教育モデルの拡張と変革

2日目14時より行われた教育セッション「教育モデルの拡張と変革」では、現在のテクノロジーで教育教材をどのように使いやすくするか、どのように効果を上げるか、将来はどうあるべきか話し合われました。


まず最初に、司会の坪田知己(日本経済新聞社)氏から「著作権と教育」というテーマでプレゼンテーションが行われました。坪田氏は、著作権はゼロサム、囲い込み型のビジネスの論理で考えられているが、教育はプラスサム、共有・オープン型であり、教育をビジネスの文脈に置くべきではないと指摘しました。その上で、創造的な教育によって潜在資源を大きく開花させる必要があり、人々がそのための新しい知恵を出しあって、プラスサム型の社会へ移行できなければ、次の世紀は来ないのではないか、と警鐘を鳴らします。

慶応義塾大学教授の福原美三氏からは、慶應義塾オープンコースウェア(OCW)を始めとする、国内大学の OCW への取り組みについてご紹介いただきました。OCW とは、大学で正規に提供された講義情報を、インターネットを通じて無償公開することを指し、具体的な公開情報として、シラバス、カレンダー、講義ノートなどが定義されています。MIT では全ての講義を公開するなどしており、日本でも日本オープンコースウェア・コンソーシアム(JOCW)が2005年に設立され、CCJP も准会員として参加しています。慶応義塾大学では2008年4月の時点で1000科目以上を公開しており、映像配信や Podcasting も開始しているそうです。

NTT の仲西正氏からは、ClipLife を利用した JOCW ポータルサイトの構築・運用についてご説明いただきました。API により投稿、メタデータ設定、検索機能等が提供され、JOCW に加盟する各大学が、自前の設備を持たずに動画投稿機能を使えるようになり、各教員が自分の都合のよい時にアップロードできるようになったということです。今後は映像シーンのコメント付きでの共有を考えており、既に名古屋大学の模擬法廷など、実証試験を実施しているとのことです。

FTEXT の吉江校一氏には、集合知的活動を取り入れた教育の実践について語っていただきました。FTEXT では3つの活動を柱に据えており、まず1つは、高校数学の教科書を自主的に制作することです。そこには中・高・大学の先生や塾講師、プログラマーなどが参加し、制作したテキストを英語化する際には、現役高校生も加わったそうです。2つめは、演習問題の DB 化です。TEX で入力した問題データを、サーバー上で組版して出力するということです。3つめは、センター試験当日、全国の関係者から1人当たり30分だけ時間をもらい、皆で解答を執筆することです。これらの成果物は CCライセンス下 で公表されており、将来的には世界の知恵が集まるテキストにしたいということでした。
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最後に、各人の将来のゴールや著作権に関して解決すべき問題を話し合いました。福原氏は100大学が100コースを公開すれば、社会的な高等教育のインフラストラクチャーになると期待を示し、仲西氏は、ライセンスを厳格に当てはめようとすると、無理が生じることがあり得ると指摘しました。吉江氏は、掛け合いの中でテキストができるというのは、ネットでなければできないつくり方だとして、その可能性を提示しました。