イベント報告

内閣官房TPP政府対策本部にTPP交渉に関する意見を提出しました

クリエイティブ・コモンズ・ジャパンは、本日、内閣官房TPP政府対策本部の行っている意見募集に対して、以下のとおり意見を提出しましたので、ご報告いたします。

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クリエイティブ・コモンズ・ジャパンは、ThinkTPPIPの一構成メンバーとしてすでに意見を提出しているところであるが(http://thinktppip.jp/?p=196)、その内容に重複しない部分について、以下、知的財産についての意見を提出する。

著作権保護期間の延長については、2005年から2009年まで文化審議会著作権分科会で検討され、賛成反対双方の意見の隔たりが大きいとして見送られたものである。米国や欧州などがすでに延長しているのは事実であるが、実際にこれらの延長した国において、著作権保護期間の延長によって創作が増えた事実は認められておらず、逆に、孤児著作物の増加等の問題が表面化している。現実に、欧州は2012年に孤児著作物のためのディレクティブを採用するにいたっており、米国でも2013年3月に著作権局長が未登録著作物(つまり権利者が不明となりやすい著作物)については保護期間を死後50年に短縮すべきであるとの提言を行うなどの動きが認められる。日本においても、著作権保護期間の延長は、全体として文化の発展を促すよりは、著作物の流通を阻害する負の要因を増やす側面が強いと考えられるため、反対する。

また、著作権の法定賠償金の導入や特許権の3倍賠償導入など、知的財産権侵害に対する損害賠償額の高額化についての提案もなされていると報道されているが、実損害を超える高額の損害賠償金が認められる法的制度を導入することは、従来の民法における不法行為の理念と整合性がとれないばかりか、パテント・トロールやコピーライト・トロールなどの、損害賠償金の獲得を目当てに知的財産を買い集めて権利行使をビジネス化する動きを招き、知的財産制度全体の不健全化や事業会社・クリエイターへの不要な経済負担の増加を招く危険性が高いため、反対する。現実に、米国の特許訴訟の実に6割がパテント・トロールによるものと報道されており、これらのパテント・トロールによる知的財産訴訟の活発化が、米国で活動する多くの事業会社に不要な訴訟コストを強い、経済に負の効果を与えると報告されていることはご案内のとおりである。また、損害賠償額の高額化を行ったドイツでも、その法律改正後にパテント・トロールが急増した事実がある。投資(つまりは知的財産購入コストと訴訟提起コスト)に比べてリターン(損害賠償額やそれを前提とする和解金)が大きければ、その制度を利用してビジネスを行う主体が登場することは資本経済の仕組みからみて不可避であるから、このように、知的財産訴訟が投資目的として成立するような法制度を導入することそのものを避けるべきである。一般に、損害賠償額の高額化は発明や創作のインセンティヴを増やし、ひいては発明や著作物の創作の活発化を促す、という単純な理解のもとに損害賠償額の高額化が議論される傾向があるが、日本政府におかれては、損害賠償額の高額化が事業会社やクリエイターにもたらす負の側面についても十分に考慮していただくことを強く要望する。

著作権侵害の非親告罪化については、現政権が閣議決定した知的財産ビジョン(平成25年6月7日)においても、クールジャパンに代表されるコンテンツを中心としたソフトパワーの強化が謳われているが、マンガ・アニメなどのクールジャパンは、広く黙認されている二次創作活動や同人活動等にその裾野を支えられ、全体としてエコシステムを形成しているのはご案内のとおりである。著作権侵害の非親告罪化により、権利者が望まない刑事事件化が行われるようになれば、これらの二次創作活動や同人活動が萎縮し、クールジャパンを支えるクリエイター層に大きなダメージを与えることは不可避である。非親告罪化は、審議会で2007年に検討され、著作権者等が黙認している場合の著作権者等の利益との関係からも慎重に考えるべき、として見送られているとおり、日本の現在の文化を支える上では不要であるどころか、有害である可能性が高いため、反対する。

以上

(報告)シンポジウム“日本はTPPをどう交渉すべきか 〜「死後70年」「非親告罪化」は文化を豊かに、経済を強靭にするのか?”が開催されました

TPPの知的財産権協議の透明化を考えるフォーラムの公開セミナー“日本はTPPをどう交渉すべきか 〜「死後70年」「非親告罪化」は文化を豊かに、経済を強靭にするのか?”が、6月29日、開かれた。

司会のメディアアクティビスト・津田大介氏のほか、赤松健氏(漫画家、Jコミ代表取締役)、太下義之氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員/芸術・文化政策センター長)、富田倫生氏(青空文庫呼びかけ人)、野口祐子氏(弁護士、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン)、八田真行氏(駿河台大学経済経営学部専任講師)、福井健策氏(弁護士、日本大学芸術学部客員教授)が登壇。会場は、ほぼ満員となり、ニコニコ動画でも生放送された。

