しばしば人々が「共有」の社会における意義と個人における意義について混乱していることに困惑させられる。ある者は共有は挑戦であるという。なぜなら、共有は社会的美徳だからだ。おそらくそれは正しい。しかし、共有における個人の側面を見過ごしていないだろうか。なぜ人々は物を共有するのだろうか。ある者はその方がもっと楽しくなるから共有するのだろうし、それが社会的によいことだと信じるがゆえに共有する者もいる。彼ら自身がやった何かをもっと多くの人に知らしめたいから共有する者もいるだろう。個人の「共有すること」に対するモチベーションがどのようなものであろうと、人々がどのようにモチベーションを得て、どのように報酬を得るかという問題に「共有」が関連しているのは明確である。しってのとおり、この問題はときに経済学的な問題ともからみ、より複雑になることもある。
しかしながら、ローレンス・レッシグが最近「Lessig Letters」で議論しているように、「共有経済がいかに古典的な営利経済と相互作用しあうか」が次の共有者に課せられたチャレンジである。レッシグによって提示された「タイム誌がCCライセンスのもとにあるFlickerの写真を使いたい場合、何がおこるか」といった問題点や、「ccMixterでのヒットを商業ベースに移すにはどうするか」といった問題点をふまえたうえで、このようなときに共有者はどのような役割を果たすべきだろうか。どのようにして共有は、商業の世界とつながるのだろうか。
これらの問題点に対して戦略的な答えを提示する印象的な事例がBookmoochである。Bookmoochは古本交換のオンラインコミュニティだ。メンバーになると誰かに古本を送ってもらうように頼むことができるが、そのかわりに自分が持っている本を誰かに頼まれたら送ってあげなければならない。まさに共有や古本を「ねだる」ことに興味がある人たちのシンプルなネットワークである。Bookmoochは、一見すると「ただ共有するだけ(just sharing)」に見えるが、それだけではない。もし、望む本が手に入らなければウィッシュリストに加えられ、それが急ぎで欲しい場合にはコピーを待つかわりにかAmazonら買えるようにリンクがはられる。Bookmoochは5%の手数料をAmazonからもらえることになっている。これはいうまでもなくビジネスモデルになっている。
Bookmoochは「共有」コミュニティのバリューチェーンに著者を加えるために、これまでにない新しい特徴のある試みを追加しようとしている。それはある本が交換されたときに、著者に何らかの報酬が入るという仕組みである。Bookmoochの創設者のJohn Buckmanは「従来、著者は新品での売り上げからしか収入は得られず、古本の売り上げからはいっさいの印税を得ることができなかった。私が試みているのは彼らの本が使われるたびに、少しでも彼らに還元することができる方法を見つけることだ。」と話す。
メカニズムは単純だ。ある本が交換されるたびに、著者にクレジットが渡される。多くの本が交換されれば、多くのクレジットを得ることができる。ここでいう「クレジット」とはBookmoochの無料の本のことである。いいかえれば、「著者は人生のために無料の本をもらう」ことができるのだ。John Buckmanは、アマチュアの作家を助けることができる方法に取り組みたいとも話していた。本を輸送するコストを読者が払ってくれれば(これが自費出版にとっての重大な問題であるのだが)、自費出版をしている作家にとって、彼らの著作を広める際の障壁は明らかに低くなる。これが、「コンテンツのアフターマーケット」と彼が呼ぶシステムである。このように、より多くの創造を続けるモチベーションを失わないように、著作者に報酬を与えることは重要である。
Bookmoochはうまくいっているのだろうか。彼は驚くほどうまくいっていると教えてくれた。サイトを設置してからわずか7週間で20,000冊の本が交換され、10,000冊が交換できる状態にあり、67の国と地域から10,000人が参加しているという。サイトは5つの言語に翻訳されており、日本語にも近い将来対応するという。彼は人々が10冊の無料の本を共有をすると、新しい本を買うようだということを統計から発見した。これが「共有」と「購買」を結ぶマジックナンバーなのだろうか。
写真:古い本に新しい人生を, Bookmooch, CC BY 2.0-