マジックとは常に錯覚を作り出し、その仕掛けを明らかにしないものです。もし種明かしされたなら、私たちは驚きを全く感じなくなります。マジックの種はミステリーを守るものなのです。書籍『Magic:A picture History』の中で、ミルバーン・クリストファーはこう語りました。「ミステリーはマジックの基本的な魅力。一度種明かしされた途端、マジシャンは少しインパクトのあるサスペンスドラマの俳優のように、ただの操縦者になってしまう。観客は先にエンディングを知ってしまっているからね。」
偉大なるマジシャン達は、私たちの心理は怠惰で、脳はパターン照合機械であり、そして大きな動きは小さな動きを覆ってしまうということをよく知っています。
しかし、今日のテクノロジー発展により、人々は以前よりも簡単にマジックの種を知ることができるようになりました。マジシャンのパフォーマンスを録画し、映像を巻き戻してコマ送り再生する、そして確実にマジックの秘密を発見できてしまうのです。YouTubeにアップされているマジシャンに対し、「マジックの種が分かった」という内容のコメントはいくつも見受けられます。
では今後、テクノロジーの発展と共に、どのようにマジックは展開し革新するのでしょうか?
スイス出身ニューヨーク在住のマジシャン、マルコ・テンペストはしばしば自身の作品を「オープン・ソース・マジック」という言葉で表します。彼はマジックの種を明かし、オンライン上で観客とコミュニケーションをとり協力しながら、コミュニティーで作品を共有しているのです。
Marco Tempest: Augmented reality, techno-magic
http://video.ted.com/assets/player/swf/EmbedPlayer.swf
テンペストはガジェットやソフトフェアを愛するテクノマジシャンであり、その作品には従来の見慣れた小道具と同じように 、拡張現実、ロボット工学にソフトフェア、スクリーンといったものが使われます。彼の動きは “持続したマジック” と表され、Wired紙は “種がバレる瞬間ではなく、的確なカードが出された時に、途切れる事の無い魅力的な体験が生まれる” と述べています。このようなテンペストの新手法は、現実と非現実の境界線をまたいでいるのです。例えば、Wired紙は次のようにも著しています。“彼がマジックに使う映写トリックでは、ボールが現実とバーチャル世界を行き来する。そうと明示されないが、従来のマジックは彼のショーにも組み込まれているのだ。” “観客がそれほど確信を持てない時とは、目の前のことが‘現実か、それともコンピュータによって作られているのか’が分からない時である。彼のマジックではこの感覚が見事に観客に作用を及ぼし、成功を納めている。”
そして、テンペストはマジックについて全く何も隠さないのです。ある手品シリーズではたった1つのカメラ付き携帯のみ用いて、(このマジックは一切の映像編集、撮影後の編集なし)、その後のフォローアップ・ビテオの中で種明かしをしています。これだけでも驚きですが、まだ話は終わりません。
テンペストはソーシャル・メディア・チャンネルを利用し、観客と接点を持つことでフィードバックを得ているのです。ここで出されたアイディアを作品に取り入れた場合は、観客の名前を作品クレジットに載せます。
さらにマジックの種明かしだけでなく、パフォーマンスを作り出すテクノロジーをもシェアするのです。「科学の世界と同じように、私たちが知識と研究を共有すればマジックはより速く前進する。そしてそれは全員がマジックを向上させる大きな役割を果たしているということ」とテンペストは話します。iPhoneを使ったマジックを制作するにあたり、彼はオープン・ソース・コミュニティー上で人々と協力し、MultiVidと呼ばれる2つ以上のスクリーン間の映像を同期するソフトウェアを作りました。さらに他のアーティストのため、このソフトウェアをアップルストアから無料でダウンロードできるようにしたのです。
マルコ・テンペストのモットーは、対話型・包括的・オープン・そして協力的なマジックの公開です。観客と接点を持ち、マジックに参加させたいと考える彼は言います「マジックとは観客とリレーションシップを築くこと。だから僕のアプローチはパーフェクトだ」と。
- マルコ・テンペストHP: http://www.marcotempest.com/
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