著作権保護延長問題では、日本の現行の「死後50年」から、米国の「死後70年」への延長について、意見が交わされた。福井氏によると、世界最大のコンテンツ輸出国であるアメリカは、2011年のデータで9.6兆円の著作権使用料を稼ぎ出している。対して、日本は年間5800億円の赤字を出している。この違いは、日本が米国のように古いコンテンツ(ミッキーマウスなど)で著作権使用料の収入を得られていないためで、保護延長を繰り返せば、日本の赤字は固定化されるという。

八田氏は、保護期間が延長された場合、日本にとって経済的利益が得られる論拠が少ないことを、田中辰雄・林紘一郎両氏の「著作権保護期間」をはじめとする先行研究をあげながら指摘。また、MIAU(インターネットユーザー協会)も参加している、保護期間延長を含む、TPPによるより拘束的な著作権法への改正に反対するキャンペーンOur Fair Dealを紹介した。

富田氏は、保護期間が20年延長されると、パブリック・ドメイン入りにする日本の作家の作品が激減することに強い危機感を示した。保護期間が切れた作家の作品を青空文庫で公開することにより、タブレットや、視覚障害者のための音声変換機能等を通じて多くの人が作品にアクセスする機会を得られるとし、延長は文化を利用する機会を損なうと指摘した。

野口氏は、データを参照しながら議論をする必要性について述べた。ベルヌ条約以前の米国で実施されていた保護期間56年間の登録制の著作権制度(当初登録で28年、その後更新登録することにより28年延長されて合計56年になる)について紹介し、この制度が運用されてから50年経過した段階での登録更新率の低さ(最高でも14.7%)を指摘。ごく一部の大ヒット作品等を除き、大半の作品が公開から28年の保護期間で満足しており長期の著作権保護を必要としていないとした。

太下氏は、著作権者が不明となっており、利活用できないでいる孤児作品(Orphan Works)が、保護期間の延長により激増する懸念があると指摘。このような孤児作品を死蔵させないため、孤児作品を自由に公開・活用できるOrphan Works Museumの設立を提案した。実際、国会図書館の所蔵作品の7割が著作権者不明であるという。

今年3月には、米のマリア・パランテ著作権局長が未登録作品の著作権保護期間を著者の死後50年に短縮する案(米国は1998年に著作権保護期間を死後50年から死後70年に延長したが、これを一部元に戻す提案)を出している。これは、コンテンツのデジタル化その他の利用をする上で孤児作品の権利処理に米国も頭を悩ませているからと考えられる。福井氏は、日本としては交渉の際に、孤児作品について死後50年を超える独占権を与えない、TPP加盟国で孤児作品として認定された作品についてはTPP域内で相互承認して作品を自由に利用可能にする、などの提案をしてみてはどうかという。

非親告罪化については、コミケ等での二次創作を阻害する可能性が議論された。赤松氏は、日本のコンテンツを面白く保ち、クール・ジャパンを推進するためにも、アマチュアの二次創作のすそ野を広くしておくことが重要だとした。その上で、二次創作を阻害しないため、コミケ開催当日のみ二次創作を黙認する意思表示システムマーク案を提案した。

韓国は米韓FTAの際、フェアユースを交渉の過程で導入することに成功しているが、これは国民の声が盛り上がった結果だったという。福井氏は、今回の日本のTPP知財交渉でも、国民の関心が高まれば政府側としても積極的に交渉しやすいはずだとした。内閣官房は7月17日までメールでの意見の受け付けもしている。詳しくはhttp://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo.htmlを参照のうえ、多くの意見を送ってくださるよう呼びかけが行われた。

2013年3月27日、文化庁シンポジウムでCCライセンスについて語りました

2013年3月27日に開催された文化庁の第8回コンテンツ流通促進シンポジウム『著作物の公開利用ルールの未来』において、文化庁が2007年から検討を開始していた、文化庁独自の意思表示システム(ライセンスシステム)であるCLIPシステムの公開を中止し、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)の普及を支援することを表明しました。これは、2011年度に行われた「意思表示システムの在り方に関する調査研究」の結果を受けたものです。その理由としては、調査研究の報告書に記載されているとおり、(1)検討を始めた2007年頃と比較して、2012年時点で世界中で爆発的にCCライセンスの普及が進んだこと、(2)CLIPシステムの主な利用者として想定していた教育機関や公的機関においてもCCライセンスの採用が世界的に進んでいること、(3)完全ではないものの代替可能な優れた仕組みが普及したことで、必ずしも行政機関が自ら意思表示システムを構築することが不可欠とはいえない状況になったこと、などが挙げられています。

