インターネット権利章典

インターネットの利用者の権利として保証・保護されるべきものにはどのようなものがあるでしょうか? 保護の仕組み、取り組みはどうあるべきでしょうか? そうした問題意識を中心に、国連のインターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)などを舞台に議論されてきたインターネット権利章典(Internet Bill of Rights)についてのセッションが2時間半にわたって行われました。


プライバシー保護や通信の秘密の保護、検閲からの自由といった問題は、インターネットと密接に関わって展開しています。このセッションの参加者の中にはそうした権利の保護について考える活動家や批評家と思しき人が多く見られました。

権利についての意識を高めるキャンペーンを展開し、広い層を巻き込んで合意を形成して共同声明のような形で発表し、あるいは権利侵害に抗議し、権利保護のために様々な取り組みをおこなうことなどが、こうした参加者にとって考えられる展開でしょう。ですが、インターネットの権利章典が具体的にどの権利とどの権利を推進するものであるべきなのかは、今のところはっきりと定まっていません。いわば名前が先行して興味を持った人が集まったものの多様な国の多様な現状に対応する権利宣言のような形でまとめあげることはできない段階にあり、今後の戦略や方向性について議論するというセッションでした。

アイサミットはクリエイティブ・コモンズに限らず、コモンズ(共有地、共有資源、またそれをとりまく集団)を様々な角度から扱うものですが、インターネット権利章典をめぐる議論はそうしたアイサミットのテーマ設定からするとやや異色な感もあります。休憩時間中に、居合わせた人たちに尋ねてみると、なるほどと思わせる答えがいくつか返ってきました。このサミットにはインターネットの未来を考えている人々が多く集まっているから参考になる。興味を持ってくれそうな人もいる。自分は著作権分野での取り組みとしてクリエイティブコモンズにも関わっていて、その他の領域の取り組みとしてインターネット権利章典に興味を持っている、などなど。また、最後の30分は、クリエイティブ・コモンズの世界展開から学べるところがあるか、という観点から活発な意見交換が行われました。

クリエイティブ・コモンズが、アメリカに始まり、数年の間に世界47カ国でライセンスが提供されるに至ったという点や、数百万といった規模の数の作品にクリエイティブ・コモンズのライセンス付与されていることは、数字だけをとって考えれば、大きな成功のように見えるでしょう。実際に、プライバシー分野でクリエイティブ・コモンズのようなわかりやすいアイコンを組み合わせた仕組みを普及させようという案も出ていました。ですが、セッションはクリエイティブコモンズの経験者が、権利章典に取り組む人々にアドバイスをするとか、ヒントを与えるといった方向には必ずしも展開しませんでした。クリエイティブ・コモンズは組織の拡大と共に運営上の問題にも直面するようになっています。また、権利章典ほど目的が曖昧ではないにせよ、非常に重大な問題について当初は方針が決まっていなかった部分もありました。ICANNやIETF、国連など国際的なガバナンスの取り組みを意識しつつクリエイティブコモンズの今後はどうあるべきかを考えるといった取り組みは、クリエイティブコモンズの内部向けセッションでも、このインターネット権利章典でも見られました。インターネットは多くの国の人々を結び合わせる機会は提供したものの、それをどう活用し、グローバルなプロジェクトをどう展開していくかが共通の課題になっていることを感じさせるセッションでした。

グローバルに通用する、保護されるべき権利のリストの決定版をつくることは到底無理だろうということは多くの人が感じていました。発表者の一人は、権利章典は議論のプロセスとして捉えられるべきだ、とも述べていました。セッションの終わりには、IETFのように多様な問題について草案を提供し、コンセンサスが得られるまで改訂を繰り返し、多くの支持が得られたものを公式に採択される宣言に昇格していくという方式を評価し、全体を完成させるよりも取り組めるところから手をつけていくという形での展開がよさそうだという見解が何人かの発表者、参加者の共通点として浮かび上がりました。

クリエイティブ・コモンズの支持者でもあり、インターネット権利章典の取り組みの支持者でもある、ブラジルの前文化大臣、ジルベルト・ジルから特にこのセッションに向けてメッセージが寄せられた点も興味深いところでした。IGFは2007年にリオ・デ・ジャネイロで会合を開いていますが、iSummitは2006年に同じリオで開催されています。

執筆:渡辺