科学のコモンズ会議-ビジョンの創設作業

残りの作業も当日の朝には終了し、米国科学アカデミーで開催されるCommons of Science会議は準備万端で初日を迎えた。オーディオ機器のテストは終了し、受付には名札と会議の資料が積まれ、舞台準備はととのった。会議に必要な団体へと招待状を送付したことを確認し、プログラムを2日間いっぱいに詰め込む数ヶ月間の準備を終えたいま、出席者たちの来場を待つのみだ


ワシントンDCの国会議事堂に隣接するKeck Centerのロビーには、有力な科学者と方針を決定する主導的な人々が続々と入ってきた。Paul Uhlir(NAS)、George Strawn(NSF:米国科学財団)、岩田修一(CODATA、東京大学)、Tim Hubbard(Sanger Center)を含む参加者らも到着。2日間の生産的かつ啓発的な集いに向けて準備は完了した(出席者全員のリストは会議のサイトにある)。
出席者が会場へ次々と入っていく光景を見るのは、実に安心すると同時に胸躍る体験だった。学問分野の垣根を越えて出席した著名な人々に、多くの政府機関からの参加者も加えた仲間たちが、開かれた科学のイニシアチブについて話し合うために集結するのを、いま目前にしているのだ。
招待者のみの参加によるこの2二日間のイベントは、2006年10月3日(火曜日)に米国科学アカデミー(NAS)の主催で正式に始まった。
会議では、Oak Ridge National LabsのTom Wilbanksが議長を務めるなか、多様な学問分野についての異なる縮図を代表する一連の講演者が演壇に立った。Myron Gutmann(ICPSR)は社会科学からの努力について講演。またEric Kansa(Alexandria Archive)が人類学と考古学について、Andrew Lawrence(エディンバラ大学)が天文学・天文物理学・物理学について、そしてBrian Athey(NCIBI)は生物科学について、それぞれ講演した。
バックグラウンドの多様性は、予想通り会議の成功につながった。方針面に携わる人々と、技術的側面が抱える問題を論じる人々との間にコミュニケーションを築いたのだ。これによって、科学のためのコモンズの創設に対する障害が特定されただけではなく、既存の努力と現行のビジョンにも光りを当てることとなった。
MacKenzie Smith(MIT Libraries)が議長を務める次のセッションでは、まずNSFのサイバーインフラ局から参加したChris Greerが、学問分野の横断に参加するための基盤に対する組織的なアプローチを取り上げた。Paul David(オックスフォード・スタンフォード)はGreerを引き継いで、経済的・法的な側面について公演し、「反コモンズ」という概念を参加者に紹介した。このセッションを締めくくったのは教育省およびScience for the Netherlandsからの参加者、Peter Schroederは多岐にわたるプレゼンテーションを考慮に入れたうえで、データの共有に対する潜在的な欠点に触れた。
その後、参加者たちは4つのワーキンググループに分かれ、より開かれた科学というモデルに到達するまでに立ちふさがる主な障害を明らかにしようとした。本会議とは別に行われたこの討議で得られた成果は、注目に値する。というのは、それまでは言及されたことのなかった、目的に対する多くの障害が明らかになったうえに、「ビジョン」をつくるのに役立つかずかずの有益な意見も提示されたからだ。
この会議の果たした役割は大きい。それは開かれたアクセスというモデルとそのイニシアチブに関するScience Commonsからのメッセージを多くの人に伝えることだけに留まらない。これだけの多種多様な仲間が、この戦略を将来展開していくために政府が出資したイベント(NAS)に集まったのだ。そのビジョンはいずれ形を変えていくことだろうが、少なくとも現時点においては、科学的データをもっと利用しやすいものにすることについての考え―そしてうまくすれば、じきに行動も―を引き起こすことには成功した。

■最新情報
Commons of Science会議の音声録音が利用可能。
Commons of Science会議でのプレゼンテーションの録音とスライドは会議のサイトのプログラムページで利用可能。必見!

翻訳:Takatomo Abe
オリジナルポスト:Commons of Science conference – working to create a vision(2006/10/25)