文化庁著作権課の山中弘美 著作物流通推進室長は、シンポジウム上で、「今後は、CCライセンスなどの民間の意思表示システム、パブリックライセンスの仕組みとの連携・協力を視野に入れ、引き続き検討を行っていく。」と述べ、今後は、政府や地方自治体などの公的セクターでのCCライセンスの採用や、民間における普及推進などの形で支援するとコメントしてくださいました。

このシンポジウムでは、CCライセンスの基本的な考え方から、世界における最先端事例まで、CCの現在を報告してほしい、とのことで、40分ほどいただいて、CCJPの常務理事の野口祐子が活動報告をさせていただきました。
そのときの発表資料はこちらです(Creative Commons Now 20130327(PDF), Creative Commons Now PPT 20130327(PPT))。

当日のシンポジウムの様子は、ニコニコ生放送の文部科学省チャンネルシンポジウムページでご覧になれます。後日YouTubeにもUPされるとのことでした。

今からちょうど10年少し前にCCの活動が米国で始まり、日本でも多くのボランティアの方々や寄付を下さった多くの方々の熱意や善意に支えられて、CCJPは地道に活動をしてきましたが、こんな風に文化庁が後押ししてくださるときが来るとは思っていませんでした。最初の頃から関与してきた私としては、とても感慨深く思います。これはまさに、この日までいろんな形で活動を支えてくださったCCJPの仲間や支援者の皆様のおかげです。心から、本当に、どうもありがとうございます!

今年は、まさに、日本政府の持っている情報やデータの公開にCCライセンスが採用されるか?という局面でもCCライセンスが議論される年になると思います。このシンポジウムでの文化庁の意見表明が、日本政府のCCライセンスやCC0という著作権放棄宣言の採用の動きを後押ししてくれるといいなぁと思っています。

これからも、CCJPはがんばって活動を続けていきます。引き続き、応援をよろしくお願いいたします!

(文責:野口)

11月1日実施の「出版社の新しい隣接権を考えるシンポジウム」の議事内容ご報告

2012年11月1日にクリエイティブ・コモンズ・ジャパンが主催しインターネット・ユーザー協会(MIAU)が後援して行われた出版社の新しい著作隣接権を考えるシンポジウムでは、100名近い参加者が集まり、予定時間を30分超過して、熱心な議論が展開されました。

このシンポジウムの資料についてはご登壇者のみなさまの承諾を得て既に公開いたしましたが、以下に議事内容についてご報告します。

1.  桶田大介先生のご発表

冒頭、桶田大介先生より発表を頂きました。

経緯として、2010年、当時文部科学省副大臣であった中川正春議員など、政務レベルの主導により、総務省・文部科学省・経済産業省の三省による「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」(三省デジ懇)において、出版者への権利付与を含めた諸問題について議論がされた。三省デジ懇の報告書が取りまとめられた同年6月以降、検討はその機能に応じて三省それぞれに引き継がれた。その中で「出版者への権利付与」については、「図書館・公共サービス」及び「権利処理の円滑化」という他2テーマと共に、文化庁における「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」に引き継がれ、その報告書は2012年1月に公開された。しかし、結果として「図書館・公共サービス」については本年の著作権法改正等、一定の成果があったものの、権利処理の円滑化及び出版者への権利付与については、結論を得るに至らなかった。
そこで、2012年2月、三省デジ懇から始まる一連の過程において中心的役割を果たされた中川正春議員を中心とする6名の超党派の議員らにより、専ら権利処理の円滑化と出版者への権利付与について取り組む勉強会として、「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」(中川勉強会)が発足された。

その後の検討により、この問題については先ず出版者への権利付与を先行して対処すべきこととなり、2012年6月の中間まとめでは、著作隣接権として、出版者に対する権利付与を行うべきとの提言がまとめられた。この中間まとめを受け、議員主導の下、提言に基づく法案化作業が進められた。その結果、10月10日付けで法案の骨子案がとりまとめられたが、未だ公開の許可が出ていないので本日は配布できない。内容的には9月4日付の「『出版物に係る権利 (仮称) 』の法制化について」に記載のものとほとんど同一なので、本日はこの資料に基づいて説明する。法形式としては著作権法の一部改正を前提に検討している。

