アカデミーⅠでは、スタンフォード・ロースクールの教授でありCCの提唱者であるローレンス・レッシグ氏と、現米国CC理事兼CEOである伊藤穣一氏によるスピーチが行われました。
レッシグ氏は、クリエイティブ・コモンズが始まった理由について、またクリエイティブ・コモンズのフィロソフィについてスピーチを行い、伊藤氏はクリエイティブコモンズが行っている取り組みについてスピーチを行いました。
[ローレンス・レッシグ氏]
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まず、レッシグ氏は著作権の禁止権・独占権としての機能を説明した上で、著作権の存続期間の延長はクリエイターのインセンティブにはならないと述べました。
著作権の存続期間延長は、ウォルト・ディズニーの意見に立脚して成立したと言われます。確かに、経済的利益を生む独占権の延長を求めることを誤った行為と言い切ることは困難です。しかしレッシグ氏は、著作権法政策については、(経済的動機ではなく)最も品格ある選択を行うべきではないかと述べます。
ミッキーマウスの最初期の作品『蒸気船ウィリー』は、バスター・キートンの『キートン船長』のパロディ―「remix」として制作された映画でした。現在、著作権を徹底的にコントロールしているディズニーでさえ、その最初期の作品はremixとクリエイティビティの最高の融合という形で生み出したのです。レッシグ氏は、「remix」によるクリエイティビティを、新たな時代の文化・新しい時代の識字率であるといいます。
レッシグ氏は、サンプルとして、いくつかのコンテンツを挙げ、会場で実際に放映しました。例えば、ビートルズの『ホワイトアルバム』とジェイ・Zの『ブラックアルバム』の音源をリミックスしたデンジャーマウスの『グレイアルバム』、Youtubeにアップロードされている日本のアニメ『NARUTO』とポップ・ミュージックのMAD(合成)ムービー、ディズニーとヒップホップのMADムービー、ブッシュ大統領の演説の映像とラブソングを合成したムービーも放映しました。いずれも、斬新で風刺的であり、これまでとは異なるコンテンツの新たな魅力を引き出していました。或いは、あまり代わり映えのしないメジャーの作品郡よりも、余程エキサイティングであるように私には思えました。
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このようなremix文化の発達は、インターネットに代表されるIT技術の進化によって実現されました。これに対して、著作権の強化は(リミックスのソースとなる)情報の自由な利用を規制し、remix文化を規制する働きを持つと言います。
しかしながらレッシグ氏は、自身は著作権不要論を唱えてはいないこと、そしてバランスが重要であることを強調します。
技術革新による表現の自由化―remixと、著作権による規制の、両者が共にエスカレートすることで不幸な「copyright wars」が生み出されました。著作権が今後が極めて重要な存在であることは間違いないでしょう。しかし、常に「オールライトリザーブ」である必要はなく、必要な権利以外は自由にしても良かったのではないか。そうすれば、違法行為は行われなかったのではないかと問い掛けたのです。
クリエイティブ・コモンズは、このような理念を実現し、極論に対するアンチテーゼとしての運動を行うため、2001年に設立されました。そしてこの流れの中で、iSummitも生まれることになったと言います。
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レッシグ氏は最後に、技術が花開くためには、アーティスト、クリエイター、ライター、学者、保護者等が一団となって、運動して行くことが必要であると述べました。誰もがクリエイターとなり得る今日、この運動に私達も、誰しもが、決して無縁ではないことを強く実感しました。
[伊藤穣一氏]
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伊藤氏は、レッシグ氏のスピーチを受ける形で、クリエイティブ・コモンズが具体的に果たす役割について述べました。
伊藤氏は、テクノロジーの発達によるイノベーションの実現を強調します。また、そこではライセンスの法的・技術的互換性とそのための標準化が欠かせないことを述べました。
まず伊藤氏は、テクノロジーの発達によりコンテンツを発信するためのコストが減少したといいます。従来のコンテンツ産業は出版産業と近い意義を持っており、多大な製作コスト・流通コストのためにクリエーションには企業が重要な役割を果たしていました。しかし、テクノロジーの発達によって製作コスト・流通コストが軽減されることにより、クリエーターと消費者が直接繋がることができます。ワンクリックで世界と繋がるグーグルは、その良い例であるといいます。
また、プロではないアマチュアのなし得る可能性についても言及しました。リナックスに参加しているプログラマーは、マイクロソフトに就職できないからではなく、マイクロソフトが嫌いだからでもなく、リナックスに対する愛を動機として参加しているのだといいます。企業中止の国家はアマチュア・イノベーションの価値を過小評価しますが、プロよりもアマチュアの方が面白いことを実現できるのではと述べました。
このようなテクノロジー、特にネットワークの発達により、世界中がクリエイティブな面で繋がると思われましたが、次の問題、すなわち著作権の壁にぶつかったと言います。レッシグ氏の言うようにリミックスは今日クリエーションの手段としては容易になりましたが、技術的・法的エネルギーが必要となるのです。
例えば、オープンソースやコンテンツは魅力的な手段ではありますが、相互接続が困難であることが問題であると述べました。この点について、伊藤氏はCCLearnという複数の教育機関で教材をオープンにするプロジェクトを挙げます。この試みでは、各教育機関で弁護士が各々ライセンスを作成しているため、いくつかの教材を用いようとした場合にライセンスの法的・技術的互換性ができない場合があり、又はトランザクションコストが過大になる場合があります。ここにオープンソースの弱点があるといいます。
そこで必要とされるのはライセンスの標準化です。クリエイティブコモンズは、非営利/営利利用、著作者の明記等、選ばれた数種のアイコンのみによるシンプルなルールが、47カ国の言語でライセンスとして用いられます。伊藤氏はクリエイティブコモンズは、技術的・法的な標準化のための手段であると考えるべきであるといいます。また、オープンソースとクリエイティブ・コモンズの差異について、ほとんどが重なっているものの、クリエイティブ・コモンズの方が少し夢が大きい、と述べました。
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伊藤氏は最後に、アーティストだけではなく多くの人々がこのイノベーションに参加できること、是非このイノベーションに参加して欲しいということを述べ、スピーチを締めくくりました。(永井幸輔)