済的損失はゼロであると判断された。判事によれば、この写真はすでに、無料で公表されているため商業的な価値はすでに失われているから、という。
この事件の影響で、CCライセンスされたものは経済的に価値が無いのではないか、という誤解が一部に生じているのは遺憾なことだ、というコメントがあった。例えば、日本における裁判であれば、少なくとも「その著作権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」を損害賠償として請求することができるから(著作権法114条3項)、異なる判断になるだろう。
最後は、フランスでの紛争(いまだ裁判にはなっていない)。フランスでは、BY-NC-ND2.0ライセンスのもとで公表されていた音楽がテレビ放送で用いられた。氏名表示も行われておらず、また、番組放映にあたって改変も行われていた。そのため、CCフランスは、TV局に対して、CCライセンスを解説し、利用はライセンス違反であったことを説明。いまだ話し合いを続けているが、裁判所へ提訴する費用は、受け取ることができるかもしれないライセンス料よりも高額になることも予想されるため、裁判をするかどうかは不明である、とのことであった。
[文責:のぐち]