法案の基本的な考え方については、「出版物等原版」という定義を作り(原稿その他の現品又はこれに相当する物若しくは電磁的記録を文書若しくは図画又はこれらに相当する電磁的記録として出版するために必要な形態に編集したもの)、これを作成した者が「出版物等原版作成者」として当該出版物等原版について権利を持つ、というものである。中川勉強会発足の趣旨もあり、当初から電子形態である、いわゆる「ボーン・デジタル(Born Digital)」の出版物も含むことを前提に議論されている。著作隣接権の具体的要素としては、複製権、送信可能化権、譲渡権及び貸与権の4つが資料にあげられており、このうち複製権と送信可能化権は権利の本質であり変更の予定がないが、譲渡権と貸与権については有体物に限定して検討されており、更に貸与権については商業用出版物に限ることが想定されている。また、保護期間は全く未定であり、現在は諸外国の類似制度を参考に25年、または他の著作隣接権と同様に50年という検討がされているが、未だ結論は出ていない。なお、権利の創設については不遡及なので、権利が創設される前に作成された出版物について権利は生じない。この著作隣接権については、出版された版に生じるものなので、原則として他の出版者から同じ内容を出版したり、著作権者自らが出版することを妨げるものではない。権利の範囲を画する「出版するために必要な形態に編集したもの」の意味については、正直、まだまだ検討が十分ではないので、今後、詰めた議論が必要だと考えている。

今後の見通しとしては、中間まとめ案6ページ「6 権利設定と同時に必要な出版界のルール確立」に記載のとおり、出版者への著作隣接権付与にあたっては、そのきちんとした運用が担保されなければならず、そのため、運用についてより広い利害関係人との協議の場を「ガイドライン策定委員会(仮称)」などとして設定する必要があり、経団連、JEITA、印刷・流通に携わる方たちや、多様な出版者の方たちとの意見の取りまとめに向けた協議開始を11月中にできるかどうかについて、現在まさに詰めているところである。このガイドライン策定委員会が動き出せば、もう一段検討が進むだろう。そこでなんらかの意見の取りまとめがされなければ、突然、法案が提出されることはないと認識している。また、運用の確保のためには、紛争処理の仕組みが必要と考えている。これらについて、一定の目途がたたなければ、そもそも著作隣接権を付与する法案を国会に提出すべきではない、というのが、第5回勉強会で議論された中川勉強会としての意向であると認識している。

2.クリエイティブ・コモンズ・ジャパンより問題提起

次に、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの水野祐より、論点整理もかねた問題提起がなされました。

〔法改正の目的・有効性に関する問題点〕
・ 海賊版対策が必要だとして、日本国内のみの立法でどこまで有効性があるのか?隣接権付与という法改正が目的達成の方法として妥当か?
・ 隣接権付与によって、電子出版も含めた出版物の流通促進につながるのか?逆に、権利が増えることによって流通が阻害されるのではないか?

〔隣接権付与により作品が流通するか、について〕
・ 隣接権ができることにより、出版慣行が改善され、契約締結が促進されるようになるというが、本当か?
・ 隣接権が増えて権利が複雑化することにより、さらに契約締結による権利処理が難しくなり、今よりも流通が滞るのではないか?
・ 権利が増えることにより、新規参入者が市場に参入しにくくなり、市場が萎縮するのではないか?
・ 死蔵作品が増えるのではないか?
・ 特に、権利の主体、客体などが広い場合や不明確な場合には、流通阻害の問題が深刻となる。

〔隣接権が著者の権利を干渉しないか?について〕
・ 著者による作品の利用の妨げになるのではないか?著作権者が許諾しても出版社が許諾しない場合は利用できないことにならないか?
・ 別の出版社に乗り換えることは、簡単に可能なのか?
・ 別の出版社が別の版面を用いて出版する、といっても、その際に最初の出版の版面を利用せざるを得ない場合には、別の出版社が別の版面を用いて出版することは事実上不可能となってしまうのではないか。たとえば、著者が、最終原稿のデータを手元に持っていない場合は、最初の出版の版面を利用するほかは無く、これが最初の出版社の許諾なくできないことになれば、結局「塩漬け」問題が生じるのではないか?

〔隣接権がの定義、範囲が広すぎるのではないか?について〕
・ 出版社・編集プロダクション・印刷業者・著者の業務が多様に分化しているなかで、現在の定義では、出版社だけが権利者とはならないのではないか?
・ 権利の範囲はどこまで及ぶのか?(ボーン・デジタルまで含むとなると、ブログ・掲示板・ウェブサイトもすべて入ってしまうのではないか?どう限定するか?)
・ 書籍・漫画以外のおよそ出版物全般(パンフレットやチラシ等)に権利が及ぶ可能性はないか?
・ 隣接権の定義範囲によっては、一部の大きな出版社以外の小さな出版社にとっては、かえって権利処理の負担が増えてしまうのではないか?

