オープン教育プラクティスのメリットを示す好例に、スロバキアの最近のOpen Government Partnership (OGP)の誓約がある。スロバキアOGPチームは、スロバキア語で利用可能なオープン教育リソースを整理している。スロバキアのOGPチームはCOVID-19に伴い学校が閉鎖された際に速やかにリソースの概観の進行中のバージョンをソーシャルメディアを通じて公開した。これはスロバキアOGPチームのFacebookの投稿で最も人気の高いものとなった。教師と生徒の親は、リソースに即座にアクセスし、加工し、自由に再利用することが非常に有益であることに気づいた。このインパクトは現在の危機が去った後も長く持続するのではないだろうか。
Open Government Partnership(OGP)は政府のリーダー、市民社会の推進者らが一丸となり、より透明性が高く、説明責任が担保でき、即応性のあるガバナンスとサービスを市民に提供することを推進している国際的な組織である。OGPには(20億人を代表する)78か国の政府と数千の市民社会組織と緊密に連携をとっている地方自治体が含まれる。OGP政府と市民社会メンバーは協力し、幅広い課題に取り組むための具体的な公約を持った2カ年行動計画を立てている。これにより市民社会組織は政府の仕事を方向づけ、監視することが可能になっている。
ポーランドにおいて60万の教師と480万人の生徒を対象とする2万4000の学校で遠隔授業モデルへの移行が素早く行われる中で、NGOはオープン教育リソースを用いることで教師の授業への取り組みを即座に強化することができた。ポーランドの国民教育省の(OERである)電子教科書の教育プラットフォームは、以前は教師の間では十分に活用されていなかったが、即座に、制限なく利用可能であったことから、重要なかつ十分に活用されるリソースとなった。ウェブサービスのLessons on the Web(Lekcje w sieci)は3週間のうちに、すべての教育レベルにあわせた200を超えるOER授業シナリオを作成した。
ノルウェー政府、UNESCO、UNHCRおよび複数の営利組織や非営利組織がオープンライセンスの子供向けの本(OER)の翻訳を支援することで提携した。このプロジェクトはTranslate a Storyと呼ばれ、子どもたちがパンデミック中そしてパンデミック後も読み続けられるよう支援することを目的としている。
OERを支援している国際的な枠組み
OERとオープンガバメントの取り組みに強い交点があることを多くの国々が認識している。ここ10年間でチリ、ギリシャ、ルーマニアといった多くの国々が、透明性、説明責任、市民の参加、教育システムでの多様性の受け入れ、財政の説明責任、公共サービスの改善といったOGPの目標に取り組むためにOERの取り組みを活用してきた。9つのOGPの誓約がオープン教育リソースの利用を通じていかにOGPの目標の達成を支えているかについて、このサイトで読むことができる。2019年のOGP Global Reportでは2018年の終わりには少なくとも160の教育についての誓約があったと報告している(教育の章 6ページ)。教育の章では、従来の資料では法外な価格が設定される可能性、オープンソースの資料は常に最新の状態に保つことができること、より高い学生のパフォーマンス、等を含むOERを選択するべき理由がとりあげられている(23ページ)。
オープンな政府の取り組みに加え、各国政府、国際的・地域的組織は、OER、そしてオープン教育の目標を支援する国際的なフレームワークのもとに協力することのポテンシャルを認識している。2019年の11月にUNESCOはオープンでインクルーシブ、かつ参加型である知識社会を構築するためにUNESCO OER 勧告を全会一致で採択し、勧告を支援するために連携をとった政府、市民社会、民間企業の専門家から構成される連合体(ダイナミック コアリッション)を設立した。OER勧告はSDG4の取り組みと非常にうまく合致するもので、オープン教育が「インクルーシブで公平な質の高い教育」と「すべての人が生涯に渡って学習する機会」を支援することができることを強調している。