〔その他の論点〕
・ 権利集中管理機構の設立により円滑な権利処理を実現するとのことだが、実現するのか?実際に円滑な権利処理が可能か?
・ 隣接権を付与するとして保護期間をどうするか?
・ 出版社隣接権を付与した場合、出版権を法改正により削除する必要はないか?

〔隣接権以外の代替案とその有効性〕
・ なぜ、より影響の少ない、より制限的な他の手段では達成できないのか?について、より検討が必要ではないか。
・ 著作権の譲渡契約や信託譲渡などを、著者に負担のないように、範囲を限定したり工夫したりして行うのはどうか?(契約による代替案)具体的には、送信可能化権についてのみ譲渡する、期限付きで譲渡する、解約権つきで譲渡する、などの案も考えられる。
・ 独占的ライセンシーに差止請求権を認める方向や、出版権制度を電子に対応した形で整備する、という方向性はどうか?(法改正による代替案)

3. パネリストからのコメント

続いて、パネリストから、それぞれコメントがありました。

[理事長 中山信弘のコメント]

立法にあたっては、一定の手順が必要である。まず、立法の内容の確定が第一である。今回は海賊版対策が主目的ということで、それ自体に反対する人はほとんどいないであろう。この立法内容が正当な場合、第二に、実現手段の選択肢の探求が必要となる。これについては、今回、4つか5つの選択肢がある。その各選択肢一つ一つについて、妥当性を検証し、最良の方法を選ぶ必要がある。その上で、著作権法全体の体系、およびわが国の私法体系全体からの検討が必要である。また、結果として、著作物の利用が促進されて文化の発展に資するか、という検証も必要である。

隣接権については、レコード製作者にはすでに隣接権があるので、それとの平仄という観点からは出版者に隣接権を認めてもおかしくないのではないか、という意見もあろうかと思うが、レコード製作者の隣接権を規定した頃は、デジタル技術は実用化されていなかった。デジタル時代において新しい権利を認めるということがどういう意味を持つのか、という再検討が必要になってくる。

現在の著作権制度は、まるで中世の土地制度(ひとつの土地の上に、大勢が重畳的に権利を持っている制度)のようである。中世の土地制度のままでは流通が進まない。それを、一物一権主義(ひとつの物の上にひとつの権利)という近代法の大原則に改めたため、現在の社会が出来上がったのである。つまり、一物一権主義にしなければ流通に多大な障害が生じる。したがって、著作権についても、できるだけ一物一権主義に近いほうが理想的なのではないか。

仮に出版社に権利を認めると、当然ながら、印刷業者、文字フォント業者、インターネット・プロバイダーからも、権利を認めて欲しいという要求が出てきて、ますます中世的な様相を示してくる。実際にも、20年ほど前の第8小委員会のときも、印刷業界は自分たちの権利を主張していた。

また、仮に隣接権を与えても国内にしか意味が無い。これに対して、国内発の違法アップロードがあるから有効だという話があったが、それならば、現行法でも対応できるはずである。つまり、従来から著者は著作権を持っているので、著者の名において、出版社の計算で訴訟を提起するなどすれば、簡単に対処できるはずである。なぜ今の法律で対処できていないのか。今まで対処できていないことが、隣接権を与えれば急に取り締まることができるようになる、という主張には疑問を感じる。

現代社会においては、契約が中心となると考えており、当然に権利が発生する、というのは、他に方法が一切無い場合に限られるべきである。一般論として、新しい権利の創設は必要最小限にとどめるべきである。仮に権利を創設すると、将来廃止することは不可能に近いほど難しいだろうと思う。手続き的規定なら改正は比較的簡単だが、実体的な権利を与えてから、それをなくすということは、革命でも起きない限り、今までの知的財産権の歴史の中ではほとんど無かったのではないか。一度権利を作ったら取り返すことはできないという前提で考えると、新しい権利の創設は最終手段であるべき。

現在の国際的な競争時代には、自己責任における自助努力がもっとも必要であり、契約や信託がうまくできないから立法に頼るというのは、よほどの市場の失敗が無い限り、すべきではないと考えている。出版社が生き残るためには、まずは自助努力が必要であると思う。

[三村量一先生のコメント]

私自身は、元裁判官という立場からの見解を期待されていると思う。漫画の分野では、私は、ポパイ事件を最高裁調査官として担当し、東京地裁裁判官の時にはキャンディ・キャンデイ事件の第1審事件を担当している。

現在、著作隣接権は①実演家、②レコード制作者、③放送事業者、④有線放送事業者に認められているが、この中で実演家については準創作的関与があると言い得るが、そのほかの権利者については、端的に言えば投下資本の回収であり、著作隣接権といっても、実演家と他の権利者とでは少し毛色が違うという印象を持っている。

中川勉強会では、出版物に係る権利を著作隣接権として構成することのメリットとして、出版者が自ら海賊版に対する法的手続をとることができる、という点が挙げられているが、本当にそれによって海賊版対策が実現できるのか、本当にそれが必要なのか、という疑問については、私も同感である。また、自由な競争が促進されるとのことだが、論点の説明を見ると、出版権の拡張という法的構成をとることに比べれば著作物の利用を阻害する度合が少ない、という趣旨にすぎない。すなわち、出版権と隣接権のどちらの法的構成をとるのかという局面では隣接権のほうが比較的ましである、というだけことであり、「隣接権によって競争が促進される」というのは誤導的な書き方だと思う。

私の知る範囲では、著作権者と出版者の関係においては、著作物作成の過程において編集者の寄与が大きいというのは実際そのとおりであり、特に漫画の分野の場合はそのような傾向は顕著だろうと思っている。しかし、アニメ化・映画化という話になると、必ずといってよいほど出版社が権利者として入ってくる。たとえば、ドラえもんでも、アニメになると、©に小学館が入ってくる。これは、一部出資をしているということだろうが、二次利用の局面では必ず出版社が関与するという事実上の権利システムが既に構築されているということである。著作物の題名・キャラクターについての商標登録がされていて、これを出版社が有していることがあり、商標権をめぐって出版社と漫画家の間で紛争となっている事例が実際にあることも知っている。このように、著作権者と出版社は、お互いに助け合ったり、場合によっては利害が対立したりする関係である。

出版社による著作権の管理の実態としては、裁判例に表れた事案では、「罪に濡れたふたり」事件(いわゆる「2ちゃんねる事件」)や「やわらかい生活」事件(いわゆる「脚本事件」)があるが、2ちゃんねる事件では、週刊誌の編集長と名乗る者から抗議行動があった。また、「やわらかい生活」事件では、判決の認定によれば、文芸春秋社が完璧といえるほどの著作権管理を行っており、代理人として権利行使も実際に行っている。したがって、実際にも、既に出版社が権利行使に関与している、という実態がある。

隣接権が付与されれば、こういう形の著作権管理はやめるのか、といえば、出版社はそのようには考えておらず、現状において行っている著作権管理はそのままとして、もうひとつ新しい武器として著作隣接権が手に入る、というつもりのような印象を受けている。

今回の立法の提言は、デジタル時代における著作権ビジネスの発展、という点からすると、どうしてこの時代にこのタイミングで隣接権の付与を求めるのかについては、詳しい説明を聞かないとよく分からない。まず、権利処理の対象を増やすことの是非、ということがある。たとえば、放送局などが、新しい出版物や新しいレコードが出たということについて、必ずしも報道に該当しないような番組で紹介したい、というときに、レコードジャケットを映してよいか、という問題が既に存在する。今回提案されているような著作隣接権が認められると、本の表紙やページをめくったところを映してよいかというような、新たな問題が発生する。このように、著作物の利用の局面において権利処理の対象が増えてしまう、ということは事実としてあると思う。

出版者隣接権の行使と著作権者の意思との関係では、先ほどもCCJPの水野先生から指摘もあったが、著作権とは独立の権利だとすると、逆に、著作権者が権利行使をする意思がない(事実上黙認してもよい)と思っているときでも、出版社が独自に権利行使をすることを著作権者が止めることができない、という逆の意味での行き違いも発生しうる。そうすると、著作権者が容認するものについても、出版社が独自の判断で止めにいくことが許されるという状況になる。

出版者隣接権の範囲の明確化が必要だというのは当然の話であり、先ほど桶田先生も認めておられたが、たとえば「編集」とは何か?という問題がある。私は最初、出版者隣接権は、版面的なものに生じるのかと思っていた。しかし、漫画の生原稿をスキャンしたものと出版されたものはどこが違うのかよく分からず、単に原稿をスキャンをしてページをつけて書籍名をつけただけの行為を「編集」というのか?という疑問がある。そのあたりの権利範囲が明確にならなければ、「複製」といっても何が複製権の対象かが明らかでないということにもなるので、最低限、権利範囲の明確化は必要である。今の状態で、そのあたりの議論が不十分なままで立法を行ってよいのか、という疑問がある。

なお、著者が最終原稿を手元に持ってない場合は困るのでは、という指摘が反対説の中にはあるが、立法技術上の常識として、仮に隣接権が創設されたとしても、そのような権利が過去における出版物について遡及して適用されるものではないので、もし隣接権が創設されれば、著者のほうも今後は気をつけて最終原稿のデータをもらうようにすればよい話である。この点についていう反対論は、ある意味おおげさであり、誤導的なものであるように思う。