国際的には、博物館の利益となるような強制的な制限・例外規定を設けた明確な国際的フレームワークは存在しない。これはつまり、自国の著作権法に博物館にやさしい制限・例外規定を設ける義務がないことを意味し、実際に多くの国々では設けられていない。Dr. Lucie GuibaultとJean-François Canatが主導した博物館を対象とした制限・例外規定に関する2015年のWIPOの調査は、制限・例外規定は法的管轄域によって大きく異ることを示した。WIPO加盟国のうち博物館に特化した制限・例外規定を設けている国は3分の1以下で、3分の2の国は博物館が一般的な制限・例外規定とライセンスによる解決の両方またはいずれかに頼るに任せている。特化した例外は保存を目的とした複製、展示カタログでの作品の使用、作品の展示、孤児作品の使用を含む。一般的な例外は教育目的での利用または個人利用を含む。WIPOの2019年のRevised Report on Copyright Practices and Challenges of Museumsでは、制限・例外規定はその法的な不確かさが災いしてしばしばよく理解、利用されていないとしている。
The William and Flora Hewlett Foundation(ヒューレット財団)はCCの長年のサポーターであり、共に考えてきたパートナーである。私達は財団の代表であるLarry Kramerに財団の慈善活動におけるオープンアクセスの価値と、オープンムーブメントについて彼が考える将来像を語ってもらった。
Larry Kramer:オープンネスは私達の中核的な指針のひとつです。私達は、知識や経験、課題と成果を他の人と共有することが信頼を生み、どのように改善していけるかのアイデアを引き出すきっかけになると考えています。私達は継続的な学習に重点をおいており、オープンアクセスはその目標を達成するための重要なパーツであると考えています。
Larry Kramer:ヒューレット財団は、私達の経験から学ぶことができるように、助成金に関係する情報をオープンライセンスのもとで提供するというポリシーを長らく持っていました。私達は、外部に委託した評価報告の他、私たちの戦略文書、個々の助成に関する非機密情報を共有しています。2014年には、例外的な状況を除き、助成金で作成された資料も含むようにオープンライセンスへのコミットメントを拡張しました。基本的な決定を下すことは難しくありませんでした。私達はオープンネスやそこから生まれる価値を信じているので、私達の資金援助によって作り出されたものにも私達自身が作り出したものにもその原則を適用することは自然なことに思われました。しかし同時に、私達は、異なる業務モデルを持つ組織による、様々な文脈での、多様な分野の取り組みを支援していることから、包括的なルールを適用してしまうと上手く行かないことも知っていました。たとえば、このようなポリシーが与える影響は、シンクタンクに所属している研究者と、舞台芸術団体に所属しているアーティストとではかなり異なってきます。そこで私達はこの件について吟味し、組織内そして助成金の受け取り手との会話を積み重ね、意図せずして助成金の受け取り手が傷ついたり負担を抱えるないようにポリシーを策定した後ではじめて、実行に移しました。この話し合いのプロセスが完了した時、私たちはプロジェクトの助成金のための新たな言葉と、受け取り手がこれらの条件をどのように満たせるのかを理解するためのツールキットが出来上がりました。
小さなセンターで収益性のある商品を作り、地元マーケットで販売し、個人の所得を得ているNairobi Young and Old Cooperative(ナイロビ若者と高齢者協同組合)の女性メンバーたち。彼女たちはDSW(Deutsche Stiftung Weltbevoelkerung)の支援をうけている。 Image by Jonathan Torgovnik/Getty Images/Images of Empowerment, June 2014 (CC BY-NC).