いずれにしても、今回の法改正の問題は、拙速に陥らないように、十分に議論を積み重ねた上で作業を進めていく必要がある。

[赤松健先生のコメント]

海賊版を何とかしたい、ということが隣接権付与の理由として表に出ている。海外の海賊版の大半が国内からアップロードされている、という話もあったが、アップロードを取り締まることと、海外のサーバにある海賊版を取り下げさせることは別の話である。漫画家も、海賊版対策は賛成だが、そのためだとすると、日本国内で立法しても海外に対しては、効果がないので非常に弱い権利である。隣接権が入った場合の予想不可能な問題も多すぎるので、むしろ、契約書で対処したほうがよいのでは?という気がしてしまう。

先日行われたニコ生での議論においても、海賊版対策もあるが、実際には、出版社に法律で担保された確固たる権利を与えて欲しい、というところに行き着くのでは、という話があった。それならば、出版社は正面からそのように説明したほうがよいのではないか。そうであれば、私は納得する気持ちになるし、大手の出版社には隣接権を認めてもよいと思う。ただし、小さくてすぐつぶれてしまうような出版社に自動発生的な隣接権を認めたところ、その隣接権が倒産後、未知の第三者に渡ることに対する不安感はある。また、今回の立法の動きにおいて、法案の骨子案ができているのになかなか公開されないことに対する不信感もある。そのあたりをもっと率直に議論したほうがよいと思う。

その後、登壇者を交えたパネルディスカッションとなり、1時間近くの議論が展開されました。そのパネルディスカッションの様子については、また後ほどご紹介します。

11月1日実施の「出版社の新しい隣接権を考えるシンポジウム」の資料を公開しました

2012年11月1日に実施した「出版社の新しい隣接権を考えるシンポジウム」で配布した資料を公表しました。

桶田大介先生 配布資料

・ 検討経緯 (これまでの検討経緯をまとめた資料)

・ 中間まとめ (印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会 第5回 配布資料)

・ 法制化について (印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会 第6回 配布資料)

なお、桶田先生ご提供の上記資料は、ウェブサイト上での配布許可をいただいていますが、
CCライセンスでの配布ではありませんのでご注意ください。

三村量一先生 プレゼン資料

・ 三村量一先生プレゼン資料

水野祐モデレーター プレゼン資料

・ CCJP 問題提起

こちらのシンポジウム告知ページにも掲載していますので、是非ご覧ください。

なお、当日のビデオについても近く公開予定です。

出版社の新しい著作隣接権を考えるシンポジウムのアンケート結果

2012111日にクリエイティブ・コモンズ・ジャパンが主催しインターネット・ユーザー協会(MIAU)が後援して行われた出版社の新しい著作隣接権を考えるシンポジウムでは、100名近い参加者が集まり、予定時間を30分超過して、熱心な議論が展開されました。

会場で配布したアンケートには34名の方が回答してくださいました。その回答結果の詳細はこちらからご覧いただけます。

プログラム中では、パネルディスカッションが面白かったと回答した人が75%以上を占め、その理由としては、赤松先生のご貢献もあり、本音ベースの議論が聞けたことがよかったとする回答が多く見られました。たとえば、パネルディスカッションでは、出版物への隣接権付与を求める動機として、海賊版対策という課題もさることながら、出版社の出版に対する貢献を認知し、その貢献に対して権利を付与して欲しいというのが本音である、とのコメントもあり、その貢献を認知する形として隣接権付与が最善の方法かについて、より深く検討すべきだ、との議論があました。また、74%の人がこのシンポジウムから多くのものを得たと回答しています。

出版物にかかる隣接権の付与についての意見は、

1) 強く賛成である ……………….. 0 (0%)

2) どちらかといえば賛成である ……5 (15%)

3) 中立である …………………….5 (15%)

4) どちらかといえば反対である ……8 (23%)

5) 強く反対である ………………..12(35%)

6) なんともいえない、分からない …..3 (9%)

7) 無回答 …………………………1 (3%)

と多様であり、回答者の中ではどちらかというと反対・強く反対の合計が58%となっています。コメントとしては、賛成の方からは「何らかの権利が出版者にあるべきと思う。契約書で行うOR譲渡権etcは理想で現実的に無理」「隣接権であれば運用していくことは可能だと思う」などの意見が出されました。反対の方からは「効果として期待される点と問題点として想定される点を比較すると新たな権利を創設すべきとは考えにくい。契約整備で対処可能では」「自助努力なく、お上依存のような気がする(対、権利付与推進者に対して)。著者の立場ですので、やはり不安感が強いです。」などの意見が出されました。

ただし、すべての立場の人が、この出版物にかかる隣接権の付与について、公の議論は必要である、ということで一致しています。コメントとしては、「事前に資料、情報が十分に開示され、それに基づいて議論すべきである」「法改正にあたっては利害関係人の摺合せが必要である」といった意見が出されました。

クリエイティブ・コモンズ・ジャパンでは、このようにインパクトの大きい法改正について、多様な意見があることを受け、拙速に結論を出すことなく、より広く代替案を含めた検討がなされていくことが望ましいと考えます。

この点を継続して検討する機会として、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンでは、1125日に明治大学で開催されるシンポジウムも共催していますので、是非そちらへもご参加ください。

第4回CCサロン:「フリーカルチャーとマネタイズ」のアーカイヴ公開について

先日の2012年10月20日(土)に開催された、第4回CCサロン「フリーカルチャーとマネタイズ」が、下記のサイトにアーカイヴされています。

http://www.ustream.tv/recorded/26298003

サロン当日は、ゲストでご登壇いただいた「Grow!(http://growmonth.ly/)」CCOのカズワタベさんとCCJPのドミニク・チェン、またご来場頂いた多くの参加者の方々との間で、フリーカルチャーの戦略とマネタイズの方法について非常に有意義な議論が交わされました。未見の方は是非ご覧ください。

なお、Grow!では、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンもコミュニティページをつくり、サポーターを募集しております。この機会に是非ご支援頂ければ幸いです。

https://growmonth.ly/ccjp/community

【開催概要】

第4回CCサロン 「フリーカルチャーとマネタイズ」
日時:2012年10月20日(土)16:00~18:00
場所:loftwork Lab
東京都渋谷区道玄坂1-22-7 道玄坂ピア10F
地図: http://www.loftwork.jp/profile/access.html

イベントの詳細は、こちらのエントリをご覧ください。

RiP!リミックス宣言 早稲田大学上映会 開催結果のお知らせ

RiP!リミックス宣言 早稲田大学上映会 開催結果のお知らせ
 
解説:永井幸輔(クリエイティブ・コモンズ・ジャパン事務局スタッフ)
司会:岡野直幸(クリエイティブ・コモンズ・ジャパン事務局インターン)

RiP!リミックス宣言 早稲田大学上映会

 

この上映会では、ローレンス・レッシグ、Girl Talkらが出演する映画「RiP! A Remix Manifesto」(カナダ、2007)に、福岡のアート集団ドネルモが日本語字幕を付けたドネルモ版「RiP!リミックス宣言」を上映しました。

映画上映後には、弁護士の永井から映画を踏まえた20分程度の解説がなされました。
 著作権の一般的な解説から始まり、CCライセンスのお話、CCライセンスを利用した作品群の紹介にまで話は及び、参加した学生の中にはメモをとっている学生も多くみられました。
 学部で著作権関連のゼミに所属している学生も参加しており、そのような学生から、オープンソースとCCライセンスの関係や、CCライセンスの営利利用に関しての質問も飛び出し、ディスカッションも大いに盛り上がりました。

ご来場頂いた方々からのアンケートでは、多くの好評を頂きました。
 多くの学生の方から、CCについて知る機会となった、CCに可能性を感じた、等のご意見を頂きました。皆様からのご意見、ご感想は、今後の企画の参考にいたします。

(文責:岡野)

ニコ生で『Rip!リミックス宣言』が上映されました!

8月5日・6日、ニコニコ生放送において、『Rip!リミックス宣言』(原題:「RiP: A Remix Manifesto」,監督ブレット・ゲイラー)の上映、「Happy Hacking Contents!」と題した討論会が放送されました(共催:MIAU)。
内容についての詳細は、こちらの記事(『Rip!リミックス宣言』がニコ生に登場!)をご参照ください。

当日は開演から多数の視聴者が集まり、最終的には、映画で延べ約8500人、討論で述べ約7500人ものニコニコ動画ユーザーにご来場頂きました。
5日は深夜という時間帯にもかかわらず多くの来場者を得たことは、皆様の著作権制度に関する興味・関心の大きさがうかがえる結果となりました。
また6日の討論会では、各界のゲストがリミックス文化や著作権法の制度について熱くディスカッションし、CCJPのスタッフも急遽出演いたしました。この日は視聴者に対してのアンケートも行われ、放送中には16000を超えるコメントも頂きました。このたび放送中に頂いたコメントは、CCJPでも今後の参考とさせて頂きます。
ご視聴くださった皆様、ありがとうございました!