Larry Kramer:世界11カ国の女性の画像2000枚がオープンライセンスで収められているImages of Empowermentは確かな事例の一つです。ビジュアルは偏見を生むことも変えることも可能であり、行動につながることもある、ということはよく実証されています。数年前、「グローバルディベロップメントと人口」助成金プログラムに携わるプログラムオフィサーの一人は、私達の発展途上国の女性に対する「見方」を変えたいと考えていました。私達はGetty Imagesと協力し、女性が意思決定をし、所得を得て、自身と家族のために生殖に関わる医療とサービスを受けているところを写した、新たなストックフォトのコレクションの作成に資金を提供しました。これには2つの目的がありました。1つ目は、女性の生活をより正確に、ポジティブに表現すること、2つ目は、画像を公共物とし、非営利団体が自由に利用可能とすることです。私達は利用と再利用を促進するためにはオープンライセンスが必要であると認識していました。非営利団体は、自らの活動内容を伝えたり影響力を示すにあたり、手頃な価格で、簡単に画像にアクセスすることができない場合がほとんどです。これらの写真には、このような活動を担う活動家と、これらの出来事をカバーしている報道機関、どちらにも足りなかったものを補充する意図がありました。その後David and Lucile Packard Foundationもコレクションに写真を追加し、現在ではこの画像セットにはコロンビア、ガーナ、インド、ケニア、ペルー、ルワンダ、セネガル、南アフリカ、タイ、ウガンダ、アメリカ合衆国の、コミュニティ内で働き、活動している女性の高品質なエディトリアル用画像2000枚を含んでいます。
Larry Kramer:オープンアクセスポリシーを採用するにあたって、躊躇してしまう原因が少なくとも2つがあります。そしてどちらも慈善団体に限ったものではなく、より広くあてはまるものかもしれません。1つ目に、オープンライセンシングについての理解不足があります。オープンライセンシングとは何で、なぜ重要で、どのような仕組みなのか。オープンアクセスは多くの組織のリーダーにとって全くの新しいトピックです。2つ目に、組織またはその助成金の受け取り手のカルチャーにこのような新しい優先課題を課すことへの躊躇もあります。真にインパクトのあるオープンアクセスポリシーは、法務部の専門的な補助から、組織のウェブサイトで使う画像の選定を行うコミュニケーション部門まで、その組織の全ての部署と関連します。チェンジマネジメントは常に難しいものですが、ここまで広範囲に及ぶ変化は負担の大きな取り組みとなることがあります。
Larry Kramer:COVID-19の世界的なパンデミックは、世界的に教育と基礎的な医療へのアクセスを悩ませてきた長年にわたる不平等を拡大させ、またその不平等に光を当てました。同時に、人々が協力して取り組み、共に学び、お互いの考えの上に積み上げていけることの重要性も示しました。2020年に起きたあらゆることを受けて、公的な資金を受けた研究と教育資料にオープンライセンスを適用するポリシーを世界中の国々が採用したら素晴らしいですね。遠隔学習を用いる必要がきっかけとなって明るみに出た学習教材へのアクセスについての危機的状況を考えると、OERの作成と利用についての教育機関によるサポートは増加するでしょう。公共の利益となる取り組みや成果物が市民によって所有され、人々によって自由に利用できるように、他の財団がオープンアクセスポリシーを採用し、共に貢献することも私達は歓迎します。
クリエイティブ・コモンズはこの重要な節目に非常に感激している。私達は15年以上の間、UNESCO、Commonwealth of Learning、そして複数の国の政府・関係機関のパートナーと共にオープン教育に取り組んできた。クリエイティブ・コモンズは2012年UNESCO OER宣言、2019年UNESCO OER勧告の両方で草案作成委員会の一員であった。2015年には、クリエイティブ・コモンズはUNESCOと共に、UNESCOのオープン アクセス レポジトリに取り組んだ。また、クリエイティブ・コモンズは2017年に行われたUNESCO OER Global Congressに参加し、基調講演を行った。
クリエイティブ・コモンズは文化遺産所蔵施設向けに、オープンアクセスに関する研修・教育活動をより多く提供することに努めている。また、Wikimedia Foundationと連携し、2020年5月のGlobal Summitで公開予定のDeclaration on Open Access for Cultural Heritage(文化遺産のオープンアクセス宣言)の作成を行っている。この活動に参加したい方は@openglamまでご連絡を。
レファレンス
1. Pavis, Mathilde and Wallace, Andrea, Response to the 2018 Sarr-Savoy Report: Statement on Intellectual Property Rights and Open Access Relevant to the Digitization and Restitution of African Cultural Heritage and Associated Materials (March 25, 2019). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3378200 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3378200